余談

 白の入社が決まり落ち着いた頃、事務所のロビー(カフェの客席のようなところ)で白、律、大翔、瑠実の四人で世間話をしていると、良助が話に入ってきた。



「話しているところ悪いな。白のコードネームを伝えに来た」


「コードネーム?」


 白が不思議そうに首を傾げる。その様子に大翔が説明を付け足してくれた。


「うちの探偵社ではそれぞれコードネームがあるんですよ。本名がばれると面倒な仕事とか、たまにあるんで。ちなみに僕はヘンゼル。それで――」


「あたしがグレーテル」


 瑠実がそう大翔に代わって答える。白は二人のコードネームが妙にしっくりきて頷いた。互いに助け合う童話の主人公の名前に、二人はふさわしい。


「童話に関する名前なんですか?」


 白の疑問に律が頷く。


「そうだよ。僕はハーメルン。由貴君はマッチ売り。礼都さんは雪の女王に出てくるカイ」


 白は由貴のコードネームに眉を顰める。


「マッチ売り……?」


「マッチ売りの少女からとったらしいよ。マッチ売りの少女には名前がないから、マッチ売りっていうコードネームになったんだとか」


 笑いながら話す律に、白は不思議そうな顔をして頷く。何故、マッチ売りの少女にこだわったのだろうか。


「それで社長、白のコードネームは?」


 瑠実がワクワクした様子で良助に尋ねる。良助はニコリと笑うと言った。


「みにくいアヒルの子からとって、アヒルだ」


 かっこいいコードネームがもらえると思っていた白は、肩を落とす。律が慰めるようにその肩を叩きながらい言った。


「白君の場合、ハクチョウじゃないですか?」


「ハクチョウだと、みにくいアヒルの子が連想されないだろ」


 良助はそうニカッと笑うと、「話はそれだけだ」と手を振りその場を去って行く。落ち込む白を宥めるよう、大翔が声をかけた。


「まあ、名前のないマッチ売りよりかはいいじゃないですか」


「そうだけど……どうせならもっとかっこいい名前がよかった」


「ん~その気持ちは分からなくもない」


 瑠実の言葉に、白は「そうでしょ!?」と前のめりになる。その様子を見て、律と大翔は顔を見合わせて笑った。瑠実も白もそれにつられて笑う。にぎやかな、ある一幕だった。



 その後もいろいろと文句を言いながら、白は「まあ、コードネームをもらえないよりかはいいけど」と口角を緩ませていたのであった。

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探偵とみにくいアヒルの子 ――御伽探偵事務所へようこそ 猫屋 寝子 @kotoraneko

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