第21話 久々にキレちまったぜ・・・表に出ろや

 3人が席に着いたところで絡みに行く。ちょまてよと制止する叔父さんには親指を立てておく。

「どうせご注文はドリンクバーだろ。家族向けのレストランで詐欺まがいの勧誘は迷惑行為だぜ」

「お前!」

 三好が身を乗り出してくる。金子女史は俺を見ただけでブチギレて震えていた。童貞の人はポカンとしている。

「お兄さんは今からマルチに勧誘されるんですよ。数あるマルチ屋さんの中でもここはクソだからやめた方がいいですよ」

「え、マジで?っていうか君小学生だよね?」

 やっぱりそこ気になるよね。

「あ、俺もちょっとやってたけど、借金背負わせられて首吊ろうかと思ったよ。ははは」

 叔父さんの助け舟が来た。意外とやる気じゃないの。

「何言ってんだおま・・・」

 三好のカットインをカットして話を続ける。

「このハニトラ女はそこの三好と付き合ってるし、成功者アピール用のブランドバッグはパチモンですよ。話を聞かずに今すぐ帰った方がいいっすよ」

 金子が三好を見ている。お前がなんとかしろよという事だろう。

「おい、ヒモ野郎。たまには役に立てよ」

 ここぞとばかりに煽ってやると図星だったのか、目をむいて三好が襲い掛かってきた。襟首を掴まれた瞬間に膝で金的を入れた。流石に大人を腹パンで沈めるのは無理だからなぁ、ごめんね。

「ぐぇ」

 股間を抑えて蹲る三好。めちゃくちゃ楽しくなってきた。

「おい翔・・・」

 と言いつつ半笑いの叔父さんである。そうだよな、こいつの睾丸は許せんよな。

「だっさ。小学生にやられるって生き恥だよ」

 煽りを入れてやるが反応がない。脂汗が凄いのでとても痛いのだろう。金子がゴミを見る目で三好を見ている。切ない。

「立てよ。タマ無しだから無理か?ズべ公が睨んでるぞ。がんばれよ!」

 更に応援すると、グギギギギなどと言いながら三好が立ち上がってきた。怒りの力で動いていそうだ。目が血走っている。

「久々にキレちまったぜ・・・表に出ろや」

 と、三好の気持ちを代弁してやり、店外に出る。

 すると、三好がゾンビのように付いてくる。俺を殴りたくて堪らないのだろう。必死である。涙が出そうだ。

「おらおら、ちんたらしてんじゃねーぞノロマ」

 エールを送りつつ、人目に付かないところまで誘導していく。やがて怒りパワーが尽き三好が片膝をついた。チャンスだ。一気に距離をつめ、大技を仕掛ける。

 シャイニングウィザード。

 ビームが出そうな名前だが、三好の膝を踏み台にして、その顎をめがけて膝蹴りを放った。

 改心の一撃だった。無言で崩れ落ちる三好。やべ、死んでないよな?息はある。問題なし。たぶん。

「翔ー!」

 慌てて会計を済ませてきたのであろう叔父さんが駆け寄ってきた。うつぶせに倒れてピクリともしない三好を見てさっと顔を青くした。

「おい、これ・・・」

「大丈夫死んでないよ。ちょっとシャイニングウィザード思いの外いい感じに決まってね」

「え?」

「そんなことより手伝ってよ。仰向けにしたいんだ」

 叔父さんの手を借り、三好を仰向けにした。更にズボン脱がせて下半身を露出させる。睾丸は潰れてないな。ヨシ。

「お、おい」

「叔父さん携帯貸してよ」

 叔父さんの携帯には何故かカメラがついてる。当たり前ではない。カメラ付き携帯が出たのは2000年頃なので、2001年現在ではまだそこまで普及していないのだ。金もなく、カメラに用もなさそうな叔父さんにこの端末は不相応なのだ。何を撮っているのかは見ないようにしよう。

 携帯で三好のあられもない姿をパシャパシャと撮る。画質は低いがまあよいだろう。

「俺の携帯で変なもん撮るなよ」

「ごめんね。でも消すなよ。後で三好にメール送っといてよ」

 やりすぎて叔父さんに怒られるかと思ったが、そんなことはなかった。失恋とマルチ詐欺にやられたのがよほど傷になっていたのだろうか。嬉しそうな表情である。復讐は虚しいなんて嘘だね。復讐は喜びなのだ。性格は悪くなりそうだが。しかし、本来はいかれた200万円を取り戻したいところなんだよなぁ。どうしたものかと思っていると、金子がやってきた。

