2-8


 紫色の体色にべとべとした粘液がからみつく身体。六本足に四つの腕。妙にでかい頭からは二本の触角が伸び、四つの目がギョロリと相手を睨み、顔いっぱいにまで広がった大きな口からは吐き気をもよおす臭気が漂っていた。

 お世辞にも美しいとも言えぬ、その姿をもった者こそ、件のジナビア星人の特徴であり、このジナビア星人のUFOの操縦席兼司令部はそんなジナビア星人共が、ねちょねちょと汚らしい音とそれにふさわしい腐臭を漂わせながらひしめき合っていた。


「司令。宇宙船が所定の位置への移動を終えました」

「よぉ~しよし。地球人共の抵抗はどうか?」


 司令と呼ばれた、ジナビア星人の中でも大きめの身体をもった者が、頭の触角をせわしなく動かしながら部下に聞いた。


「それが、大方の予想に反して、一切抵抗をしてくるような気配はございません。全宇宙ヒーロー協会の連中すら、何の抵抗も示しておらぬしまつです」

「ほぉ? それは妙な話だな?」

「まあ、ですが、制圧が楽でいいではありませんか。核ミサイルでも飛ばされてきては、また面倒でしたからね。シールドがありますからこちらの被害はないでしょうが、地球環境が汚染されてしまいます。そうなると、せっかく地球を手に入れても、汚染の除去から始めなくてはならなくなりますから、うっとおしいことこの上ありません」

「まったくだ。だからこそ、地球人たちにミサイルを使わせるような猶予を与えてはならぬ。よし。では早速、主要都市を――――」


 司令が作戦発動の命令を出そうとした、その時であった。


「司令! 何者かが我らの宇宙船へと向かってきます!!」

「ふむ。どうやら地球人共の抵抗が始まったとみえる」

「かもしれませんが……どうも、様子が変です」

「というと?」

「抵抗にしては、数が少なすぎます。一つの反応の後方にもう一つの反応があるだけです」

「むぅ? 確かにそれは変だな? だが、なにはともあれ、我らの意思を地球人共に示す良い機会だ。その反応に対して攻撃せよ」


 司令が頭の触角を部下に向かって伸ばしてみせた。


「了解しました。第一砲塔!! 向かってくる反応へ対して、熱線を発射せよ!!」


 部下が宇宙線内の通信機に向かってそう命令をくだすと、通信機から、


「アイ、サー!! 第一砲塔、命令を復唱します!! 向かってくる反応へと対して、これより熱線を発射いたします!!」


 という声が返ってきた。そして、数秒の後、キュイーーーン! という耳をつんざく高い音が響きだした。熱線が発射されたのだ。

 また数秒の後、ちゅどぉ~~~~ん!! という爆発音がUFOの外で響き、その音は司令部の中でも耳にすることが出来た。命中だ。だが、規律として、部下は通信機へ向かって問いかけた。


「第一砲塔!! 熱線は命中したか!!」


 すると、弾むような声と高らかな笑い声が通信機ごしから返ってきた。


「こちら第一砲塔!! 熱線は命中!! 繰り返す、熱線は命中!!」


 この言葉を受け、司令部にいるジナビア星人の面々は、互いの頭の触角を触角でなであいながら喜んだ。


「あの熱線をまともに受けて、無事であるはずがない。これで、我らの意思は地球人共に明確に伝わったことであろう。すなわち、服従か死かである!」


 司令が高らかに声をあげると、司令部の喝采は最高潮へと達した。だが、その喝采は長くは続かなかった。


「――?! しっ、司令っ!! 熱線を受けたはずなのに、反応が消えておりません!! 依然として反応がこちらへと向かってきます!!」

「なんだとぉっ?!」


 触角をぴーーーんっ! と張らせて驚く司令。


「はっ、反応が加速!! 接敵します!!」

「そっ、総員!! 対ショック!!」


 ずどぉ~~~~ん!! という衝突音と共に激しい揺れが巻き起こる。そして、司令部の天井の一部分が、ぼこぉっ! と崩落した。


「来るぞっ!! 警戒!!」


 緊張の糸が張りつめる――そして、崩落した天井の穴から、ひょこっと気の抜けた笑みを浮かべた少女の顔が現れた。


「えへへぇ♪ とぉ~~ちゃぁ~~~く♪」


 そう言って、穴からぴょこんっと降りてくるアーシェル。それに続き、身体中すすだらけで黒くなってしまっているミクが穴から落ちてくる。


「んにゃぁっ?!」


 どしぃ~ん! と豪快なしりもちをつくミク。それらを警戒態勢を維持したまま見つめているジナビア星人たち。普段のジナビア星人の流儀としては、穴から降ってきた少女たちに、六本の足のうちの一つに仕込んでいる光線銃の一斉射撃を浴びせているところだが、あの熱線を耐えた相手ということで、まずは様子見をしていた。


