【完結済】暗殺公女は聖女をやめさせていただきます~聖女を酷使するブラックな王国と王子から自由になったら、いつの間にか王子が王国もろとも「ざまぁ」されてました~
第109話 聖女を辞めさせていただきます。
第109話 聖女を辞めさせていただきます。
3日間の祝宴の翌日、私とマリア、ミラベル、ユリア、アイリス、ヴェルフェスルートの6人は東方諸島行きの船に乗っていた。
「ん-、なんか久々に肩の荷が下りた気がするわね」
「そうですね、ホワイトナイト王国を出てからも、なんだかんだでトラブル続きでしたからね」
「お嬢様は頑張り過ぎです。ですので、たまには羽を伸ばしてもいいでしょう」
私が伸びをしながら発した言葉に、ミラベルとマリアがこれまでのことを思い返しながら言った。
「東方諸島は海が多いから、魚介類がおいしいらしいからね。しかも、火山地帯だから温泉もたくさんあるらしいわ」
海風に当たりながら、私は満面の笑顔で言った。
「それは楽しみですわね。私もバッシャールさんに嵌められたと知った時にはつらかったですが、こうして生きていてよかったですわ」
「あー、そうじゃな。今はバッシャールの方が嵌められた側じゃがの!」
ユリアとヴェルが、ここにいないバッシャールの話題で盛り上がっていた。
彼女にとってはバッシャールというか魔族に嵌められたということで、ヴェルのこともだいぶ警戒していたが、エルフの森のことで打ち解けたらしく、今ではバッシャールのことで盛り上がるくらいであった。
「しかし……。よかったんですの? 大聖女ともなると、王族や貴族からの招待やら、依頼がたくさん来そうですけど……」
ミラベルが不安そうに言ってきたので、私は秘密にすることでもないと思い、話しておくことにした。
「大丈夫よ、そのために帝国と神聖王国の聖女認定を受けたんですもの」
「……? 意味がわかりませんが」
「今までは実質大聖女だったでしょう? それは、帝国と神聖王国の聖女認定を私が拒否していたからね」
「ええ、そうですね。それでも、毎日、いろいろな方が訪ねてこられましたよね。正式に聖女となったら、もっと多くなるのではないですか?」
ミラベルは私の言葉に不思議そうな顔をして聞き返してきた。
「今までは実質大聖女だったから、世間の認識は神聖王国のハゲ……じゃなかった、ナイヘア・ピカールが主導権を握っていたのよ。私の意思を無視して勝手に言い張ってね。それをマスゴミ――じゃなかった、マスコミ連中に、さも大聖女であるかのように思わせていただけなのよね」
「それと、聖女認定受けたことに何の関係があるのでしょう?」
「関係大ありよ。聖女認定を受けて、正式に大聖女になったことで、主導権は私に移ったのよ。だから、私は出発の直前に、魔王国、通商連合国、帝国、神聖王国と、各種マスコミに手紙を送っておいたわ」
「なるほど、大聖女として正式に認められたことで、手紙を正式なものとして扱わせるようにしたということですか?」
ミラベルは私の手紙について、気になっていたようだが、あまり意味がわかっていないようであった。
「そうね。それもあるけど……例えば、私が、神聖王国のハゲ、じゃなかったナイヘアの頭が眩しすぎて、聖女を辞めたいと思ったとして、どうすればいいと思う?」
「ええと……。それは聖女を辞めたいと言えばいいんじゃないでしょうか……? あっ!」
「やっとわかった? 私は神聖王国の聖女になっていないから、あのままでは辞めることすらできなかったってことなのよ」
「なるほど、すっきりしました!」
私はミラベルに微笑むと、船首の方を指さして宣言した。
「それじゃあ、全部片付いたし、気ままな旅をみんなで満喫しましょうか!」
私の指の先、水平線のところに島が見えてきていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
魔王国の魔王城、謁見の間でリーシャからの手紙を受け取っていたバッシャールは怒りに震えていた。
先日、先代魔王によって「あとはよろしく」の一言で魔王にさせられた彼は、既に実務で手いっぱいだった。
そこへきて、この手紙である。
彼の胃は、もはや穴だらけだろう。
もっとも、アンデッドである彼には胃が無いので、あくまで想像上の話ではあるが……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
スカイポート首都の王城にて、ベルネルはリーシャの手紙を読んで、不敵に微笑んでいた。
「まあ、あいつならやると思ったけどな。ま、俺たちも収まるところに収まったし、あいつも好きにできるようになったし、一件落着ってやつじゃねーか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
帝国の皇城にて、帝国の皇帝は二人の皇太子と共にリーシャの手紙を読んでいた。
「またしてもやられたわ。やはり来た時に婚約を進めておけばよかったな。はっはっは!」
「そうですね。ミハエルには悪いと思いますが、その方がよかったかと」
「ふざけるな! あいつはお前には絶対渡さねーぞ!」
「まあ、それは良いから、とっとと賢者の石を拾ってこい。今月のノルマはあと10個だぞ」
二人は思いっきり嫌な顔をしながら、退室してスカイポートへと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
神聖王国の中央大神殿にて、ナイヘア・ピカールは怒りのあまり、周囲に当たり散らしていた、頭の光が。
「大司教! まぶしいです。抑えてください!」
「ええい、やかましいわ! せっかく1000年ぶりの大聖女の誕生だというのに三日で辞めるとかありえんだろ! マスコミどもは三日聖女とか言っておるし! 神聖王国の権威もがた落ちだ!」
そう言って、ナイヘア大司教はリーシャの手紙を投げ捨てる。
地面に落ちた手紙には、こう書かれていた。
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前略
一身上の都合により、聖女を辞めさせていただきます。
追伸、あとはよろしく
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