第17話 ジェリーフィッシュとメカ・クラブ

「うぎゃあああああああああ!!」


 ウィルは絶叫し、腹の口が俺に喰らいつくように大きく開かれる。


 さらにシャーク・ソードを喰い込ませる。その間、シャークライダーたちはウィルの触手に噛み付いてその動きを封じてくれている。


 やがてウィルは力尽きたのか、触手は崩れ去っていき、膨張していた体も元に戻っていく。それと呼応するように港を覆っていた青い膜も消失していく。


「残党を始末せよ! 1匹たりとて逃すな!」


 シャーク将軍が大声で指示を飛ばす。


 黒い海水も徐々に引いていき、半魚人たちも逃げ出そうとしていた。それをシャーク軍団たちが追撃する。


 邪神の下僕たちが殲滅させられるのに、そう時間は掛からなかった。


「シャーク元帥、御命令通りヤツらを1匹残らず喰らい尽くしました」


 シャーク将軍が俺に対して恭しく頭を下げる。

 その背後にはシャーク軍団が控えている。


「ありがとう、助かった」

「ありがたきお言葉でございます。閣下の御命令とあれば、我らはいつでも呼び出しに応えましょう」


 シャーク将軍は頭を上げる。


「時間ですので我らは失礼いたします」


 そう言うと、彼らの体は水蒸気のように霧散していった。召喚の限界時間がきたのだろう。


 周りの海水が完全に引いてしまうと、俺とウィルは埠頭の側にいることがわかった。

 仰向けに倒れているウィルを見下ろす。あとはコイツの始末だけだ。


「これで終わりだウィル!」


 俺の言葉に顔を引き攣らせるウィル。


「ま、待ってくれ! 命だけはッ!!」


 ウィルは懇願しながらズルズルと背後に這っていく。


「ここまでしておいて命乞いか!」

「仕方なかったんだ! やらないと僕がターコーに殺される!」


 ウィルの背中が建物の壁にぶつかる。


「だからってポールたちを巻き込んでいい理由にはならないぞ! お前のせいで子供が一人犠牲になっているんだ!」

「ひいいぃぃ!」


 俺は再びシャーク・ソードをウィルに突きつける。


「待って、フィン」


 アリアが呼び止める。見ると、彼女はゆっくりとした足取りで俺たちの方に歩み寄ってくる。その背後にはポールとシーラを介抱しているレミーの姿も見える。


 レミーは頷くとポールたちを別の場所に連れて行ってくれた。

 ありがたい。今のこんな姿をポールには見られたくなかった。


 アリアは俺に視線を向け、小首を傾げる。


「彼から聞いておきたいことがあるんだ。始末はその後でもいいでしょ?」


 頷くと、彼女はウィルに視線を向けた。その目には特に何の感情も込められていないようだ。


「ねぇ、ターコーに会ったんでしょ。アイツはどこにいるの?」


 ウィルは俺とアリアを交互に見回す。


「は、話せば、命は助けてくれるか!?」

「質問だけに答えて」


 アリアのその落ち着いた調子は逆に有無を言わせない迫力があった。

 ウィルは慌てて首を振る。


「い、居場所は知らない! で、でも、いつも暗闇の部屋で話していた。どこにでも現れる部屋だ! 船の中にも現れる!!」


 彼はその時のことを思い出したのか、ブルブルと身震いしている。


「じゃあ、その部屋以外で彼とは会ったことがないの?」

「……いや!」


 アリアの問いかけにウィルは心当たりがあるらしく何やら考え込む。


「ターコーと初めて会ったのは、あの部屋じゃなかった」


 彼はそう言って俺たちに視線を向ける。


「そうだ。ターコーはーーうっ!」


 何か言おうとしたウィルは突然、目を見開いて悶え苦しみだした。


「うっうっ! うげえぇぇ!!」

「おい、どうしたんだよ!?」


 喉を抑える彼の首筋にいつの間にか半透明の針が突き刺さっていた。

 その針は同じく半透明の触手に繋がっており、それは背後の建物の陰まで伸びていた。


「これはクラゲの針!?」


 アリアはハッと建物の陰を見る。


「八爪(はっそう)が来てる!!」


 アリアは鋭く叫び、触手が戻っていく建物の陰に駆け出していく。


 俺はしゃがみ込んで痙攣しているウィルの肩を掴む。


「おいウィル!」


 呼びかけるが、こちらの呼びかけには反応せず、糸が切れたように動きが止まる。彼の瞳は既に虚ろになっていた。


 一体何が起こったんだ?

 ターコーの新たな刺客が来たのか?


 それも、口止めする為に……?


 俺もアリアを追おうとした。その時、突然埠頭の下の海から水柱が立ち昇る。

 その中から激しい金属音と共に黒い巨大な何かが姿を現した。


 その怪物には巨大な2本の鋏が生えていた。

 それの正体は馬鹿でかいカニの怪物だ。


 俺は簡易召喚で迎え撃とうとするが、上手く発動できなかった。シャーク軍団を召喚したことで魔力が枯渇してしまったらしい。


『どうやら力を使い果たしたようだな、シャーク・サモナー』


 黒い巨大なカニの中から男の声が響く。

 その右の鋏が俺に近づいてくる。それは鋭い金属で覆われており、獲物に向けて開閉を繰り返している。


『無駄な抵抗はよせ。我がメカ・クラブからは逃れられない。大人しくしていれば四肢は無事だぞ』


 メカ・クラブ?

 そうか、コイツは巨大なゴーレム。魔術によって造り出された機械生命体。


 その金属の鋏から逃れようとするが、身体に力が入らない。


「フィン様!?」


 異変に気づいたレミーが駆け寄ってくるが、間に合いそうにない。


 鋏が俺を捕らえようと開かれた時、白い閃光が真上から走る。

 その閃光はメカ・クラブの鋏に直撃し、歪な金属音を立てながら切り落としてしまった。


 閃光が収まると、そこに誰かが立っていた。


「よぉ、無事か?」


 メカ・クラブと俺の間に庇うようにして立つ男は、最強海洋冒険者ジェイコブ・ステイザムだった。

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「お前、船降りろ」と置き去りにされた召喚士、覚醒して【Z級シャーク・サモナー】となる 〜邪魔するヤツは最強サメ軍団で喰い付くしてやる 一本坂苺麿 @shibuhumi12

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