「ミクお姉ちゃんっ! ほらほら見て見てぇ~~~~!」


 いたたた……と、お尻を撫でさすっているミクの身体を、アーシェルがバカ力で力いっぱい揺さぶる。ふわわわわわわ?! と揺さぶられながらも、ミクはアーシェルに言われた通り周囲を見渡してみた。そして、周囲にいるジナビア星人の集団に気づき、


「うわぁ……」


 と、驚くよりも先にドン引きした。ジナビア星人がどんな風かは聞いていたけど、ここまで酷いなんて…………。


「ほらほらミクお姉ちゃんっ! 見るからに悪そうな人たちだよぉ! 汚くて臭くてべちょべちょしてそうで、存在価値なんて一切無さそうな悪人だよぉ!」


 むきぃ~~! と怒ってみせるアーシェル。記憶がなくなっていても、やはり醜いものは許せないらしい。というか、一般的な美意識を持つ者がジナビア星人を見れば、その醜悪さは生理的に受け付けぬことであろう。つまり、アーシェルの反応は至極まっとうな反応ということだ。


「ちょ、ちょっとあーちゃんっ! いっ、いくら本当のこととはいえ、そこまでハッキリ言っちゃダメだよぉっ!」


 あわててアーシェルの口をおさえようとするミク。だが当のミクの言葉も火に油だ。


「――おいっ!! きさまらっ!!」


 わなわなと身体と触角を震わせながら、ジナビア星人の司令が二人に怒声を浴びせた。


「さっきから黙って聞いていれば、好き放題言いやがって!! 我々が汚いだと?! 我々から見ればきさまらのほうが汚いわ!! なんだそのツルツルの肌は!! 非効率極まる二足歩行の低脳共め!!」


 大きな口から見るからに汚らしい粘液を飛ばしながら司令が二人に向かって絶叫する。まあ、美的感覚はそれぞれだろうが、だからといって、ジナビア星人の容貌が宇宙の人々に受け入れられかはまた別の話だ。


「う~わぁ~……汚いよ臭いよ醜いようるさいよいっぱいいるよ気持ち悪いようっとおしいよぉ~~~~!!」


 地団駄をふみながらびぃ~びぃ~と言い返すアーシェル。アホが考えつく限りの罵詈雑言を浴びせかけられ、司令はついに命令をくだす。


「ここまでコケにされて黙っていられるかっ!! 総員、あの醜い二足歩行獣に向かって、光線銃を斉射せよ!!」


 司令の号令のもと、司令部にいる全てのジナビア星人が六本足の一つの足をアーシェルへと向けた。そして、その足の先から青い光球が一斉に発射された。


「およぉ?」


 なになに? と首をかしげるアーシェルに、光球が着弾する。どどぉ~~~ん!! という爆発音と共に巻き上がる噴煙によって、アーシェルの姿は完全に覆い隠されてしまった。


「あっ?! あーちゃん~~~~!!」


 爆風から身を守りながらミクは必死になってアーシェルに呼びかける。しかし、そんなミクに向かって司令が、


「はぁ~~~~~っはっはっはっ~~~~~~~~!! 無駄だ無駄だ!! これほどの数の光線銃の斉射をうけ、無事でおられるはずがない!!」


 と自信満々に高らかに笑いながらそう告げた。そ、そんな……あーちゃん……。うなだれてしまうミク。そんなミクに向かって、ジナビア星人共が、六本足をわしゃわしゃと動かしながら、うじゅるうじゅると音をたてて迫ってくる。


「ひっ……?! いやぁ!! こないでぇ!!」


 ああ、なんという状況か。もしこれが薄い本なら、まちがいなくこの後、ミクはジナビア星人共によって、とても言葉にできないようなひどい目にあわされてしまうことであろう。ところがどっこい、これは薄い本の物語なんかじゃありません。


「しっ! 司令っ!!」


 ジナビア星人の部下が、先ほどアーシェルがいた噴煙巻き起こっている場所を指さした。


「なんだ?」


 司令が目を凝らしてみると、噴煙の中に影が見える。やがて、噴煙がおさまっていくにつれ、その影の主が噴煙の中からその姿を現し始めた。


「なっ……?! そっ、そんなバカなっ……!!」


 恐れおののく司令。それもそのはず、噴煙の中から現れたのは、


「けほっ、けほっ……」


 と、可愛くむせているアーシェルの姿だったからだ。しかも、無傷である。


「きっ、きさまっ! い、いいい、いったい何者だ! あの熱線の照射をまともにうけ、さらには光線銃の斉射をまともにうけて傷一つつかぬなど、そんな化け物がいるなど、聞いたことがないぞ!!」


