第3話 始まり

 「あそこ!」


 ヒビキさんが指差したのは、高台にある広場だった。

 そこで、3人のエクソシストが銃を何かに向けて打っているのが見えた。

 まさに交戦中である。


「何と戦ってるんでしょうか……」


 エクソシストが戦っているモンスターがいるはずだ。

 なのに、俺の目には相手が見えない。

 エクソシストが空中に銃を打ってるアブない人に見える。


 「あの飛んでるの見えない?」

 「僕でギリギリ見えるかだから、今のガヤくんには見えないんじゃない?」

 「ガヤくん……?」


 レオナルドさんの発言もヒビキさんの発言も気になる。

 そもそも犬の姿のまま、人間の言葉を話すレオナルドさんに突っ込むべきだ。

 なのに、俺がなんとか拾えたのは1番最後のあだ名だった。


 「大ヶ谷だからガヤくん。可愛いでしょ?」

 「はあ……」

 「正吾くん、今は人間だもんねえ」

 「そう、ガヤくん今は人間だから。今は」

 「今はって強調しないでもらえます!?」


 俺はまだ、自分がモンスターであることを受け入れられてない。

 普通に人間だと思ってる。

 というか、お酒を飲まなければ変身しないんだから人間では?

 いや、変身するところを叶山に見られてるんだった。

 エクソシストに見られてたら、言い逃れはできないか。


 でも人間の自覚しかないのだ。

 デリケートな問題なので、優しく触れて欲しい。


 「て、ジャック・ヴァンフィールドは?」


 先ほどまで一緒にいたはずの吸血鬼の姿が見当たらない。

 キョロキョロとしている俺の耳に、高笑いが飛び込んできた。


 「はっはっは、本日もお勤めご苦労であるな、エクソシスト諸君!」


 ジャック・ヴァンフィールドはいつの間にやら、高台の広場に移動していた。

 そういえば、あの夜もジャンプだけで空を飛んでいた。

 モンスターってすごい身体能力なんだな。


 「お前は、指名手配の!」

 「ジャック・ヴァンフィールド!」


 エクソシストの注意が、ジャック・ヴァンフィールドの方へ移動する。


 「ほう、ここは風が心地良いな。余のウォーキングルートに入れるのも悪くない」


 あいつ、どんだけ体を整えてんだ。


 「折角の晴天、心地良い風。だというのに、お前たちは相変わらず風情がないな」

 「外国出身のモンスターが風情を語るな!」


 そうだそうだー!

 おっと、エクソシストの方を応援してしまった。


 レオナルドさんとヒビキさんは、ジャック・ヴァンフィールドの対角になる位置へと移動する。

 すると、柵に人が寄り掛かっていた。


 いや、人じゃない。

 顔も体も女性そのものなのに、腕と足は鳥と同じ見た目をしている。

 教科書で見た。ハーピーだ。

 いや、教科書で見たものとは少し違う。

 きちんと洋服を着こんでいる。

 羽根と足の邪魔にならない程度に、しかし隠すべきところは隠している。

 教科書のように、全裸じゃない。

 意外と人間の常識を守っているハーピーだった。


 「ジャックが気を引いてる内に逃げるんだ!」

 「こっちに飛んできて!」


 レオナルドさんとヒビキさんが、ハーピーに声を掛ける。

 しかし、ハーピーはぶんぶんと首を振った。


 「飛べません~!」

 「どこか怪我したの!?」

 「違います~!」


 ヒビキさんの問い掛けに、泣きながらハーピーが言った。


 「わたし、高所恐怖症で飛べないんですぅ~!」

 「ハーピーなのに!?」


 俺は慌てて口を押さえるが、遅かった。

 思わず飛び出した突っ込みは、ハーピーのもとまで飛んで行ってしまったようだ。


 「どうせ~、わたしなんて欠陥ハーピーですよぅ~!」


 だからここで飛ぶ練習をしていたのにぃ~! と泣き出してしまった。

 練習するのは自由だが、昼にやるんじゃない。

 そう言ったら、余計に泣かせてしまうだろうか。


 「今日は天気がいいもんねぇ。練習日和だよね」

 

