第9話 映画鑑賞

 放課後、唯と一緒に帰る。そして、家に着き少し早めに夕飯の準備を始める。




 夕飯を食べた後、ゆっくり風呂に浸かりながら今日の事について考える。




 唯の願いは、自分の好き、を知る事。その為に俺が出来ることは・・・・・・色々な経験を積ませてやるとかか。




 よし!せっかく明日は休みなんだし、唯を誘って色々な映画の鑑賞会をしよう。少し前なら、レンタルショップで借りる所だが今は様々な動画配信サービスがある。俺もそういうサービスに入ってるから、いつもはそれで暇を潰してる。




 唯が何かしらの動画配信サービスに入ってたら誘う意味も無くなるが。いや、映画は誰かと一緒に見る方が楽しいか。




 とにかく、メッセージを送ってみよう。




 それから、数分も経たない内に返信が来る。




 早ッ。相変わらず、返信スピードが滅茶苦茶早いな。それで、内容は・・・・・・




 どうやら、唯はどの動画配信サービスにも入っていないようで、明日俺の家で鑑賞会が開催されることとなった。10時頃に来るそうだ。




 少しホッとする有。




いや、ホッとしたのは別に一緒に居れるからとかじゃなく何なら別に1人で映画見ても全然楽しいし、まあただ誰かと見るのも悪くは無いと言うか・・・・・・




等と誰に向けてか分からない言い訳をする少年。長くお風呂に浸かり過ぎたのか大きくクシャミをする。その音で我に返る。




さて、とりあえず明日の鑑賞会に備えて映画中に食べれる料理でも用意しておくか。












 そして、翌日。約束の時間の1時間程前に起きて朝の支度を済ませる。朝の支度と言ってもしたのは着替えくらいだが。




 そして、リビングに座り唯を待つ。




 リビングは割と片付いてるし、掃除はしなくて良いだろう。まあ多少物が散らばっていたとしても、誰かが訪ねるくらいの理由では片付けないと思うが。実際・・・・・・ダメだ。過去、この家に訪れた人間がほとんど居ないから実際の先が無い。




 リビングで待って数分も経たない内にチャイムが鳴った。




 早ッ。約束の時間まで、30分以上あるぞ。メールだけじゃなくて来るのも早いし、学校に来るのも早い、どっちも少しくらい遅くても何も言わないいのに。まあ、早いのは良いことだが。




 扉を開けると、すごくシンプルな私服姿の唯が立っていた。




 「いらっしゃい、早いね」




 「迷惑だった?」




 少し不安げな顔で尋ねる唯。




「全然。むしろあんまり待たなくて良かったから助かったよ」




「そう、良かった」




ホッとしたような顔を見せる。




安心したような顔の唯を連れ、リビングに案内する。




ソファに座ると思ったが、立ったままソワソワしている。




「遠慮せず、座ってて良いよ」




有に言われやっと座るが、唯は相変わらずソワソワしている。




有はそれが、男の子の家に入ったからだと思っていたが実際は少し違う。唯は例え男の子の家に入ったとしても、ソワソワどころか微動だにしない。しかし、そんな唯も女の子である。なので、ある特定の相手だとソワソワしてしまう。最も有は、自分が彼氏(偽)であるにも関わらず自分がそんな相手だとは思っていないようだが。




「よし、さっそくだけど映画見るか。何見る?」




「話題になってたみたいだし、これを見たい」




 そうやって、指差したのは女子高生で話題になってる恋愛映画だった。




 部屋に何のグッズも飾っていないからこういうのにはあんまり興味ないのかと思っていたが、何でも見てみようという事か。唯なりに好きな物を見つけようとしてるんだな。




 「よし!じゃあそれ、見よう」












 二時間後。




 意外と面白かった。恋愛ものはあんまり動きが無くていつもは見ないんだが、これは面白かった。特に恋愛だけじゃ無くタイムリープやサスペンス要素があったのが良かった。普通に見入ってしまった。