 この化け物という言葉がいけなかった。


「むぅっ?! いま~なぁんて言ったのぉ~~~!!」

「化け物だと言ったのだ!!」

「むぅ~~~!! あーちゃん、化け物なんかじゃないもんっ!! 化け物はあなたたちだもんっ!! 化け物に化け物なんか言われたくないも~~~んっ!!」


 ぷくぅ! と頬を膨らますアーシェルの周囲が陽炎のように揺らめいていく。AMファイブ――アホがマジになる五秒前だ。しかし、そんなことに気づかぬ司令が、トドメと言わんばかりに、


「やかましい!! この醜い二足歩行の化け物め!!」


 とアーシェルに向かって吐き捨てた。すると、アーシェルの周囲の揺らめきが、ぴたっと収まった。


「……あーちゃん……化け物なんかじゃ……ないもぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~ん!!!!」


 轟!! というすさまじい風圧と共に、アーシェルの叫びがこだまし、きーーーーん、という耳鳴りがミクの耳に襲い掛かる。


「あっ、あーひゃん……おっ、おちちゅい、ひぇ……」


 三半規管にしたたかなダメージを受けて、世界がグルグル回っているなか、なんとかアーシェルをなだめようとがんばるミク。だが、そんなミクを見て、アーシェルはますますご立腹。


「ほらっ! ここがあ~んまりにも汚くて臭いから、ミクお姉ちゃんがふにゃふにゃになっちゃってるよぉ! もう、あーちゃんは怒ったっ! 怒ったぞぉ!」


 右腕をぶるんぶるん回して怒るアーシェル。


「お、怒ったからなんだというのだ?!」

「あーちゃんはねぇっ! 最初は、手のひらでぱち~んってするくらいで許してあげようかと思ってたのっ!! でも、もうあーちゃんは完全に怒ったのっ!! だから、グーでいくよっ!! グーでぇっ!!」


 そう宣言したところで、ぶるんぶるん回していた右腕を司令へ向けて、


「えぇ~~~~~~いっ!!」


 と掛け声をかけると、アーシェルの右拳から虹色のエネルギー波が、司令に向かってとてつもない轟音をともなって勢いよく噴出した。


「ひっ?! ひぃぃぃ!!」


 悲鳴をあげながら、かろうじて身をかわす司令。しかし、司令の身は助かったが、司令が身をかわしたことで、虹色のエネルギー波が司令部の中心の柱の中にある、宇宙船の動力炉に命中してしまったのである。ぶすぶすと音をたてて煙が巻き起こりはじめる動力炉。


「しっ、司令!!」

「いぃいいい、いかんっ!! 総員!! 伏せろぉ!!」


 司令の号令で身を伏せるジナビア星人共。ミクはそれを見て、あわわわわわ!! と事の重大さに気づき、ジナビア星人共にならって急いで頭をおさえて身を伏せた。


「もぉ! なんでよけちゃうのぉ!」


 アーシェルが頬をふくらませて地団駄を踏み出した、その瞬間――――。

 動力炉がまばゆいばかりの閃光をはなったかと思うと、ちゅどどどぉぉ~~~~~ん!! と大爆発をおこした。


「ふにゃ?!」


 爆風をもろにくらって吹っ飛び、猛烈な勢いで壁にたたきつけられるアーシェル。普通の人間なら、間違いなくミンチになってしまってるような一撃だ。


「あっ、あーちゃあぁぁ~~~~~~ん~~~~~!!」


 頭をおさえて爆風に耐えながら、必死にアーシェルの名前を叫ぶミク。すると、すぐに、


「なぁにぃ、ミクお姉ちゃ~ん♪」


 ミクの耳元でアーシェルの声が返ってきた。ふぇっ?! と、おそるおそる声のしたほうへと視線を向けると、何事もなかったかのように、えへへぇ♪ と笑っているアーシェルの姿がそこにあった。