 レオナルドさんがまさかの同意した。


 「そうなんですぅ~。風も気持ち良くてぇ~」


 いや、それでエクソシストに見つかってたら意味ないだろ。

 不用心にもほどがある。

 狙ってくれと言ってるようなものじゃないか。


 しかし、彼らはそんなモンスター相手でも真摯に向き合うようだ。


 「うーん、飛べないならどうやってこっちに来てもらおうかな……」


 ヒビキさんが、真剣に考えている。

 俺も少しは真面目に解決策を考えた方が良いのだろうか。


 広場の出入口は、ジャック・ヴァンフィールドの背後にある。

 エクソシストの気がそちらへ行っている間に、裏側に当たるこの場所から飛び降りるのが最短だろう。

 しかし、本人はこの高さは飛べないと泣いている。

 見上げた高台は、4m程度はありそうだ。

 高い所が苦手な人には、まあ恐怖心は出るだろう。

 相手はハーピーなので、死にたくなければ頑張れよと思ってしまうが。


 「さっき、俺には見えないって言ってましたよね」

 「うん、言ったね」

 「なんで俺には見えなかったんですか?」


 先ほど、突っ込み損ねた疑問を今更聞いてみる。


 「かなりの速度で移動していたから、人間の目では捉えられないだろうなって」

 「え、ヒビキさんは見えてたんですよね?」

 「僕はクォーターだから、普通の人間よりちょっとだけ身体能力高いんだよね」


 ほう、それはかなり便利なのではないか。

 俺はちょっとだけ、羨ましくなった。


 それよりも、だ。


 「それじゃあ、エクソシストの目では見えないってことですよね」

 「そうだね。だから手当たり次第に打ちまくってたんだろうし」


 それなら。


 「どうにか、できるかもしれません」



 近くにあった売店で、必要なものを買い揃えた。

 広場の方へ戻れば、まだハーピーはめそめそ泣いている。

 そしてそれをヒビキさんが宥めていた。


 買い物をしている間に飛び降りる勇気が出てくれれば、それが一番良かった。

 しかし、そうもいかないようだ。

 彼女の高所恐怖症は根深いらしい。


 「ぐあああっ」


 ハーピーの反対側では、ジャック・ヴァンフィールドが腕を押さえている。

 エクソシストの銃弾が当たったのかもしれない。

 いや、そういうフリをしているだけだろう。


 「もう少しだ、ここで仕留めるぞ!」


 エクソシストが士気を高めている。

 これもジャック・ヴァンフィールドの掌の上なのだと思うと、いっそ不憫に思われた。


 いや、エクソシストを憐れんでいる場合ではない。

 さっさとハーピーを助けて、この茶番を終わらせなくては。


 「それでは皆さん、よろしくお願いします」


 そういうと1人と1匹が深く頷いてくれた。

 俺は、広場の入口近くへと静かに移動する。

 その後ろを、ヒビキさんが付いてくる。


 「くそ、エクソシストどもめ!」


 ジャック・ヴァンフィールドが、そう言いながら手元の石ころを投げている。

 いや、もう少し格好良い攻撃ないのかよ。

 なんか格好良さにこだわりあります、みたいな発言多いじゃん。

 その割に攻撃しょぼくないか。


 「銀の銃弾は、モンスターを弱体化させる」


 聞き覚えのある声が、耳に届いた。

 叶山だ。


 「力が使えないことだろう」


 どや顔で説明をしてくれている。

 そうか、銀の銃弾にはそんな効果があったのか!

 いや、モンスター側にそれを教えてしまっていいのか?


 「今日こそ、ここで、お前を排除する!」


 熱くなってるところ申し訳ないが、多分その吸血鬼は1発も銃弾を受けてないです。


 叶山って無口だし、口を開けば辛口だし。

 顔が整ってるのに全く笑わないから、クラスでも近寄り難い存在だよなと言われてきた。

 女子はクールなところが良いのだと力説していたが。

 モンスター相手にはかなり熱い人物だったらしい。

 なんか、ギャップがすごい。


 俺は友人の意外な一面を見ながら、コンビニ酒を一気に飲む。

 喉が焼けるように熱い。

 殺せるなら殺してみろ、と勢いに任せてかの有名なコンビニ酒を選んだのが悪かったかもしれない。

 ビールと梅酒で酔えるのだから、もっと初心者向けの酒にすれば良かった。


 そんな後悔をするが、もう遅い。


 あっという間に、俺の視界はぐらりと揺れる。


 「ヒビ、さ……」


 うまく呂律が回らない。


 「大丈夫。サポートするから」


 だから、がっつり暴れておいで。


 そう、背中を押された。

 毛むくじゃらの、背中を。


 「ぐっ、がー!」


 俺は、ジャック・ヴァンフィールドの後ろへ立つ。


 「ほ、大ヶ谷少年?」


 ジャック・ヴァンフィールドが驚いている。

 そんな表情もするんだなあ。

 おかしくて、つい笑ってしまった。


 「くっ……!」


 そうしたら、叶山たちが耳を塞いで蹲ってる。

 なんかあったのかな。

 気分でも悪くなった?

