最終話.幼なじみ→
「じゃあみっちー、せえのっ!」
「「メリークリスマス~!」」
赤いサンタ帽をかぶった沙那とパン! とクラッカーを鳴らす。桐龍の目の前でお互いの想いを告白し合ったあと、俺の部屋でクリスマスパーティーをすることになった。
今でもドキドキが止まらない。とても現実とは思えない。あの本当の野外の寒さで凍死してて、幻の中で見てる虚構だったりする? 白装束を着て幽体ホワイトクリスマス? やかましいわ。
「にしても準備がいいね? フライドチキンもホールのケーキも買ってくれてるし」
「それは、まあ……」
「ここまで計算済みですか? 秀才のみっちーくんは」
「……うるせえ、察してくれよ」
俺は俺で、マフラーを渡すと同時に沙那に『好き』を伝えるつもりだった。100パーの勝算なんてもちろんなかったが……、もしもいい感じになったらせっかくだしパーティーで楽しみたいと思って準備をしておいた。我ながらファインプレー。
「やっさし~。さすが私が好きになっちゃった男の子なだけありますね」
そんなことを言いながら、沙那は俺の頭を優しくポンポンする。まるでこの準備の労をねぎらうように。
「あー、照れないでよぅ! 私も照れちゃうじゃーん!」
「て、照れるってそんなの……」
人にさんざんウブだのなんだの言っておいて、俺が一番こういうのに脆いというオチつき。ま、経験ゼロ男くんだし仕方あるまい。
「で、でもまさかこんなことになっちゃうなんてね~」
えへへと苦笑する沙那。唇をいじいじと指先でさわって、さっきのキスを思い出しているよう。
……忘れらんねえよ。あんなに頭がはじけ飛びそうな甘い刺激を喰らったのは生まれて初めてだ。
「一つ言っておくと、別に櫂斗くんに見せつけてイジワルをしてやろうってことじゃなかったんだからね」
「ほう……」
「櫂斗くんを見てたら人を好きになる気持ちをドンドン思い出しちゃって、自分の気持ち――みっちーが大好きだって爆発しちゃったのがたまたまあそこだったんだよ」
「それを聞けてなんか安心したわ」
桐龍に劣等感を味わわせるための、見世物みたいなキスだったとしたらさすがに怒っていたからな。沙那がしっかりと俺を好きで、求めてくれた。あぁ、しあわせ……。
「んー、おいひぃ! このイチゴめっちゃあま~いっ!」
とはいえ無邪気に幼なじみフォルム。この経験が、沙那をすっごく大きく成長させたのかもしれない。人に頼らずに自分の意志でもって未来を切り拓いて、
「ねぇみっちー」
「ん?」
「そ、その……さっ。あ、あーんってやっても……いい?」
そして、勇気を振り絞ってこんなことまでしようとしてくれる。
幼なじみとしての俺にならいざ知らず、今は好きな恋人相手の『あーん』になるわけで。そのこっぱずかしさを克服しようとしてくれるのも嬉しい。
「そうしてくれると俺は嬉しいけど……沙那は恥ずかしくないの?」
「は、はじゅ……かしくはあるけどぉ……」
ケーキを突き刺したフォークを持ちながら、沙那が顔を薄く赤らめる。頭のサンタ帽に顔色が近づく。
そして沙那はひくひくと上唇を動かしながら、
「で、でももう同じ失敗はしたくないから……。しゅ、しゅきな人にずうっとしゅきだって思ってもらえるように、その――」
そしてかわいい流し目で俺を見ながらこう言う。
「がんばって、あぴーりゅできる私でいたいから……」
「か……っ!」
可愛すぎやしねえか? この穢れのない感じ、全身全霊をかけて守りたいです。特別天然記念物に制定したい。
「まったりやっていければいいなって思うけど、あーんはして欲しい……かも」
沙那がそう言ってくれるなら。せっかく恋人っぽいことができるチャンスだし。
「じゃあいくね?」
沙那はスルリと俺が開けた口の中にケーキを入れてくれた。そして捨て犬のようなつぶらな瞳で俺が食べているところを眺めている。
「ど、どうかした?」
「ひいっ! た、食べてるみっちーが可愛いなって思っただけだよぅ……」
沙那も本質的にはこういうベッタリした恋愛は初めてだ。だからお互いに不器用で。
……あ、俺だってお返しをしないといけないんじゃないか? 恋人同士になってやられっぱなしってのは違う気がする。
「ごっほん! えーと、沙那」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「俺からもあーんを進呈します」
どっかの表彰式みたいになったぞ! 固くなりすぎだバカ!
「よ、喜んで……」
あー、と口を開ける沙那は舌をペロっと出しておねだり。そのあどけない顔が無防備で変な妄想をくすぐられる……!
「…………」
「ど、どしたのみっちー。こんなマヌケ顔ずっと見られてもはずかしいよ? ……早くいれて」
「! ごめんごめん!」
いかん沙那が可愛すぎてボーっと顔を見てしまった。にしても言い方!
慌ててケーキを食べさせると、沙那は噛みしめるようにそれを食べた。
「……あまい」
「そうだな。甘いな」
なんだその考え込むような顔。ケーキは甘い。甘味料と砂糖をふんだんに使ってるからな。
……って!!!!!!!
「でも、こっちのがもーーーーっとあみゃい♡」
油断した瞬間、沙那が俺を床に押し倒して再び唇を重ねてきた。
「ふ、不意打ちだって……!」
「不意打ちのほうがどきどきするでしょ?」
「それはそうだけどさ……!」
でも、こんな衝動的に……! だが、それが沙那っぽいのかな。
どこか不器用。家でしっぽりと行うクリスマスパーティー。プレゼントだって、高いとは言えないマフラー。
でも、それが俺らっぽくていい。少し背伸びをしながら、また恥ずかしがりながら。
そうして、一緒に大きくなっていきたい。今までがそうだったみたいに。
「みっちー、だーいすきだよっ!」
太陽のような沙那の笑顔が、俺を明るく照らしてくれた。
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沙那とみっちーの物語を応援していただき、ありがとうございました!
私事ですが1年ほど執筆を続けてきて徐々に『面白いもの』や『カクヨムで求められるもの』が手触りでわかってきました。
ということで、早速次の作品を投下します!
『クラス一人気のギャルを『論破』で助けたら、知的陰キャの俺にべったりの可愛すぎる友達になってくれた』
ちょっとひねくれた頭脳系の陰キャが、ギャルを論破で救うところからイチャコラし出す凹凸ラブコメです。
しょっぱなから糖度高めで飛ばしていきます!
https://kakuyomu.jp/works/16817330650748750578
応援していただけると嬉しいです!
【完結】胸クソ彼氏で初恋を喪失した超ピュアな幼なじみを抱きしめたら、俺にデッレデレになりました。~クソ彼を差し置いて、幼なじみが今さら男女としてドキドキし始めた件~ 夢々ぴろと @HIROTO_Genesis
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