マジックライトペン
あんこ
マジックライトペン
私が所属する研究開発部門では、機密保持のためにマジックライトペンと呼ばれる通常では見えない透明ペンを用いている。
マジックライトペンは蛍光ペンの一種であり、通常時は透明なインクのためペンで書くと何も見えないが、ひとたびブラックライトなどの紫外線を照射すると書いた文字が可視化されて浮き出てくる特殊なペンである。
今日もいつもどおりマジックライトペンで実験結果をメモしていると、隣の機器分析部門の同僚が何やら慌てた仕草をしていた。
いったいどうしたんだと聞いてみると、
「うちの部署の皆が倒れているんだ。救急車は呼んだんだが、原因がわからなくて」
「機器分析の人らが倒れているのはいつからだい?」
「僕がトイレ休憩から戻ってきてからだから、つい10分前のことだ」
「部屋に入ったときに何か異臭とかわかりやすい異常はあったかい?例えば薬品漏れみたいな」
「いや、薬品が漏れたときみたいな異臭はなかったよ。ただ、部屋に入った瞬間、肌にピリピリとした感覚はあった。あと、部屋のドアの近くにある検査室のカギが消えてたなぁ」
「そうか。鍵は誰かが返し忘れたんだろうけど、心配だなぁ。君も病院で診てもらった方がいいかもしれないね」
「そうするよ。心配かけて悪いな。」
話し終わると、同僚は具合悪そうに救急車が来るのを待っていた。
その夜、私はある目的を果たすべく機器分析部に移動していた。
一つは検査室の鍵を返すため。二つ目は実験材料を回収するためだ。機器分析部には数日前からある試供品を渡して検査を行ってもらっていた。試供品は、マジックライトペンと似た原理を利用しているが、一つだけ違う点がある。通常、マジックライトペンは紫外線発光を利用した蛍光現象を用いているが、この試供品は紫外線に反応しない。それどころか、可視光にも赤外線にも発光することはない。従って、通常では何も役に立たないペンだが、このペンは放射線を用いることで発光現象を発生することができる。同僚が機器分析部に来てからそろそろ二週間だ。体調に異変が現れるのも時間の問題だろう。
今日で機器分析部での検査も終わりだ。明日からは店舗での試供品提供に移るとしよう。
マジックライトペン あんこ @ancokyf
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