第5話
後日、みのるは両親から、亡くなった双子の姉のことを聞いた。
自分から質問すると、驚きとともに姉のことを話しはじめた。両親の口から語られたのは、あの日夢で見た情景そのままのこと。
――どうして、知っているの。
そう問われても、何も答えられなかった。みのる自身にだってわからないのだから、答えようがない。――心当たりがなかったわけではなかったが。
アロマは、姉の魂から生み出された存在だ。亡くなった直後のことを何となく知っていたのかもしれない。それが、みのるの夢として現れたのではないか。
なんて考えたところで、非現実的すぎるじゃないか、とみのるは笑った。
それに、理由なんてどうでもいい。
どんな形であれ、姉がいることを知れたのだから、それでいいんだ。
自分を傷つけたくないという理由で、かけがえのない存在のことを黙っていた両親に対して、ちょっとばかしの文句と約束を取り付けたみのるは、家を出た。
「聞いてたんでしょ」
目に見える範囲には誰もいなかったが、みのるはそう言った。
すると、物陰からアロマが姿を現わした。どうやらずっとそこにいたらしい。
頭を掻きながら現れたアロマは舌打ちを一つして。
「気づいてたのか……」
「何となくね。あの時から、おねえちゃんがどこにいるのかわかるんだ」
「はあ? あたしにはさっぱりなんだが」
「わたしのことはなんにもわからないの?」
「わかるわけねえだろ」
「ふうん」
「なんだよ。得意げな顔して」
「なんでもー」
ふふんと肩を揺すったみのるに、アロマがやれやれとため息。
「でも、どうしてうちに来たの?」
「来ちゃ悪いのかよ」
「いや来てもいいけどさ」
「来てもいいのかよっ」
「どうしておねえちゃんが驚いてるのさ」
「そりゃあ、あれだよ。あたしは敵なんだぞ」
「でも敵だったら、わたしを見捨てたんじゃない?」
「あれは――たまたまだ!」
「たまたま」
そうだ、と声を大にしてアロマが言う。そんな大声を出したら、お父さんとお母さんに見つかっちゃうよ。みのるがそう思っていると、アロマがハッとなって声を潜める。
「いいなあ。わたしにはおねえちゃんが考えてること、わからないのに」
「うるせえっ! わかった方が困ることってもんがあんだよ!」
「わたしは知られても困らないけど」
「みのりが、あたしの心が読めなくて心底ほっとしたわ……」
「いやいや。心が読めなくともわかることがありますから」
「……言ってみろよ」
「わたしのことを心配してくれてるってこと」
言ったとたん、アロマの顔が真っ赤に染まった。プイっと顔が背けられる。
恥ずかしがっている。いつも強気なアロマが、照れているのはどこか新鮮だった。案外、押しには弱いのかもしれない。なんて心の手帳へと書いていると。
「帰る」
言うなりアロマは動き出している。
スタスタ歩き始めた彼女を、みのりは追いかける。追いかけられていることに気づいたアロマの足取りは次第に早くなり、ついには走り始めた。
「あ、ちょっと待ってよ!」
「じゃあ追いかけてくんなっ」
「じゃないと逃げちゃうじゃん!」
言い争いながら、姉妹は走る。
彼女たちの楽しげな声が、傷だらけの街を癒すように響く。
声は次第に近づく。言葉にせずとも、二人の距離が縮まる。
追いかけて。歩み寄って。
そして、お互いの手が触れ、繋がった。
白と黒が手をとりあうとき 藤原くう @erevestakiba
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