美しき秋の流れ
りゅうこころ
美しき秋の流れ
十月四日。観光バスで県外からも観光客が訪れる毎年賑わう渓谷へと、七年ぶりに足を運んだ。当時はお気に入りの一眼レフを肩から下げて気楽に訪れたものだが、今回はすっかり小さくなってしまった母を支えながら一緒にヨチヨチ歩いている。
夏のそれに人工的な暖色ライトを当てて、全く関係の無い刀削麺やら飲茶やらを屋台で販売するのが最近の紅葉狩りらしい。なぜ中華なのかはさておき、鮎の塩焼きや田楽まであるのだから、この催しに様々なものを掛けている人がいらっしゃるのは疑いようの無い事実である。
木々の衣替えそっちのけでうっすら汗をかきながら並んでいる人々を見ていると、風情も何もあったものではないが、それらの露店に目を輝かせている小さな母が横にいる。花より団子とはよく言ったものだ。
そもそも歩いていて汗ばむくらいなのだから、木々に衣替えを急がせるのも無茶なれば、それを見て風情を語るのも本末転倒なのかもしれない。地球温暖化対策をすればするほど、気温が上がっていく現実に誰も意義を唱えないのが不思議なくらいだ。
落ちゆく花弁を愛でる春とは違い、枯れ落ちた葉は踏み散らかされて邪魔者扱いされ、掃き集められた後に処分される。来春には新芽が出ると理解していながらも、何だかもの悲しい気持ちに押しつぶされさそうになるこの季節が私は苦手だ。
隣ですっかり細くなった腕を覗かせながら田楽に齧り付いている母も、医師の所見では人口的であれなんであれ、色の着いた木の葉を見るのは最期になるだろう。
落葉と命の輪廻は同じなのかもしれないが、嬉しそうに頬張る横顔を見ていると複雑な心境になるのは否めない。
それにしても田楽に添えられた山椒の葉は、憎らしいほど青々として実に聡明だ。
美しき秋の流れ りゅうこころ @harunekokoro
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