少女の眠り
kou
少女の眠り
男の名前は、野場誠。
現在は無職だ。
そんな彼に突然、高校時代の先輩・木原拓郎が訪ねてきた。
誠は、訳も分からずに浩が運転するワゴン車に乗る。
「先輩。一体何なんですか?」
拓郎は真顔のまま、車を走らせる。
誠が車内を見ると、ブルーシートにスコップが2本積んであった。
それだけで只ならぬものを感じた。
「誠。アレを掘り起こすぞ」
拓郎の言葉を聞いて、誠は目を丸くして驚く。
その時点で、誠は何のことか分かってしまう。
「ど、どうしてですか。今更……」
動揺している誠を見て、拓郎は言う。
「工事が入るんだよ。俺は地元に残っていて、ずっと働いていたが、最近になって地元に色々と業者が入っているのを見て聞いたんだ。
そしたら、新しいバイパス道路が建設されるってよ」
拓郎の話が本当ならば、もし掘り起こされたら大変な事になる。
「そんな。俺、嫌です」
誠は慌てて拒否をした。
だが、拓郎は譲らない。
「俺だってやりたくねえよ。バレたら二人揃って刑務所行きだ。お前だって困るだろう」
拓郎はそこで言葉を区切ると、助手席の誠を見る。
そこには悲壮感に満ちた表情があった。
その顔を見れば分かる。
拓郎は本気である事を。
着いたのは、車で入れる山の中だった。
時刻は夕方に近い。
車を降りて二人は無言で歩く。
「覚えているだろ。あそこだ」
拓郎は、頭に付けたヘッドライトを点灯させる。
掘り起こしている内に、日が暮れることを想定しての装備だ。
「ビビんな。あれから9年も経ってるんだ。骨になってるよ。シートごと掘り返したら、骨は海に捨てりゃあバレねえよ」
誠は震えていた。
それは恐怖によるものだ。
しかし、拓郎はそんな誠に構わずに、地面にスコップを突き立てる。
ザクッ
という音がした。
2人は無言で穴を掘っていく。
まるで9年前の、あの日に戻ったように。
9年前。
2人は、バイクを乗り回していた。未成年であるにも関わらず酒を飲み、無免許で公道を走るような、どうしようもない悪ガキだった。
抜きつ抜かれのバカな遊びを住宅が近い公道でしていた時に、女の子を二人は挽いたのだ。
即死だった。
怖くなった二人は、即死した少女を山へと埋めて事件を隠蔽したのだ。
掘っていくと、スコップが何かを突いた。
二人は顔を見合わせる。
土を払うと、ブルーシートが見えた。
「よし。シートごと引っ張り出すぞ」
拓郎は誠に指示をする。
二人はシートを持って、異変に気づく。
重いのだ。
予想以上にシートは重く、2人がかりで引っ張ってもびくりともしない。
「あれから9年も経っているんだぞ。なんでこんなに重いんだ」
拓郎は焦って叫ぶ。
二人はシートを鷲掴みにし、力任せに引く。
シートの端が持ち上がり始めた。
あと少しだと二人は思い、更に力を込める。
突然、千切れる音と共に、二人が握っていた部分のシートの感触が消えた。
二人は地面から身を起こす。
地面に埋められたシートの中を見た時、二人は同時に声を上げた。
シートの中には死体があったからだ。
しかも、あの日轢き殺したはずの少女の死体が。
死体は白骨化しておらず、あの日と同様に、埋めた時と変わらない姿のままだ。
拓郎は誠を押し退けると、死体の顔を確認する。
間違い無い。
それは、9年前に埋めたばかりの少女だった。
拓郎と誠は再び顔を合わせた。
自分が見たものが信じられなかった。
「どういうことだよ。9年も経っているんだぞ」
拓郎は混乱する頭を整理しようと努める。
「屍蝋化かも。そうなると、死体の状態が維持されるって」
誠の言葉に拓郎は、視線を向ける。
「予想とは違ったが、とにかく引っ張り出すぞ」
拓郎は少女の死体に近づこうとした瞬間に、脚が止まった。
根が生えたように動かない。
「先輩。どうし……」
誠がそう話しかけたところで、彼は少女の瞼が開いているのを目にした。
瞳孔の開いた目が二人を見る。
その目は、明らかに二人を認識していた。
得体の知れない虫が全身を這うような感覚に襲われる。
誠は悲鳴を上げ、拓郎は尻餅をつく。
そして、拓郎は逃げ出そうとするが、腰が抜けて立ち上がることが出来ない。
誠も拓郎と同様に、這いずりながらその場から離れようとする。
二人は車に乗らずに山中を転がるように降り、付近を警ら中のパトカーによって保護された。
【世界一美しいミイラ】
イタリア、シチリア島の教会に、そう呼ばれる生前の姿を保ったままの遺体がある。
少女の名は、ロザリア・ランバルド。
1920年12月6日、急性肺炎でこの世を去った、わずか2歳の少女だ。
両親は娘を永久に残したいという希望から保存することに成功し、奇跡のミイラとも呼ばれる。
2014年。驚くべきことが起きた。ロザリアが1日数回瞬きをしているのをカメラが捕らえたのだ。映像からロザリアの青い瞳が確認できることから、瞬きは事実だ。
人々はロザリアの魂が戻ってきていると信じている。
二人は逮捕され取り調べを受けた。
少女は、9年という歳月を経てようやく家族の元へ帰れたのだった。
少女の眠り kou @ms06fz0080
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