 「面白かったな」




 そう言って隣を見ると、そこにはすうすうと寝息を立てている少女の姿があった。




 寝、寝てる。自分で見たいって言ったのに。まあ、タイムリープするのは中盤からで序盤はあんまり面白くなかったからな。寝るのも仕方ない。




 良し、時計の針も12時を回っているし、お昼にするか。




 唯が寝ている間に昼飯をちゃちゃっと作る。




 「おい、起きろー。お昼だぞ」




 「ん~」




 眠そうな目をゴシゴシとこすりながら、唯が起きてくる。




 そして、カルボナーラのかぐわしい香りが漂う食卓に座り、食べ始める。




 「美味しい」




 先程までの眠そうな目をパッチリと開いてスパゲティーを味わっている。




 「そういえばさっきの映画、意外と面白かったな」




 唯はドキリ、とした表情を浮かべる。




 「そ、そうだ、ね」




 有は少しいたずらっぽい表情を浮かべ尋ねる。




 「どのシーンが一番好きだった?」




 「最後の、地球が爆発する5秒前に告白するシーン」




 「そんなシーン無かったけど!?確かにタイムリープやらサスペンス要素やらはあるけど、一応恋愛映画だから!しかも海外ならまだしも日本の映画だから!そんなシーン劇場で見たら開いた口がふさがらないよ!ドラえもんの映画見に来たのにいざ始まってみたら呪怨が上映されたくらい場違いだよ!」




 「間違えた。あ、あの、あれ、あの、タイムリープしたと思ったら紀元前だったシーン」




 「それ、どうやって恋愛するの。ジュラシックパークでも人と恐竜の恋物語なんて描かないよ!」




 「主人公の王君が・・・・・・」




 「これ邦画だから!」




 「う、うう、ごめん。あんまり見てなかった」




 くすくすと笑いながら、微笑みかける。




 「別に良いよ。一緒に見るだけでも1人で見る時とは違う感じがして、新鮮で楽しかったし」


 


 少しションボリしている唯に語り掛ける。




 「ほら、次の映画見よう」




 「うん。今度は大丈夫」




 目を見開き今度は寝ないといった様子で気合を入れる唯。それを見て、有はフラグになりそうだな、と思った。












 続けて二本の映画を観た。一本目は海外の恋愛もので、二本目は海外アクションものだった。




 唯は、1本目はうつらうつらとした状態でしかしなんとか寝ずにに保っていた。だが、2本目になるとそれまでと違い目をキラキラさせながら楽しそうに見ていた。




 見終わった後、唯が興奮した様子で話しかけてくる。




 「超面白かった!特に主人公とラスボスとの決戦シーン!映像がめちゃくちゃ凝っててすごく迫力あって思わず瞬きするの忘れちゃった!しかも、対話シーンも最高に格好良かった!」




 「分かる!主人公とラスボス、互いに互いのことを理解している。絶対に自分の意思を曲げないだろうってことも。だからこそ、どちらかが死ぬまで戦うしかない。そんな会話聞いて思わず鳥肌立った。自分の信念を貫き通す男っていうのは最高に格好良い」




 そのままさっき見た映画について数十分と語る2人。2人とも子供のように目を輝かせながら語り合っている。




 1段落着き、有がしみじみとした様子で言う。




 「やっぱり、映画を見た後語り合えるっていうのは良いな。映画は1人派だったんだけど、誰かと見るのも悪くないな」




 「うん、私もそう思う」


 


 唯も頷きながら呟く。そして、有の方を振り向き真剣な表情で言う。




 「私、映画、好きみたい。それもアクション映画が。こうやってじっくり自分の好きな物を探るなんてことは今までやってこなかった。でも、有のお陰でやろうと思えた。そして自分の好きな物を知れた。すごく嬉しい。でも・・・・・・




