第3話 レモンティー

「これじゃあ、まるでストーカーみたいだな・・・」



奥のトイレに入ったのを確認する、今日一日で彼女が誰かと会って行動している姿は見て取れない。

女体化して数日、俺は矢野三守の後を追っていた。追うと言っても家まで付きまとうようなことをしない、あくまで学校生活の中でだ。


『三守さんって、同性にはあまり人気がないんだよね』


俺は女体化した初日に早坂が言っていたあの言葉がどうしても気になっていたのだ。彼女ほどの顔が整って美人である彼女がまるでぼっちかのような

存在とは思えなかったからである。同性になったことで見えてこなかったものが分かるようになりはしたが、気に入らないからそういった噓をつく

事だってある。


「にしてもこれが男のまんまだったら確実に退学だな、いや変態野郎として卒業まで女子から距離を置かれるかもしれない・・・」


先程から自分が手に入れた情報なんて言うのは彼女がよく買う飲み物や学食・どこのトイレを使用するのか、

なんてかなりマニアックな個人情報しか集まっていない。誰かと付き合っているのではないかとか他クラスの誰と仲が良いのかなんて事を

知りたかったのにかなり思っていた方向性とは違っていた。


「てか、本人に直接接近していけばいいはずなのに何してんだ…やっぱりまだきんちょ」


「おーい、千冬じゃん!そこで何してるの~?」


後ろからきた声の方向に振り向くと、今会いたくない人物がそこには立っていた。楽しそうなことに興味を持ち首を突っ込んでいくスタイルで

ある人からしたら有難いけどその逆もまたしかり、ただ今の自分にとっては後者でありこの早坂凛は今まさに面白そうな事を見つけたようで飛び切りの笑顔を見せていた。

俺はもう逃げれないと悟り、彼女に包み隠さずに彼女に説明していった。


「なるほどね~、そんな楽しそうなことをやっているんだ。まさか三守さんのことをね~」


「でもさ~、三守さんの人間関係とかもよくわかんないし仲良くなるのは危なくない?もしかしたら他校のやばい系の生徒とつるんでいるかもしれないよ~」


「いや、それは大丈夫だと思う。自分で言うのもアレだけどきっと彼女はそういうのとは無縁の女子だと思うんだ」


これは本音だ。数日間、彼女のことを尾行していたが、もし他校の生徒とやり取りをしているのであればスマホを見る回数は高いはず。

それが彼女に関しては自分のスマホを全く見ていなかった。なんだったらバックの中にしまい込んでいるほどで癖のように触っている他の女子と比べても

その線は明らかに低いように思えてしまう。


俺からの返答があまり面白くなかったのか、早坂は足の向きを変えて教室へと戻っていった。

そこまで彼女の何を苦手としているのだろうか、嫌なのだろうか。今の俺にはまだ分からない




「あーー、もう一日が終わってしまった・・・」


夕焼けが眩しい教室。廊下にもぽつぽつと人影はあるがほとんどの生徒は部活か帰宅でもしてようだ。あれから話しかけるタイミングを探してはいたのだが

どうにもタイミングが悪く彼女を捕まえらず今に至る。自分のコミュニケーション能力の低さに正直、驚きを越えて失望にあたっているような状態

ちなみに三守さんは、携帯をじっと見つめながら自席から動こうとしなかった。あれほど携帯を眺めなかった人が今は何を見ているのだろう


(考えても仕方ないか・・・また別の日にでも改めよう)


「ねぇ、なんで私のことをストーカーするの?」


席から立ちあがった瞬間、可愛らしい声で呼び止められた。あまり聞いたことのない声質で思わず声を失ってしまった


「あのさ、中野さん。ここ最近、私のことを付きまとっているでしょ。バレてないと思っているのか分からないけど気付いているから」


「あ~、やっぱり?バレてた?」


最大限ごまかそうとするも、分かりやすい演技は彼女に通用しないようで大きなため息をついた。

呆れたような目つきでこちらに視線を送っている。ただ、怒っているわけではないようだ。雰囲気でそれを察することができ俺はひとまず距離を置かれていないのだろう。


「それで?何の用なの?もし、直接的な要があるのなら話しかけてよね」


「そ、それはごめん!普段離さないからどうやって声を掛ければいいか分からなくて・・・あのさ、友達になってくれない?」


言えた。この言葉を言うことが、あの時の告白並みに心臓の鼓動が早くなっているのを実感する。やはりまだ緊張している俺とは関係なく

ぽかんとした顔でこちらを見つめており、その膠着が解けたと思えば彼女はため込んだものを吹き出すかのように笑い出した。


「ぷっ!はははっ!!そんなことで悩んでいたんだ~いいよ、よろしくね」


「え?案外あっさり・・・」



「友達になることはそこまでハードルの高いことじゃないでしょ?君が怖い人じゃないってことはわかったからさ」


そういって手に持っていたレモンティーを渡される。これが最初の友情の証なのだろうか。

それは分からないが、彼女の表情は噓偽りのないほどの笑顔だったのは答えだろう

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性別が変わればお近づきになれると思っていました・・・が! Rod-ルーズ @BFTsinon

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