光るひと

凪瀬涙

第1話

奪雨(だつう)と言う雨が降りました。

それは人類の存在したはずの運命を奪った、

と言われることから付いた名前でした。



僕は平日朝の7時から夕方の4時までの時間が嫌いです。

何もできないくせに、何かしなきゃ、と言う思いに駆られるからです。

ただの惰眠を貪りながら、

妥協して生きてしまっているという自分に心底腹が立つのです。

そんな僕に弱々しく遠くで訴えかける日常の生活音が

唯一僕がまだ生きているという感覚を実感させるようでした。

さしずめ、聞きたくもありませんが。



僕の名前は、愛と書いて「いと」と読みます。

今年で中学3年生になります。

僕は生まれつき全ての五感が弱いです。

五感が弱いのも、こんなに僕が惨めなのも、あれもこれも、全部奪雨のせいです。


奪雨は、人の五感を強くしたり、弱くしたりします。

この雨が降ったのは、80年ほど前の一回きりのことで

その雨を浴びた昔の人たちの遺伝によって僕たちは五感の強弱が違います。

奪雨を浴びなかった者は希少価値として大いに扱われ、

奪雨の影響を受けたか否かで差別化が容易に起こっています。



そして奪雨の影響を受けたものは、

それらを正常に戻す術は少なく、

治療しても治るのは数パーセントと言ったところです。


体質を変えるのは難しいことですが、

殆どの人は正常の五感に近づける薬を飲んで無理なく過ごせています。


僕は、大いに扱われる側でも、「殆ど」の対象者でもありませんでした。

様々な人が様々な薬を処方してもらい身体に合う薬を服薬していますが、

僕には未だ僕に合う薬を見つけられていません。

奪雨から時が経てば経つほど、人々は薬に免疫がついてしまうだろうというような事はありますがこのような事例は珍しくないらしく、

新薬がまだまだ開発される、らしいです。


これは、

自分が惨めだと思っていた僕とある人とが出会うことで

まあなんとか生きていけるかも、と思うようになったお話。






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