 少し暗い顔をしながら続ける。




 「私が、自分の好きな物を見つけたいと、我儘を言った所為で迷惑を掛けてしまった。ごめんなさい」




 「別に迷惑じゃ無い。俺が1人で映画を見るのは少し寂しかったから誘っただけだし、むしろ迷惑掛けたのはこっちだ」




 そんなことは無いといった様子で顔をフルフルと横に揺らす唯。




 「それに、何かを願うことは我儘なんかじゃ無い。それで誰かに協力してもらう事も。だから、気にしなくて良い」




 「ありがとう」




 「お礼を言われるような事じゃない、ただ映画に誘っただけだし」




 「そう、映画に誘っただけ。でも、私はそれがすごく嬉しかった。私の我儘に付き合ってくれたこと。それに、今日の事だけじゃなく昨日もその前も我儘言ったり風邪引いちゃったりした。それでも有は迷惑どころか協力してくれた。全部、すごくすごく嬉しかった。だから、ありがとう」




 その笑顔は今日見た映画のどのシーンよりも輝いて見えた。












 唯が夕飯を食べてから帰るというので特製ハンバーグを作り、ご馳走する。




 唯は昼飯同様美味しそうにぺろりと平らげた。




 「最後にこれ見たい」




 唯が指さしたのは今世紀、一怖いと話題になっていたホラー映画だった。




 「それ、ホラー映画だぞ」




 「見てみたい」




 まあ、何にでも挑戦してみるというのはいいことだ。正直ホラー映画はそんなに得意ではないが、しょうがない付き合ってやろう。












 唯は寝ていた。しかし、それは昼間と同じような眠気に誘われての睡眠ではなかった。どちらかというと気絶に近いような形であった。




 「終わったぞ。大丈夫か?」




 有のその一言で目を覚ます。しかし、体は全身震えておりとても大丈夫な様子には見えない。




 「立てるか?」




 有が手を差し伸ばしやっと立てたが足がブルブルと震え顔も真っ青である。




 「帰れる、か?」




 「だ、だ、だ、だd、あだっだdddd、だいじょうm、b、ぬ」




 ダメっぽい。




 「うち泊まっていきな。もし、何だったら俺は外でホテルで泊まるからさ」




 その言葉を聞いた瞬間、側に駆け寄り袖をつかむ唯。




 どうやら一緒に居て欲しいらしい。




 それからも唯は袖を離そうとしないので、彼女の行動全てに有が伴う形となった。




 さすがに、お風呂とトイレは別だったが。




 そうして、最後有の部屋のベッドに唯が寝る。ちなみに、有はその下で固い床にシーツを引いて寝ている。




 それにしても、よっぽど怖かったんだな。いくら1人になるからと言って、お風呂を数十秒で上がるとは。俺も余程急いでる時はめちゃくちゃ早く出るけど、その時だって数分は掛かってた。




 俺もあんまりホラーは得意じゃ無い。そもそも、怖い物とか好き好んで見たく無いし。でも、怖い物を見たとしても、見た瞬間は嫌だな、とか怖いな、とかは思うが多分それだけで済むと思う。今回も見ているときは怖かったが、今はそんなに怖くない。まあ隣にすごく怖がっている奴がいたからかもしれないが。この調子なら多分どんなホラー映画も大丈夫だろう」




 そして、有は眠りに付いた。それがフラグとなっているとも知らずに。




 








 有は目を覚ました瞬間、違和感を抱いた。自分の体が、目以外動かなかったのだ。




 これが、俗に言う金縛りというやつか。ホラー映画を見たせいか?まあ、もう1度寝れば元に戻るだろう。




 そう思い睡眠に入ろうとするが、とてつもない尿意がそれを防ぐ。




 やばい、一刻も早くトイレに行かなければ。




 そう思い体を動かすが、一向に動く気配は無い。




 ヤバい!本当にヤバい!決壊する!動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!




 クソッ!動かない!こうなったら戦略変更だ!ギリギリまで耐えてやる!




 そうして、自分との戦いに身を投じていく有。




 幸い自分の部屋を水浸しにすることは無く水はあるべき所に返せたようだが、有はしばらくの間ホラー映画がトラウマになった。


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ぼっち王子と快諾姫 誰がためのこんにゃく @sawatani2002

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