3話

「ゴホ……ゴホッ……痛ってぇ……あれ、どういうことだ……」

 地面に叩きつけられた頭をさすりながら、ゆっくりと身を起こす。

 ——が、そこは、さっきまでいた崩壊した街ではなく、俺の部屋だった。

「…………」

 どういうことなのか、俺の頭がついていけない。もしかしたら、頭を強くぶつけたせいでバグっているのかもしれない。

 ……いや、そんなことはなかった。確かに痛いけど、そこまで激痛というほどではない。


「——ねえ、だい、じょうぶ?」


 ——俺の頭上から、小さくか細い声が聞こえた。

 段々と意識が戻ってくる。部屋を見渡すと、俺の見間違いじゃなければ、真っ白い足が見えた。

 俺はゆっくりと顔を上げた。

「——あ」

顔を上げると、そこには——さっきの、少女が、俺の部屋にいた。

少女は俺のことを見下ろしている。対して俺が目にしたのは——その少女のパンツだった。丸見えである。

「…………どういうことだ?」

状況が理解できない。この少女は、俺のことを突き飛ばしたはずだが……いや、何を言っている。

「おちついて、きいて。わ、たしは、さっきの……わたし、じゃ、ない」

「……………?」

 待て待て、理解できない。その少女の喋り方が、最もそうだろう。途切れ途切れで喋っているため、全く理解ができないのだ。

 ……そう言えば、人間じゃないって言ってたよな。それも、あるのかもしれない。

 人間じゃないため、正しい言語が喋れない?だから、途切れ途切れになるのかもしれない。

「さっきのは……べつの、わたし、なの」

「別の君……?つまり、二重人格か何かか?」

「にじゅう、じんかく……?」

 俺がそう解釈すると、その少女は軽く首を傾げて俺を見た。恐らくその少女は、二重人格という言葉、というかその意味を知らないのだろう。

「あー……なんていうのかな……その、簡単に言えば、別の自分みたいな?自分の中に、別の性格が表れるみたいな……?」

 多分だが、あってると思う。大体の意味は同じだと思うし……。

「……ちがう。さっきのは、べつの、わたし、なの」

 首を横に振りながらそう言う。

 ……二重人格じゃなければ、この少女が、もう一人いるということなのか?

「もう一人の君がいるのか?」

「……そう、だと、おもう」

 途切れ途切れで、俺の言ったことに頷いた。

 俺は、まだ痛む頭をさすりながらその場に立ち上がる。

「君……名前は?」

「…………なま、え?」

 俺がそう聞くと、その少女はまたも首を傾げ俺を見た。

 ウソだろ。まさか、自分の名前が分からないなんて……。

「そんなの、ない」

 失礼。名前が分からないんじゃなくて、ありませんでした。……なんだと?

「名前が……ない?」

「……うん」

 こちらを見上げるような体勢で、頬をかいた。

「名前か……あ、そうだ!」

 と、俺はそういえばと言うように、机の上にあったプロットを手に取った。

「ええと……これだ」

 俺は椅子に座ると、その少女をこっちに来るように手招きする。

「——って!?」

「……?」

 いや、普通に目の前に来てほしかったんだが……なぜか、その少女は、俺の膝の上にまたがった。それも、俺の方を見る形で。

 少女の、柔らかい太ももの感触が伝わってくる。……おっと、これ以上いったらマズイ。

「それでだな……」

 俺はその感触に意識がいかないように、手にしたプロットを見る。

「突然だけど、君に名前つけてもいいか?」

「……な、まえ……うん、いい、よ」

 その少女から了承を得たところで、俺は少女に付ける名前を選んだ。


「——君は、愛浦莉緒あいうらりお。いいか?」


「あい、うら……り、お?」

「ああ、そうだ」

「……うん。わか、った」

 ——愛浦莉緒という名前は、元々小説で使おうとしていた名前だ。設定としては、結構やんちゃで、主人公に手を焼かせるという……主人公としては、ある意味迷惑な女の子。

 それに対してこの子は、全然そんな雰囲気はない。

「じ、じゃあ、お、おにい、さんの、なまえは?」

おぼつかない言葉で、そう聞いてくる——莉緒。

「俺は、高橋裕翔。これから、よろしくな——莉緒」

「……う、んっ」

 そのちっこい体を、俺に預けるように抱き着いてくる。

 ——崩壊した街でもそうだったが、この子には体温がない。まるで、氷を全身に当てられたかのような感じ。

 やっぱりこの子は、人間じゃないんだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少女借りちゃいますね! minonライル @minon13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