 汚物を見る目になっているかと思ったら、そんなことはなかった。フルボッコにされた三好をみて完全に怯えていた。暴力は怖いよねそりゃ。

「おい」

 交渉してみることにする。

「・・・なによ」

「ご存じの通りうちの叔父さんが200万円でゴミを買わされたんだ。お前が買い取れよ」

「なんで私がそんなことしないといけないのよ」

「お前が叔父さんを騙したんだろ。それにお前らの価値観ではあのゴミには価値があるんだからいいだろ。仕入れ原価でいいって言ってんだから良心的だろ」

「いやよ」

「は?」

 と言いつつ三好を指さす。

「・・・無理よ。そんなお金ないわよ・・・」

 まあありえる話なんだよなぁ。こいつも借金を抱えていてもおかしくはない。そもそも200万円もの大金を払わせるなんて現実には不可能だ。死ぬほど脅せば別だろうが、流石に警察のお世話になってしまうだろう。

 じゃあ三好を脅すか?これも危ない。現状でも警察に行かれたらアウトなのだ。小学生にやられたとは言えないだろうからたぶんセーフというのが俺の認識である。更に200万円を恐喝しようとしたらたぶんアウトだ。

「じゃあ慰謝料を請求する」

「え?」

「あるだけ出せ」

 もう一度三好を指さす。まだ下半身丸出しである。

 しかし、俯いて沈黙している。

「これで手打ちにしてやるから出せよ」

 ようやく財布を出したので、ひったくってやった。さっきから犯罪ばかりしている。

「ちょっと!」

 金子の抗議を無視して財布を開ける。札を全部出したら10万ぐらいあった。

「これで勘弁してやるよ」

 財布をポイ捨てしようと思ったが、悪役ムーブがすぎるので手渡しで返却しておく。

「行こうぜ叔父さん」

「おう」

 おう、じゃないが。恐喝だよこれ?平然としすぎじゃないか?

 しばらく歩いて、こっそり三好から取り上げておいた財布を出した。

「オマエ、ソレッテ・・・」

「三好の近くに落ちてたんだ」

 現金を抜き出して、残りは捨ておく。誰か親切な人が届けてくれるに違いない。千円札しか入ってなかった。しけてやがる。

「あげるよ」

 汚れた金は全部叔父さんに押し付ける事にした。これで共犯である。

「いや、これは・・・」

「お金とられたのは叔父さんじゃないの」

「お、おう」

 とんでもないものを押し付けられた顔をしているが、実際にとんでもないものを押し付けられたのだ。強盗と恐喝の成果である。

 法律的にいえば完全に俺に否がある。犯罪者である。しかしだ。200万円で人が首を吊ることもあるのだ。気絶するほど殴られて下半身丸出しにされて、ちょっと現金をとられるぐらいされても仕方ないだろう。俺ルールではセーフだ、ということにしておく。

「帰ろうか」

 こんなことばかりしていると、少年院編が始まってしまいそうだ。法に触れる行為は慎まなくてはならない。まあ今回は叔父さんを救えたのでよしとしよう。

 それにしても叔父さんがマルチにはまってたとはなぁ。全然知らなかった。そんなそぶりも無かったと思うし。

 ・・・。

 そうだ。いくら思い返しても叔父さんがマルチにはまっていた事を示す記憶はかけらも出てこない。俺が大学に入って地元を離れるまではよく実家に遊びに来ていたし、俺も叔父さんの家に遊びに行っていた。実家でも叔父さんの家でもニューカキンの製品を見た事がない。インチキビジネスマンスタイルの叔父さんを見たこともない。元の時間軸では、叔父さんはマルチをやってないのではないだろうか。

 だとすると、タイムリープしてきた俺のせいで叔父さんはマルチ商法に手を出した事にならないか。

 心当たりはある。未来の叔父さんの情報を少し伝えてしまったし、勧誘されている時に色々口を出してしまった。叔父さんの自尊心を傷つけてしまったのだ。そして社会的に成功しなければならない、などと思わせてしまった。その可能性は高いように思う。

 やってしまったのか?やってしまったのだろう。余計ないざこざを引き起こし、解決(?)した。マッチポンプだ。

 叔父さんの顔を見上げる。少し興奮気味で楽しそうな表情をしている。申し訳なさに心が痛んだ。

 そういえば今回はポイントも付与されていない・・・。

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ポエムから始まる2001年黒歴史の旅 前田・S・テツフク @himono99

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