「あっ、あーちゃんっ! なんともないのぉ?!」

「うん~♪ ちょっとびっくりしたけど、あーちゃん、なんともないよぉ♪」


 えっへんっ♪ と胸を張るアーシェル。

 ほんっとに……あーちゃんって、頑丈なんだなぁ……。呆気にとられるミクだが、宇宙船のやかましい警報音がミクをすぐに我にかえらせた。

 動力炉がふっとんでしまったことで床に巨大な風穴があいてしまい、そこから宇宙船内の空気がびゅぉぉぉおおお~~~~~!! と激しい音をたてて吸い込まれているのだ。


「司令!! 予備動力のおかげでなんとかまだ浮くことはできておりますが、このままでは墜落は確実です!!」

「猶予はあとどのくらいかっ?!」

「およそ、十分くらいかと!!」

「かろうじて脱出できそうだな……よし、総員、脱出艇へと急げっ!! ぐずぐずするなっ!! 総員退避~~!!」


 わぁわぁと逃げ惑うジナビア星人共。いたるところで爆発音を響かせながら、大きく揺れる宇宙船。


「えぇっ?! 後十分で、墜落しちゃうのぉ?! にっ、逃げなくちゃっ!! で、でも――どこに~~~?!」


 あわわわわわわ!! と涙目になってオロオロするミク。そんなミクを見て、司令が、


「ふんっ! 忌々しいが、地球への侵攻作戦はしばらく延期するとしよう!! だが、覚えておけよ!! 我々は、必ずまたやってくる!! いいか!! 必ずだぞっ!!」


 触角をずびしぃっ!! とミクへと向けてそう吐き捨てた。そして、すでに退避を終えた部下たちにならって脱出艇へと向かおうとしたところに、


「こらぁ!! どこいくのぉ!!」


 と、アーシェルが頬をふくらませて司令の前に立ちふさがった。


「どこにいくもクソもあるか!! どけっ!! そこをどけっ!!」

「い~~や~~~だ~~~!! 悪人をやっつけなきゃ、あーちゃん、ご飯がたべられないもんっ!!」


 ぐごぉぉぉぉぉぎゅるるるるるるるっ!! と、辺りの騒音にもひけをとらない、アーシェルの腹の虫が自己主張をする。


「ご、ご飯だぁ?! この低脳が!! 死んでしまってはご飯を食べるどころではないだろうが!! このままだと、宇宙船が墜落してオレもきさまらも爆発に巻き込まれてオダブツなんだぞ!!」

