PUNK SPIRITS OF UNDER DOG
深川我無
PUNK SPIRITS OF UNDER DOG
私が彼らに出会ったのは
武蔵野の小さなライブハウスだった。
do do do do
zuzuti zuzuti zuzuti
重たい扉の向こうから
バスドラとスネアの音が遠く響いている。
f#kvんsぇいrg@shb~~~~~
不明瞭な旋律とボーカルの声。
「ワンドリンク制になってます」
500円玉を手渡してドリンクの券を受け取る。
スタッフが重たい防音扉を開けた瞬間だった……
音圧
熱狂
叫び
音楽には程遠く
歌と言うには生々しすぎた。
それは音楽でもロックでも
パンクでもない。
PUNK SPIRITS OF UNDER DOG
そのものだった。
ティッシュに精子ぶち撒けったって
なぁあんにも生まれないぜえぇぇぇぇえええ
嗚呼ああぁぁああああああああ!!
今街中で撒き散らしてるモノも
何もっ生みっ出さないぜええええぇえええ
ぎゃあああああああああぁああ!!
ただ壊すだけ
BOOM!!
ただ殺すだけ
BOOM!!
ダダで殺すだけっっつ!!
BOOM!!
爆音。
真っ赤なギブソンのレスポール
バタースコッチのテレキャス。
黒いスティングレイ
パールのドラムセット。
爆音。
かすれきったシャウト。
ボーカルの漢がリードギターの漢と背中合わせになりギターソロが始まる
ギターソロを弾く。
いや
挽く、曳く、惹く。
たった四人で放つその音は
一瞬で私の世界を破壊してしまった。
「あけみ!!」
叫びながらレーコが近づいてきた。
「来てくれてありがとーー!!」
レーコが大声で叫ぶ。
「彼氏すごいね!!」
私も叫んだ。
「でしょ!! 絶対有名になるよ!!」
あらためてステージを見た。
愛国心はねぇよ!!
俺をイジめるこの国に
そんなのあるわけねぇだろ!?
大和魂もねぇよおおお!!
そんなん見たこともねぇわ!!
俺が産まれて見てきたモノ!!
テレビ! ゲーム! 漫画! ポルノ!!
クズで馬鹿な親父とお袋!!
それが垂れ流す排泄物!!
それを食って育ったのが俺です!!
どうしようもねぇうんこ汁の産物!!
赤と青のスポットライトが点滅して
ボーカルの漢を照らした。
彼の名はシン。
観客たちは男も女も
彼に向かってその名を叫んでいた。
私の親友のレーコは彼の彼女らしい。
男好きで派手だが気の良い奴だ。
足繁くライブに通い出待ちして
勝ち取ったらしい。
曲が終わり、次の曲も終わり、シンがミネラルウォーターを口に含んだ。
そのとき一瞬だけ彼と目があった。
「よぉ! お前らの痛みは俺が全部背負ってやるよ!」
ドラムが高鳴りシンが叫ぶ。
おおおおおおおおおおおおおおお!!
観客が応える。
「お前らの痛みは!! 俺が背負ってやるよおおおお!!」
うぉおおおおおおおおおお!!
「俺が傷つけばよぉ!! お前らは前向けんのかよ!?」
おおおおおおおおおおおおお!!
「俺が血ぃ流せば、お前らは流さずに済むのかよおおおおお!?」
うおぉおおおおおおおおおおお!!
ドラムが煽るようにバスドラを響かせ始める。
ベースが鼓動し全身の血液を加速させる。
ギターが凶悪なディストーションでフレーズを奏でる。
シンは手首を切り裂いて観客に鮮血を浴びせた。
熱狂。
流血。
悲鳴。
それでもシンは叫ぶ。
痛みを知ってるか!
お前ら痛みを知ってんのか!?
偉そうに人様の上にふんぞり返る大人は
俺たちの痛みを知ってんのか!?
人の上に立つてめえらが!!
痛みを知らずにつくるルールが!!
今日も俺たちを痛くする!!
俺は知ってるぞ!!
