ヒアリング

結騎 了

#365日ショートショート 315

 カウンター越しの女性は、あくまで事務的な口調で尋ねた。

「ご出身はどちらですか」

「香川です。仕事の都合で、二年前にこっちに」

 いきなりのパーソナルな質問に、ちょっとだけ面食らう。

「現在の家は賃貸ですよね。間取りを教えてください」

「ええと、LDKです」

「支持している政党はどこですか」

「えっ」

 思わずのけぞる。

「こちらの質問には全て答えると、最初に仰いましたよね。さあ」

「政党ですか。いつも深くは考えていません。その時の与党に入れてます」

「なるほど。では、お父様のご職業は」

「父は銀行員です。今は定年してのんびり庭をいじっています」

 女性はキーボードを軽快に叩きながら、答えを入力していく。

「それでは、信じている宗教は」

「おっと……。母は地域のナントカって団体に入っていましたが、私は特にありません。強いて言えば浄土真宗になるのでしょうか」

「家族構成、特にご兄弟は」

「長男です。下に、弟と妹が一人ずつ」

「はい。分かりました」

 自分だって馬鹿じゃあない。が何かは分かっている。

「すみません、今の質問って全部あれですよね。企業面接で聞いてはいけないとされているやつ。職業安定法でしたっけ。あれによると、不適切な質問に当たるのではないのですか」

 確実に、溜息が聞こえた。女性は眉間の皺も気にせず、淡々と答えた。

「当社はが最も有効な質問事項だと捉えています。これらを入力し、データとして処理し、当社の会員間でマッチングを測るのです。いいですか、これは企業面接ではありません。結婚相談所ですよ」

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