第7話 勇者の決断
岩場の上でライフが筋骨隆々としたルネにミカリについて説明しているのを
彼女自身は少し離れた位置から見つめていた。
王冠を外したルネの頭はスキンヘッドで、マントを外したシャツの中は
はち切れんばかりの筋肉が蠢いているのが分かる。
「うーん……つまり筋肉おバカキャラなのかな?
いや、違うかも。顔は良いよね。なんだろ、年を取った王子様って感じ?」
などとミカリは怪しげにブツブツと呟いていると、ライフがサッとそちらを振り返り
「美狩!ルネと戦えそうか!?」
爽やかな顔で尋ねてきて、ミカリは慌てた様子で顔を横に振る。
ライフはそちらへと駆け寄ると、美狩の両肩を掴んで
「あの程度の相手なら大丈夫だ。適当にこれを振ればよい」
長さ五十センチほどの太い木の枝を渡してきた。
ミカリは唖然とした表情で
「え……あの人、すごく鍛えてる感じだし……それになんで私が?」
髪に隠れた顔で長身のライフを見上げると
「勇者だからな。そろそろ実力を見せてもらわないと」
美狩はいきなり理解した顔で
「よ、よーし。ここはアレね。つまり、私の実力が世の中に……。
ちょ、ちょっと待ってええええ……」
ライフから抱えあげられて、美狩は立ち上がったルネの前へと連れていかれた。
そしてストンと降ろされると
「ミカリ、ルネはちなみにレベル275だ。魔力値は66万でミカリと良い勝負だぞ」
ライフはニヤリと笑ってそう言って、近くの大岩へと跳躍して
そこの上から対峙している二人を見つめだした。
鍛えている中年男のルネから見下ろされたミカリは
「あっ、あの……初めまして……ミカリです……勇者です……」
などと小さな声で自己紹介して頭を下げた瞬間に
ルネから発揮される殺気を感じて後ずさりし始めた。
ルネはスキンヘッドの下の眼光鋭い両目でミカリを見つめ
「嬢ちゃん悪いが、あの魔王ライフがなぁ、嬢ちゃん殺したら
俺の味方してくれるって言ったんだよ。ということで死んでくれるかぁ?」
「……ひっ、ひぃぃぃぃぃぃ………」
ミカリは涙目で真っ白な顔をしてその場に座り込んだ。
「ファイアウェーブ!!凝縮!はっ!!」
ルネの合わせた両手から容赦のない魔法の炎が襲い掛かる。
瞬く間に天まで伸びる炎の柱に包まれたミカリはその中に消えた。
ライフは大岩の上で
「……さあ、勇者の力を見せてみろ」
炎の柱から照らされながらそうつぶやく。
二十秒ほどしてすべてを焼き策しそうな炎の柱が消えた時
ルネも、大岩から見つめていたライフも目を疑った。
うつむいたまま座り込んだミカリの周囲には虹色の球体状のバリアが張られていて
かすり傷一つ、ついていなかった。
ライフは思わず手を叩いて大笑いしながら
「やはり伝説の通りだ!!ルナー神の加護が真の勇者にはついている!
残念だったなルネ!神の使徒に逆らった貴様は終わりだ!」
ルネは思わず後ずさりして
「は、はめたのか……偽勇者を退治しろと言ったろ……本物じゃないか」
そんなルネにゆっくりとミカリは顔を上げて、目を細めた。
ルネはゴクリと生唾を飲み込み、
蛇ににらまれたカエルのように怯えて動かなくなった。
ライフは大岩から飛び降りると、バリアが消えたミカリに駆け寄り
「ミカリ!!さあ!勇者の決断を下せ!!
このルネは私欲のために神の勇者を焼き殺そうとした!
生きる価値はもはやない!」
今度はルネが顔面蒼白になり
「くっ……ライフ!!ひ、卑怯だぞ!!他人に俺を始末させるのか!?」
ライフは不敵な笑みを浮かべ、座ったままのミカリを見つめている。
ミカリの口がゆっくりと動いて、ルネとライフは彼女の次の発言に
全身の神経を集中させた。そしてミカリは
「あの……ちょっとでも動いたら……」
と小さく呟いて、ルネが石のように全身を固くさせた。
ライフは狂喜の顔で次の言葉を待つ。そしてさらに口が動き
「……おしっこ出そうなんで……二人とも、遠くに行ってくれません?」
「……は?」「はぁ?」
ルネとライフは同時に拍子抜けした顔をする。ミカリは恥ずかしそうに俯いて
「……も、もう漏らすのは確定してると思うんですけど
な、何とか耐えている状況でして……えっと、見ないでくれます?」
ルネが何か言おうとした瞬間に彼はライフに抱きかかえられて
遥か遠くまで飛んで消えた。ミカリは安心した顔をした瞬間に
「……あ……」
と言ってブルっと全身を震わせ、そして何とも言えない顔で沈黙した。
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