BOOOO!!
俺は知ってるぞ!!
BOOOO!!
俺!!
は!!
知っ!!
て!!
る!!
ぞおぉおお!!
Tシャツを脱いだシンの身体は傷だらけだった。
ボッチで便所で食う飯の味ぃいい!!
話しかけるかどうか迷って
やっと声をかけたら間が悪くて
陽キャの男に持っていかれて
あとに残された孤独と惨めさ
自信の欠片もない!!
なのに膨らんだ自尊心!!
まともに人の目が見れない!!
怒ってるのにヘラヘラした作り笑い!!
俺は惨めさ!!
俺は知ってるぞ!!
BOOOO!!
俺は知ってるぞ!!
BOOOO!!
お・れ・は・・・・
そう叫ぶ途中でシンは倒れた。
会場が騒然となって
シン……と静まり返った。
すぐにスタッフが飛び出してきた。
救急車を呼べと誰かが叫んだ。
こうして
PUNK SPIRITS OF UNDER DOGは
二度と表舞台に出てくることはなかった。
レーコはある日突然家に来て
私を思いっきり殴ると
倒れた私に絶交宣言をして去っていった。
私は就職して冴えないOLになった。
残業が終わって帰る途中
深夜の公園で
私はシンに再開した。
黄色い武蔵野の満月の下
汚いギブソンのアコースティックギターを抱えて
彼はあぐらをかいて歌っていた。
その声は荒々しいライブの時と違って
驚くほど優しかった。
思わず立ち止まるとシンは私の方を見て演奏の手を止めた。
「あ。あけみちゃんだww」
「なんで知ってんの……?」
「れーこの隣にいたっしょ? 覚えてんよ」
そういってシンは一本欠けた前歯を見せて笑った。
「いや。それじゃ名前わかんないっしょ……」
「れーこに聞いた。隣にいた娘の名前教えてって。SEXしたいからって。そしたら殴られて前歯折れたww」
「私もいきなり殴られた。あんたのせいじゃん……」
「マジでウケんね。ね! SEXしようよ!」
「しないよ。いきなりヤリチンとするわけないじゃん」
「俺ドーテーだよ」
「そんなん絶対嘘じゃん……」
「マジマジ。いざその時になったら勃たねぇの。でもあけみちゃんならイケる気がする」
「なんでよ?」
「俺とおんなじ目ぇしてたから」
そういってシンは私の目を真っ直ぐ見据えた。
透明で驚くほど綺麗な無垢な目だった。
「意味わかんないし……」
「痛みを知らない奴らが、痛い人間にもっと痛みを押し付けてくる」
「はぁ? なんなん?」
「そのことに怒ってる奴の目」
「……」
「図星っしょ? ww」
「だからSEXしようよ!」
無垢な目でシンは笑う。
一瞬迷ってから私は言った。
「今から即興で歌ってよ。それが良かったらSEXする」
シシシと笑って、彼はギターを抱えた。
愛を求めて彷徨う同性愛者達の鎮魂歌
だけど教会の鐘は彼らには鳴らない
寂しさに震えて隠れる穴を探す僕の男根が
君に締め付けられればいいのに
今も疼いてるこめかみの弾痕が
仲間たちが去り際に見せた落胆の弾丸
ぜんぶ ぜんぶ ぜんぶ
ぜんぶ ぜんぶ ぜんぶ
決して無かったことにはならないでしょう
痛みが消えることもないでしょう
強い人は相変わらずイジめるでしょう
弱い僕らは泣くでしょう
だけど痛みは忘れないから
君の痛みを忘れないから
君を忘れないから
君を忘れられないから
君が今日も
君がいるから
君が
傷を晒してよ
傷を晒すから
それを背負うから
これを背負ってよ
歌い終わって
彼は一本欠けた前歯を見せて笑った。
私は何故か泣いた。
「それは良かったってこと?」
涙を指さしてシンが言う。
一瞬迷ってから私は答えた。
「かもね」
Fin
PUNK SPIRITS OF UNDER DOG 深川我無 @mumusha
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