第8話 ばぁば
美狩は日差しでよく焼けた岩場に濡れた下着を置いて乾かし始めた。
「……こ、こういう展開になるとは思わなかった……。
な、なんか、私、おもらしで勝っちゃった気が……」
呆然と空を見上げていると
ルネを背負ったライフが空の果てから飛んできて近くに着地する。
美狩は慌てて濡れた下着を身体で遮って隠して
「ちょ、ちょー--っと待って!!」
ライフは拍子抜けした顔で
「なんだ?捨てないのか?」
真顔で長身から尋ねてくる。美狩は首を横に振り
「き、着替えまだないし!」
「服などいくらでも用意してやる」
「ほっ、ほんとに!?わ、私って、服屋さんにも行き辛くて……。
キラキラしている店員さんがほんっっと苦手で……」
美狩は途中まで何かを言いかけて、顔を真っ赤にして黙り込んだ。
ライフそんなミカリの様子を目を細めて見下ろしていた。
そのころ、世界の反対側で、ある異変が起きていた。
鬱蒼とした樹海の中に突き出るように聳え立つ
長さ数キロ高さ千メートルほどの巨大な岩山の山頂に
雲もないのに、空からとてつもない轟音を響かせ、稲妻が落雷した。
その衝撃で岩山の、ほぼ石で出来た山頂にはクレーターのような穴が開き
なんと、その中心部には、眠るように
簡素な着物姿の痩せた小柄な老婆が横たわっていた。
ショートの髪は総じて白く、頬は浅黒い。
老婆の懐から静かに、長い尻尾が八つに別れた黒猫がはい出てきて
ピチャピチャと老婆のこけた頬を舐め始める。
「ん……」
老婆は薄目を開け、黒猫の緑色の真ん丸な大きな瞳と目を合わせると
「……クロちゃん……」
と呟いて、また目を閉じようとした。黒猫が仕方なさそうに
「んにゃ、ばぁば、起きるにゃ」
老婆はいきなりカッと両目を見開くと、スッとその場に正座で座り込み
「……なんだ、いつもの夢かね。あんたが喋る時は夢じゃわえ」
そして、にっこりと笑いながら黒猫の長い八つに別れた尻尾を眺め出した。
黒猫もその場に座り込み、老婆を見上げ、首をゆっくりと横に振り
「違うにゃ。ばぁば、ここは夢じゃないにゃ。多分、今流行の
……いや、流行が終わって
一ジャンルとして定着した感のある異世界だにゃ」
少し得意げに老婆の顔を見上げた。
老婆はニコニコと笑いながら辺りを見回して
「そうかえ。あんた、夢で色々と解説してくれるもんねぇ。
それで、今日は私は何をすればいいんかえ?」
黒猫はしばらく辺りを見回して考える顔をすると
「……僕に乗るにゃ」
そう言って、いきなり巨大化した。
尻尾を除いた体長がもはや二メートルほどある黒猫は老婆の前へと伏せる。
すると、老婆はスッと立ち上がり、何の迷いもない顔で黒猫に乗った。
黒猫はゆっくりと立ち上がると、老婆が自らの首の辺りの毛を掴むのを待ち
静かに宙へと歩き出した。
「こりゃ、快適じゃわえ。今回は空を飛ぶんやねぇ」
老婆は実に愉快そうな表情で空の散歩を楽しみだす。
薄暗い宝物庫の中で
「あの、違うんですけど……」
何とも言えない顔の美狩は自分の恰好を見つめる。
ライフは驚い表情で
「……最高級のファッションだぞ?」
全体が金色と虹色に斑に発光しているポンチョを見つめる。
美狩の足元近くまで丈があるそれは、明らかにサイズが合っていない。
そして残念そうな顔で
「そのマントの前を開けないのか?」
美狩は激しく左右に顔を振ると
「わっ、私の身体なんて見ても仕方ないでしょ?
お肉がこぼれまくる……もんのっっすごい紐水着なんですけど……」
ライフはさらに驚いた顔で
「その緩んだ身体が良いのだぞ?
女性的なラインの増幅と、だらしなくも見える豊かなお腹
そして柔らかなヒップ……ダークエルフである私には手に入れられぬものだ……」
羨望の眼差しでジロジロと美狩のマントで隠れた体を見回す。
美狩は真っ赤になりながら
「ひ、皮肉で言ってる?太ればよくない?」
ライフは悲し気に頭を横に振って
「無理だ。そもそも我々エルフは簡単には太れない。
完璧な曲線と等身からは、本格的に老化が始まるまでは逃れられぬ」
美狩は胡乱な眼つきで全身を脱力させながら、ため息を大きく吐き
「ライフちゃんが……なんかねじれた変態願望を持ってるのは分かった……」
そう言って、さらにマントの前を紐できつく縛る。
最強チート魔王エルフのライフさんは勇者の能力を持って異世界転生したあの娘に勝てない 弐屋 中二(にや ちゅうに @nyanchuu2000
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