 俺は、友人が心配になって手を伸ばした。


 「くそっ、オーガめっ!」


 叶山が俺に銃を向ける。

 今日もその物騒なものを持っているのか。

 危ないよ。


 そう言おうとしたら、俺の顔の横を銀色の弾が通り過ぎて行った。

 その部分の毛だけ、チリチリになってしまった。


 ほらー危ないじゃんかー

 そう伝えたいのに、呂律が回らなくてうまく喋れない。

 うーん、どうしたら伝わるのだろうか。


 そんなことを悩んでいたら、ワンっ!と犬の吠える声が聞こえた。

 犬じゃなくて狼だっけ?

 どっちでもいいか。


 その声が合図になったのか、ハーピーがこちらに向かって飛んでくる。

 ああ、そうだ。

 俺とジャックさんが気を引いてる間に逃げる作戦だった。


 ふよふよと飛んでいくハーピーを、目で追いかける。

 急いでほしい。

 そうじゃないと叶山達にバレちゃう。


 彼女を守らなくちゃ。

 そう思って、叶山たちの方を見る。

 でも、叶山たちは俺たちの方を見ていた。


 あれ?

 もしかして、気が付いてない?


 なんでだろう。

 理由がわかりそうなのに、頭がふわふわしていて思い出せない。


 まあ、バレてないなら、それでいいや。

 彼女が逃げられたなら、それでいいや。


 俺は、叶山に1歩近付く。


 危ないことはやめて。

 そこの知らない人たちも、解散しよう。


 そう伝えたかった。


 でも、目の前の3人は顔を青くしながら後ずさる。


 気分でも悪いのだろうか。

 それは大変だ。


 俺が手を伸ばすと、悲鳴が上がる。


 「モンスター風情が!」


 叶山が、俺に銃を向けてくる。


 だから、それは危ないものだからしまってって。

 遊びにしても笑えないよ。


 俺は銃を押さえようと思って、そっと手を置いた。


 「ぐっ!」


 それだけなのに、叶山が前のめりに転ぶ。

 あらら、痛そう。

 大丈夫?

 起きれる?


 手を貸そうと思って、手を伸ばした。


 でも、そのタイミングで胃の中からせり上げてくるものがある。


 あ、やばいかも。


 そう思った時には、もう遅かった。


 「おえぇぇええええっ」


 顔を背けることも、手で押さえることも叶わず、胃の中のものを全てぶちまける。

 ぶちまけられたそれは、目の前に転がる叶山の上に降り注いだ。


 「き、きさまぁあああっ!」


 顔を真っ赤にした叶山が、俺に向かって発砲してくる。


 「ごめんっ、わざとじゃないんだ!」

 「知るか化け物! 貴様は絶対に排除する!」


 バンバンっと、発砲音が鳴り響く。


 めちゃくちゃ怖いんですけど!


 「叶山、銃を下ろせって!」

 「貴様に名前を呼ばれる筋合いはない」

 「俺たち友だちじゃん!?」

 「裸族でモンスターな友人などいない!」

 「好きで裸なわけじゃないよ!!」


 服が破けてしまうんだから、仕方がないだろう。


 「そもそも、俺は人間だよ!」

 「先ほどまでオーガだった奴が何をいうか!」

 「でも今は人間だもん!」


 そんな口論をしている間にも、叶山は発砲してくる。

 当たったらひとたまりもない。

 そんな恐怖に駆られるが、運が良いことに1発も当たっていない。


 そうこうしている内に、ガキンっと聞き慣れない音がした。


 「ちっ、弾切れか……」


 叶山が舌打ちをする。

 なんとか助かった……のだろうか?


