第2話___愛の日常と出会い

AM8:47

目覚めました。

歪んだ視界と曖昧でどこにいるのかわからない体の感覚。

相も変わらず、

微かに聞こえる今日も生きている人々が命を燃やしながら生活している音。

僕はこの五感を今日も呪いながら生きるのでしょう。

もうすでに死んだような感覚を身に纏いながら、今日も僕は息をします。




僕の部屋は二階にあるから、階段を下ってお母さんに挨拶。

「おぉはよ。」

「おはよういっちゃん。ご飯早く食べちゃいな。

今日有田先生来るらしいから。

一緒にいてくれるなら嬉しいけど、いなくても大丈夫だからね。」

たまに来る僕の担任の先生、有田先生。

筋骨隆々、元気発剌、という言葉が似合う人。

良い人だけど僕はあんまり好きじゃない。



ご飯を食べた後、散歩に出かけました。

散歩に行ってる間にチャチャッと来て帰ってくれないかな、とも思うけれど

お母さんはその時一緒にいた方が、後から機嫌がいいし、

その方がいいんだと思うから一応いることにしています。

靴を履いて外に出ると初夏六月、昼下がり、大きな木々達、

我が先とたくさんの青々しい葉が強い日差しを受け止めている。

その木漏れ日を縫うように僕は小さな並木を歩く


僕の家の通りの角を曲がったところにある公園は桜の木が並んでいて、

春には大いに努力してきたことを振うかのように白っぽい儚い花達が

咲き誇ります。僕には眩しすぎるほどに。


でもこの公園の人気はいつも下火。

もう少し遠くに行ったところに

もっともっと大きい運動公園と桜並木があるからです。

僕はこっちの公園がなんとなく世界に馴染めていないような

世界と逸れているような存在に見えて、

それに勝手に親近感を沸かせている。

こんなに綺麗に花を咲かせるこの木でも馴染めないこの世界は、

到底僕なんかが馴染めるはずがない、と日々思ってしまのです。


そんな桜並木の懐、目をキョロキョロさせながら道を行ったり来たりしている

おばあちゃんを見つけました。

僕のところに寄り付こうとするなり道の真ん中で丸い背中がさらに丸くなるように躓いてしまった。


「...だ大丈夫で、ですか。」

触覚が弱い僕は幼い頃から口内の感覚が掴めず、滑舌が悪い。

相変わらず、今日も悪いみたいです。

「あら。ごめんなさいね。」

おばあちゃんが慌てて言いました。

「大丈夫だたらも、もう行っきま、ますね。」

いそいそと引き返そうとする僕を引き止めようと

おばあちゃんが声をかけてきました。







僕が人生の走馬灯を見るなら、この場面が流れ込んでいるのでしょう。



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光るひと 凪瀬涙 @namidachan

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