煙草塗れ
ババババ
本文
「俺、禁煙しようかな」
イオリはボサボサの髪を揺らし、タバコを吹かしながら訪ねる。
「いや、火つけながら言うなや」
マツは文庫本から目を逸らし、コーヒーを含む。昼食を済ませたらタバコを吸いたくなるのは、喫煙者の常であり、そこにコーヒーが加わると最高でしかない。タバコが吸いたいと二人は街を彷徨っていたが、少し入り組んだ路地に、タバコを吸ってくださいと書いてあるような古びたカフェを見つけたので、急いでコーヒーを頼み、
「やっぱ健康志向ってやつだよ。老後の不安?長生き欲?みたいなもんか」
「なんでそんな奴の昼食がコーヒーにタバコだけなんだよ。体に悪いものしかないじゃないか」
大きく吸ったタバコをこちらに吹き付ける。
「お前だって一緒だろうが」
「僕は良いんよ。サンドイッチも頼んだからな」
「そんなペラペラな野菜だけじゃ寿命は伸びないな」
「気分だよ」
「そもそもお前、長生きしたいんか?」
数口吹かし、首を横に振って見せる。
「無いわ。いつ死んでもいい」
イオリは机に突っ伏しながらニヤリと笑い、「だよな」と納得した。少考したあと、あいにく指が空いてなかったため、タバコを相手の方へ向けた。
「当ててやろうか?お前昨日、映画見たろ?」
「残念アニメだ。お得意の推理?」
「アニメか。外したからもうこの話は止めだ」
「まあいいじゃんか。前から不思議なんだが、どうやって推理してんの?」
タバコの灰を落とし、嫌な顔をして見せる。
「適当言ってんの。なんか頭良くみえるやろ?」
「それでか。小難しい本読んでんのも」
「そういうことや。嘗めんなよ」
「まあ
「理論武装してるように見えるやろ?僕はイオリみたいにデカくないから知識をつけてんのよ」
「なんか馬鹿にされてない?」
「してないわ。もう一つ推理すると、お前は今から僕にお礼を言うはずさ」
言うが早いか、マツは店員を呼んだ。
「なん……あー……ありがと」
イオリのカップは空になっており、店員に再度コーヒーを注文した。
「
「これが威嚇やわ」
二人は無言でニヤつきあった。
「しかし、金が欲しくねぇか?」
「お前……今日はいきなりだな……」
コーヒーを数度注文した後に話し始めたイオリは、また脈絡のないことを言い始める。
「俺、気付いたんだよ。やっぱモテないのとか、生活の質って金がすべてだと思うんだよな」
「そりゃ、まあ否定するつもりは無いが……それ以外の幸せもあるやろ」
「そりゃお前はそこそこいい会社に勤めているからそんなことが言えるんだろうな。じゃあお前は金以外何が大事だと思うんだ?」
こいつはまた答えにくい質問を、と思いながら、茶を濁すようにコーヒーを飲む。
「MICだかの研究では仲間が大事って言ってたぞ」
「なにそれ?ラッパー?そうじゃなくてお前はどうなのよ」
「……僕は友達だと思う」
イオリは面食らった様な顔をして見せるとすぐいつものチシャ猫のようなにやけ顔をして見せる。顔ですら騒がしい男だ。
「なんだ~そうならそうと言えよ~」
「キショ。なんやどうしたんや」
「俺が大事ってことやろ?」
「まあ……そうやけど……でも、もしお前がお金持ちになって性格糞になったら普通に友達やめるからな?」
「それは嫌だな……」
イオリはコーヒーカップの縁を指で
「金か……友達か……」
「いや、なんで悩むんや」
「彼女か……マツか……」
「変な二択にしないでくれんか?」
「そう思うと、俺やっぱ禁煙した方がいいんじゃない?」
「話そこに繋がるん?」
仰々しく手を広げ、こちらを制止するようなジェスチャーをしてきた。
「まあまあ、最後まで聞きなんし。俺が禁煙するだろ?長生きするだろ?そしたら俺もお前も友達と末永く付き合えるわけよ」
「僕が禁煙しなかったら意味ないんや?」
「それは……ああ、そしたらマツの墓前でよ、タバコを吸ってやるよ」
「久々にタバコなんか吸ったぜ……てやつか」
「そう。で俺はお前の墓に線香代わりにタバコを差すわけよ。それで……」
「それで?なんて言うんかが大事やぞ」
イオリは腕組をし、頭を捻っている。
「それで……地獄で会おうぜ。かな」
「地獄行きか、僕は……」
「それっぽいだろ。まあこれくらいにして、買い物行こうぜ」
満足するほどに煙を浴び、アルカノイドを飲み込んだ僕らは、買い物の続きへ行こうと会計を済ませた。店から出てすぐ、名残惜しそうに店を眺める。
「さっきの……墓前のやつだけ気に入ったわ。先に死ななかった方が備える約束でいこうや」
「気に入るとはな……」
「ところで……お前カウボーイのアニメ見ただろ?」
イオリは今度こそ驚いた顔を浮かべる。
「今度のはちゃんとした推理か?」
「いや、理論で威嚇した」
僕らは二人して笑いあった。
煙草塗れ ババババ @netamiyasonemi
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