 「きちんと狙ったはずなのに、何故当たらない」

 「いや、俺に聞かれましても……」


 叶山が真剣な表情でぶつぶつと試案する。

 女子が見たら喜びそうな整った顔から、俺のぶちまけたものがぼとっと落ちる。


 「とりあえず、洗い流した方がいいんじゃないかな……」

 「誰のせいで臭くなってると思ってるんだ!」

 「それは俺のせいです、ごめんなさい!」


 叶山に怒鳴られて、思わず謝罪する。

 いや、真上から吐いたのは流石に悪いと思っている。


 「でも、そもそも叶山が俺を撃ってこなければ良かったんじゃ……」

 「モンスターは排除する。それだけだ」


 弾の装填が終わったらしい叶山が、再び俺に銃を向ける。


 「待ってよ、俺たち友だちじゃん! 少しは言い分を聞いてくれても……」

 「違う。友人だった。過去形だ」


 叶山の目が、細められる。


 「この世界にモンスターはいらない。消えてくれ」


 叶山が、引き金を引いた。


 「ぐああああっ!」

 「ジャック・ヴァンフィールド!?」


 今度こそ俺に当たるかと思った弾は、違うモンスターに当たる。

 いつの間にか俺の前に立っていたジャック・ヴァンフィールドがお腹を抱えた。


 「友人同士の語らいも良いが、タイムリミットである」


 ジャックはそういうと、俺にマントを被せた。

 今日は布を貸してくれるらしい。

 有難い。


 「それではエクソシスト諸君、また会おう!」

 「逃がすか!」


 エクソシストたちが追い掛けようとする。

 しかしジャック・ヴァンフィールドが投げた煙玉で、視界が悪くなる。


 「くそっ、小癪な手を使いやがって!」


 知らないエクソシストの人が、そう吼える。

 その隙に、ジャック・ヴァンフィールドは俺を抱えて逃走した。


 「覚えてろよ、大ヶ谷!」


 叶山のそんな声が、遠くに聞こえた。



 「まったく、無茶しおって」


 ヒビキさんたちと合流して、俺は預けていた服に着替える。

 ジャック・ヴァンフィールドにマントを返したら、そう睨まれた。


 「いやあ、ハーピーさんが飛ばないっていうんで……」

 「わたしのせいですぅ~、ごめんなさぁい……」


 しょんぼりとするハーピーの頭を、ヒビキさんが撫でている。


 「まあこうして全員無事だったからいいんじゃない?」

 「余のお陰であろうが!」


 ジャック・ヴァンフィールドは怒っているらしい。

 しかし、何に怒っているのかいまいちわからない。


 俺が首を傾げていると、ビシっと指を突き付けられた。


 「大ヶ谷少年が出てくるなど、聞いておらんぞ!」

 「まあ、急遽考えた作戦ですからね」

 「いや元々大した作戦も打ち合わせずに飛び出していったヤツがいるけどね」

 「うぐぅ」

 「ハーピーを助けるという目的は達成されてるからなんでもいいんじゃない?」

 「レオまでそっち側なのか!?」


 ジャック・ヴァンフィールドが項垂れる。

 しかし、すぐに顔を上げる。

 キッとこちらを睨んでいるが、やや涙目だ。

 なんて威厳のない吸血鬼だろうか。


 「大ヶ谷少年があそこで撃たれていたらどうするつもりだったのだ!」


 ジャック・ヴァンフィールドの発言に、俺を含め3人が目を合わせる。


 「ジャックがどうにかするだろうと思ったし」

 「真っ先に飛び出していくヤツに言われても説得力ない」

 「他に作戦が思い浮かばなかったので」


 三者三様の回答をする。


 「ぬおおおおおっ」


 ジャック・ヴァンフィールドが頭を抱えた。

 どういう感情表現なんだろうか。


 「あ、あのぅ」


 そんなことをしていると、件のハーピーが声を上げた。


 「助けてくださって、ありがとうございました~。これからは、日中は気を付けて飛ぶことにしますぅ!」

 「うん、気を付けるというか出てこない方がいいと思うけど」


 少なくとも人目につかないところでやっていただきたい。


 「それでは~、わたしはこれでぇ~」


 そういうと、ハーピーはパタパタと飛び立っていった。

 低空飛行で。


 「あれ、また見つかるんじゃ……」

 「寄り道しなければ大丈夫じゃないかな、たぶん」


 少し、いやすごく心配である。


 「やれやれ、折角銭湯に行ったというに、血糊だらけである」


 ジャック・ヴァンフィールドが、赤く汚れた個所を確認している。

 やはり、今回も銃弾には全く当たっていないらしい。

 

