エンディング

「……一体何が起きた!!」


『エンジン出力が上昇し続けていましゅ!!エネルギーゲイン220%!まだ上がっていましゅ!強制冷却!!』


「……エンジンに異常が発生したのか?!」


『いえ、違いましゅ!こちらが指定してない操作をされてましゅ!』


「……こちらから再度指示を行え!」


『駄目でしゅ!機関室へのアクセスが遮断されていましゅ!!』

『直接操作してるみたいでしゅ!』


「……なんだと?!」


★★★


「ぬぅーはははは!!!!楽しいなぁ!」


 私ネコマの前で奇怪なコンサートが開かれていた。


 狂ったように笑う邪悪なキツネが、キーボードをダダダ!っと凄まじい速度で叩き、返される電子音で、調子はずれな音楽を奏でているのだ!


「こんなことをして大丈夫なのか?!なんかバチバチいっているぞ!!」


 機関室のエンジンは青く輝き光り、空気に光の玉と雷が混じり始めている。


 さらに周囲からはすさまじい蒸気が出て、空気がめちゃくちゃ湿っぽい。部屋の中がまるでスポンジを通して息してるみたいに、息苦しくなってきたぞ!


 まさか爆発したりしないよな……?


「うははは!!!!あと1分もすれば爆発し、この星ごと粉々だな!!」


「なにしてんだああああああああ!!!!!」


「だが大丈夫!!このエネルギーはあることに使うのだ!!」

「FTL航行システムに接続開始!!オンライン!!」


「なんだそれは!!」


Faster Than Light の略だ。」

「これの意味は『光よりも早く』だ!」


「光よりもはやくだと?!」


「そうだ!!この艦は光よりも早い速度で遠く離れた場所に行けるのだ!!」


「キタキタキタキタァ!!!!」


「ワープ!!!!」


★★★


 その時だった、ブリッジから見える世界のすべてが歪み、延ばされていった。

 光をおいて行くように暗黒の中をすすむ希望の名を冠した「エルピス」。


 何が起きているかさっぱりわからないが、暗闇を斬り進んですすむ光景を見た俺は、エルピスと言う名をこの艦につけたのは、間違いでは無かったなと呑気に思っていた。


 そして闇の中から光がまた見えてくる。


 青色の太陽を中心として、星々が回っている。

 別の天体まで来てしまったのか……いや、それよりももっと見るべきものがある。


 星の上を周回する人工物、たぶん宇宙ステーションがある。

 しかも月くらいにバカでかい。


 あんなのは俺の前世でも存在してなかったぞ……宇宙人かなんかが作ったのか?