「ふ~んだっ! あーちゃん、爆発ぐらいなんともないもぉ~~~んだっ!」


 べろべろべ~~~! と舌を出して言うアーシェル。そんなアーシェルに司令が、


「きっ、きさまはそうかもしれんが、オレやきさまの仲間はそういうわけにはいかんのだ!! ほら、見ろ!!」


 右の触角と右の二本の手でミクを指す。涙目になってカタカタ震えているミクに、アーシェルが首をかしげながら、


「うぅん? 爆発しちゃうと、ミクお姉ちゃん死んじゃうのぉ?」


 あうあう、と涙目でうなずくミク。それを見たアーシェルは、両手をいっぱいに広げて驚いたリアクションをした。


「にゃわぁ! それは大変だよぉ! 急いで、ここから出よぉね~~~!!」


 そう言うアーシェルを見て、司令は安堵の息をはいた。やれやれ、これでオレも脱出艇へと向かえるぞ。

 だが、アーシェルは司令の前から移動せず、なんだか考え込むように顔をうつむかせた。


「お、おいっ! 逃げるんじゃないのかっ?!」


 司令が必死にアーシェルに呼びかける。しかし、アーシェルは司令の呼びかけにこたえることなく、うつむいたまま右の人差し指を口にくわえて一言。


「でもぉ……悪人をやっつけないと……あーちゃん……ご飯食べられないよぉ……あーちゃん、お腹すいて死んじゃうよぉ……」


 ぐごぉぉぉぉぉぎゅるるるるるるるっ!! というアーシェルの腹の音を合図に、司令とミクは盛大にずっこけた。


「き、きさまは他人の命よりも自分の食い気のほうを優先するのか!!」

「そんなこといってもあーちゃんお腹すいたもんっ!! あーちゃんご飯食べなきゃ飢え死にしちゃうもんっ!!」


 びぃ~びぃ~とわめきたてるアーシェル。


「あっ、あーちゃん! だっ、大丈夫だよぉ! お姉ちゃんが、あーちゃんがお腹いっぱいになるまでご飯つくってあげるから、早くここから出ようよぉ!」

「ほっ、ほんとぉ?!」


 びしゅんっ! とミクの横に瞬間移動をしてきて、よだれを垂らしながら微笑むアーシェル。びくぅっ! と驚きながらも、


「うっ、うんっ! いっぱい、いっぱい、お姉ちゃんがおいしいご飯を作ってあげるよぉ!」


 と、必死にうったえかけるミク。すると、アーシェルは嬉しそうに飛び跳ねながらミクに言った。


「うんっ♪ わかったよぉ♪ それじゃあ、ここから出よぉねぇ♪」


 そう言うなり、床をグーパンチで、えいっ、と殴るアーシェル。ずごぉおおおん!! と轟音が響き、床にはぽっかりと大きな穴があいた。


「それじゃあお姉ちゃん――しっかりつかまっててねぇっ♪」

「う、うんっ!」


 ひしっ! と死んでも離すもんかとアーシェルの背中におぶさるミク。あまりにも必死にぎゅぅ! としがみついているせいで、ミクの巨大なマシュマロがアーシェルの背中でむにゅぅと押し広がる。


「えへへぇ♪ お姉ちゃんのおっぱい、きもちいいなぁ♪」

「あっ、あーちゃんっ! それどころじゃないよぉ!」


 顔を真っ赤にしながらも、アーシェルに早くここから出ていこうと促すミク。するとアーシェルは、


「はぁ~いっ♪ それじゃあ、行こうねぇ♪」


 と言い、早く行ってくれよとイライラしている司令に向かって、


「汚い悪人さん、それじゃあねぇ♪」


 アホならではのムカつく捨てゼリフを残し、ミクを背負って、ぴょんっ、と床の穴へと飛び込んでいった。

 ふう……時間的に、危機一髪といったところだな。さて、脱出艇へ急ぐか、と司令が駆けだそうとした、その時――――、


「ミクゥゥゥゥ~~~~~~~~~~~!!!!」


 愛娘の安否に焦燥の咆哮をあげながら、レナードが天井をぶち抜いて現れた。その天井の破片が司令にクリーンヒットし、


「ふげっ?!」


 と情けない声をあげ、司令がその場に倒れる。しかし、レナードはそんなことなど露知らず、力の限り愛娘の名前を叫び続ける。


「ミクッ!! どこだ、ミクッ!!」


 宇宙船はすでに崩落寸前といった様相を呈していた。いったい全体、どこのどいつがジナビア星人の宇宙船にこのようなダメージを与えたかはわからぬが、まずはミクの安否を確認しなければならぬ!

 きょろきょろと辺りを見回すレナード。しかし、ミクの姿どころか、ミクを連れ去ったアーシェルの姿さえ見えぬ。ひょっとすると、先にここから脱出したのか?

 急いでポケットからスマートフォンとよく似た形をした端末を取り出すレナード。これは全宇宙ヒーロー協会によって製作された、様々な機能が搭載された総合情報機器である『ヒーローフォン』だ。もちろん、スマートフォンのように会話もできるが、レナードは会話をするためにヒーローフォンを取り出したわけではない。

 ヒーローフォンを操作するレナード。すると、ここら一帯の地図が画面に表れ、その画面の中に赤い光点が全宇宙ヒーロー協会・地球支部のビル近くで光っていた。この赤い光点が何かというと、これはミクの現在地を示しているのだ。つまり、レナードはヒーローフォンのGPS機能を使い、ミクの所在を確認していたというわけである。


「よかった……どうやらミクは、うまく脱出していたようだな……」


 ほっと胸をなでおろすレナード。その時、ぶっ倒れている司令の姿がレナードの視界の中にはいった。


「むっ?! こいつは……!!」


 またヒーローフォンを操作しはじめるレナード。そして、宇宙の御尋ね者の顔写真一覧を呼び出し、ジナビア星人のタグをタップした。すると、司令の顔写真がそこにあった。


「おお!! こいつはジナビア星人共の中でも一番の筆頭悪ではないか!!」


 レナードは意気揚々と、ヒーローフォンを倒れている司令に向けた。そしてヒーローフォンを操作し、捕縛用電磁ネットを発射した。バチバチ!! と何かが爆ぜるような音をたてながら、司令に電磁ネットが絡みつく。これにて連行準備は完了だ。


「思いもがけず、地球の危機を退けることができたわけだが……」


 いったい、誰がジナビア星人共を撃退したのだ?

 首をかしげるレナード。まさかアーシェルがこのようなことをするはずもなし……。

 どどぉぉぉ~~~~ん! と大きな爆発音と同時に宇宙船が大きく揺れた。


「どうやら、考えておる暇はないようだな!!」


 ともかく、今はいち早くこの場から離れるが先決と、レナードは自らあけた天井の穴から、電磁ネットで捕縛した司令を引き連れ、宇宙船から脱出するのであった。

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ギャラクシーガール・アホカリプス 日乃本 出(ひのもと いずる) @kitakusuo

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