 「して、大ヶ谷少年」

 「え、はい」

 「身を挺してハーピーを助けた気分は、いかがだったかな」


 助けた気分。

 そんなことを聞かれても、ピンと来なかった。


 確かに、危ない橋を渡っていたのだろう。

 でも、無我夢中だった。

 他に作戦は思い付かなかった。


 友だちがいるからという油断も、あったかもしれない。

 叶山には、過去形にされてしまったが。


 「助けなきゃって無我夢中で、気分も何もないです」

 「ふむ」

 「逆に、聞きたいのですけど」


 疑問に思っていたことがある。


 「なんで、ジャック……さん、は、人前に出るんですか」


 わざわざ、モンスターを助けるために囮になって。

 エクソシストにやられた演技までして気を引きつけて。


 人間なんて簡単に倒せる力があるだろうに、それはしない。


 1914年からずっと、人間と戦っているのに。

 煙にまいて、やられた振りをして、そうして逃げるだけ。


 隠れていれば安全なのに。

 この吸血鬼ならば、モンスターをまとめ上げて夜の闇に隠れることもできるだろうに。


 なんでわざわざ、日の下を歩くのだろうか。


 「そんなのもの、決まっておろう」


 俺のつまらない質問に、ジャック・ヴァンフィールドは楽しそうに答えた。


 「余たちが、生きているからである」


 生きている。

 モンスターたちだって、生きている。


 「伝説だの架空の存在だの言って、存在をなかったことにされてはかなわん」


 今、この瞬間を、人間と同じ地表で生きている。


 妄想でも、デマでも、なんでもない。


 「ここに、余たちは在る。それを知らしめてやっているだけのことよ」


 モンスターは迫害の対象だ。

 その存在は、人間の生活を脅かすので排除されなければならない。


 そう、教わってきた。


 でも確かに、ここにいるモンスターは人間を襲わない。


 ただ、そこに存在しているだけだ。


 それだけなのだ。


 そんなことに、俺は今更気が付く。


 そして俺も、そちら側に追いやられたことに気が付く。


 エクソシスト側に、対話をする気なんてこれっぽっちもないのだ。

 俺は大多数とは異なるから、だから排除される。

 彼らにとってはそれだけのことなのだ。


 救ってやろうという気持ちなど、微塵もないのだ。


 昨日のあの瞬間までは、確かに大多数に属していたはずなのに。


 「……迫害を、止めたいということですか?」


 俺は、神妙にジャック・ヴァンフィールドに問い掛ける。

 この吸血鬼なら、そんな大きな野望も達成してしまうかもしれない。


 俺たちも、生きやすい世界にしてくれるのかもしれない。


 そんな期待を抱いて、問い掛けた。


 しかし。


 「いや? そんな大それたことは考えてないぞ」


 あっけらかんと、否定された。


 「え、違うんですか!?」

 「なんだなんだ。なんで急にそのような壮大な話になったのだ!?」


 ヒビキさんが、腹を抱えて笑っている。

 そんな飛躍した話をしただろうか。


 「言ったじゃん。僕たちの目的は、エクソシストと戦えないモンスターを保護すること」


 確かに、昨夜聞かされた。


 「ただ、生きていたいって、それだけのことだよ」


 モンスターと括られた以上、ただそれだけのことが難しい。

 エクソシストに追い掛けられる毎日を送ることになる。


 それでも、生まれた以上は、生きていたいから。


 誰かが生きるための手助けを、したいから。


 「ほんと、大多数なら簡単に叶う願いなんだけどね」


 仕方ないよね、少数派だから。

 ヒビキさんはそう笑った。


 「保護対象である君が、あそこで飛び出してくるなど本末転倒である」


 ジャック・ヴァンフィールドが、そう口を尖らせる。


 それで、怒っていたらしい。

 俺は、戦えないモンスターで、守られるべき存在ということだ。


 それもそうだ。

 戦い方なんて知らない。

 自分の体のことを、ちゃんと理解できたわけでもないのに。

 そんな難題、できるわけがない。


 でも、ちゃんと知りたい。

 自分の体のこと。

 モンスターたちのこと。


 「お願いがあります」


 いるのかいないのか半信半疑だった彼らが、どんな生活を送らされているのかを。


 「俺を、バイティドッグスに入れてください!」




 これは、俺がモンスターというものになってしまった話である。

 



 そして、エクソシストにやられる専門のモンスター軍団として活躍していく前日譚である。 






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

面白かった! 長編にしてほしい! もっと続きが読みたい! などなど……

少しでもいいな、と思ってくださった方は、

広告下↓↓↓にあります「☆」または「応援する」欄を押してくれると嬉しいです。


レビューや感想をいただけたら、今後の励みや参考になります!

是非とも、よろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バイティドッグス!~エクソシストにやられる専門のモンスター軍団とは俺たちのことです~ 森ノ宮はくと @morinomiya_hakuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