 マジかよ……いきなり知的生命体がいる天体を引き当てたぞオイ。


「……どーみても人工物があるな?ナビさん」


『ええ、ですがそれよりはまず……』


「……機関室でやらかした連中をとっちめてやるか」


『Cis.』


 結果から言うと、大取物はすぐに終わった。


 首謀者はファーザーを原料にしたキツネさんだった。

 見た目はまったく他と変わらない、みるかぎり可愛らしいキツネさんだが、中身はぜんぜん違う。邪悪の具現化そのものだ。


 どうやら目本でぶちのめしたファーザーは、頓死してなお俺に復讐するのを諦めていなかったらしい。なんとまあ。


「ククク!この私を倒しても第二第三の……!」


「……どうしようかこれ?」


『興味深いサンプルなので捕獲しておきましょう。なぜこれがこの艦のシステムを理解していたのか、若干興味があります』


「……だそうだ。よかったな」


「オノーレ!!この私ヲォ!!」


 ひとまずファーザーを金属の箱にぶち込んだ。

 全く大変なことをしてくれた、おかげでエンジンはすっかり湯上がってしまっている。修理のため、しばらくここに釘付けだな。


 身体のせいでため息もできないのに、厄介事ばっかり起きるなぁもう。


 しかし、存在しない頭痛を感じながらブリッジに戻った俺に、さらに厄介ごとが降りかかっていた。


「あ、機人しゃまー!」

「目の前のステーションから通信が入っていましゅ!」


「……えぇ……?言葉通じるのぉ?」


『ええ、通じますよもちろん!!先ほど翻訳機能のアップグレードを完了したところですので!!』


『この出会いに感謝を!あ、申し遅れました、私、通信ドロイドのSP-Vitaと申します!どうぞお見知りおきを!』


 通信が開いたままだったので、向こうの担当者に普通に語り掛けられた。


 なんか普通にすげえフレンドリーで、文化的じゃん。

 下手したらこれまでで一番文化的だよこれ。


 出会ったのがオマエ、コロス、クウ!な宇宙人でなくてよかった。


「……思った以上に向こうの方が科学が進んでた」


『Cis. あんな宇宙ステーション、いえ、宇宙港がつくれるくらいですから、あちらは相当発達してますよ』


「……もうしわけない。こちらの艦は機関に損傷を受けている。この宙域に停泊する許可、もしくは支援を願えないだろうか?」


『それはもちろん!「奉仕と繁栄を」が我々のモットーですから!』


 ううむ、じつに有難いな。

 どうやら彼ら、種族はよくわからんが、かなり人格的に優れた連中のようだ。


 困った人を迷いなく助けるとは、なかなかできる事ではない。


 身動きの取れないエルピスは、向こうが送り込んできた小さな宇宙船に引っ張られて、そのまま宇宙港に係留された。


 俺は一応ミリアたちに宇宙服を着させてから、エルピスから降りることにした。

 異星人が快適と思う環境と、俺たちが快適と思う環境が、全く同じものとは思えないからな。


 タラップから宇宙港に降り立つと、エルピスよりも大きかったり、小さかったりする形状も色も種々の宇宙船がたくさん泊まっていた。


 すごいな……まさか宇宙にはもっと多くの種族が住んでいるのだろうか。


 ここで不思議なことに気付いた。


 おりたったデッキはドアなどで閉鎖されておらず、宇宙空間と完全につながって開け放たれているように見える。


 なのに、俺のセンサーでは普通に空気が存在していて、酸素もある。むしろ地上の空気よりも清浄だ。


 超技術すぎる。あの出入り口に、見えないシールドみたいなのがあるのか?


「……ミリア、ここにはどうやら空気があるようだな」


「え?水が無ければ空気があるのは、普通なんじゃないですか?」


 ああ、彼女たちは宇宙に空気が無い事をしらないのか。

 あまりにも当然すぎて忘れてた。彼らにはもっと基本的なことから教えないといけないな。


 雑談みたいな感じでポトポトの妖怪たちに宇宙の基本的な事を教えていると、そこにどこからともなくロボットがやって来た。


 何となく既視感のある、箱に手が付いたみたいなロボットだ。


 そいつは一つの車輪で器用にバランスを取りながら走り寄ってくると、ずいぶんと陽気な感じで俺たちに話しかけてきた。


『YOHO!ようこそいらっしゃいました。案内役のHEX-BOXと申します。お荷物は全てお持ちしますので私にどうぞ!ヤハー!』

 

 なるほど、この宇宙港はこういったロボットだけで維持されているのか。


「……特に荷物はもっていない。ありがとう」


『ヤッター!手ぶらで帰れるぅ!ああそれと、絶対に歩いたりしないでくださいね!!いますぐ移動用のトレーラーが来ますので!』


「……ああ」

「なんだか、至れり尽くせりって感じですね?」


 まあ、ここはたしかにロボットの言うとおりだな。


 ここが宇宙港ということを考えれば当たり前の対応だ。

 身勝手に出歩かれてしまうと事故の元になる。


 空港なんかでもそうだからな。人の移動も、コンピューターによって細かく適切に管理されているのだろう。


 すぐに我々の元にトレーラーが届けられた。乗り込むとそのまますっと移動を初めて、宇宙港の居住エリアと思しき場所に届けられた。


 なんとも効率的だ。待合時間ゼロでいきなり快適な部屋に送られるとは。


 しかも部屋には執事風のロボットまでいるじゃないか。


『SP-Fiveと申します、ファイブとお呼びください。何でもお申し付けください』


「よろしくお願いしますね、ファイブさん」


 ミリアの挨拶にうやうやしくお辞儀をするファイブ。

 どうやら礼儀作法も我々に合わせているのではないだろうか。

 そんな気がする。


 しかし、事件は起きた。

 ミリアがコップをとって水を汲もうとした瞬間にそれが起きたのだ。


『いけません!!』


 ファイブが目から赤い光線を発し、ミリアが手に持ったコップを焼き払ったのだ!


「何するんですか!危ないでしょう!!」


『失礼しました。有機生命体の方がガラスのコップを手にした際0.002%の可能性で地面に落とし、怪我をする可能性が2%の確立で発生しますので』


『私がコップに水を注ぎますので、お待ちください』


「はぁ」


 なんか嫌な予感がしてきたぞ……?


『ええ!ええ!あなた方は何もしなくて大丈夫です!!すべては私どもが行いますので!!』


「……そうか因みに聞いてもいいか?ハンガーに泊まっている艦、あれに乗っていた連中は、今どうしている?」


『この宇宙港で、命の危険が「ゼロ」の、幸福で安全な生活を送っています。我々のモットーは「奉仕と繁栄」をですから』


(ナビさん、俺、猛烈に嫌な予感がしてきたんだけど?)

(Cis. 機人様、奇遇ですね。私も最悪に近い予測が立ちました)


「ひとつ聞いていいか宇宙船の危険性について君たちはどう考えている?」


『複雑系モデルの極地であり、実に予測のつかない危険な「乗り物」です。私どもの危険予測では、常に最高ランクの危険物として扱っておりますが、何か?』


「勝手に乗り込もうとしたクルーには君たちはどう対応している?」


『非合理で危険な存在として安全化いたします。それが何か?』


(やっぱだめなやつじゃねーか!!!!)

(これは、いつもと同じようなことになりそうですね……)


(ドチクショオオオオオオ!!何でどこにもマトモな奴がいねえんだよおお!!)

(一番マトモでない人が何か言ってますが、さて、どうしましょうかねコレ?)



 機人とナビ、そしてポトポトの妖怪たちは遠く離れた銀河のすみっこを活躍の場に移し、そしてここでもまた、いろいろとやらかすことになるのですが……。


 それはまた別のお話。

 別の機会に語ることとしましょう。


 おしまい。

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俺、人型兵器転生。なぜかゴブリンとかエルフがいる未来の崩壊世界を近代兵器で無双する。 ねくろん@カクヨム @nechron_kkym

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