見ざる聞かざる言わざる

「雪兎」という道具を様々な角度から観察し、特徴を捉えて物語に活用していると思う。一見すると、可愛らしい変哲のない道具であるが、見方を変えれば浮かび上がってくる背景も自ずと違ってくるのだろう。イメージの転換といったらいいのだろうか。道具の持ち味を活かした作品であると思った。

「私にはこう見えているが、彼には違って見えているのだろう」と知っていながらも、あえて言わない。真実を語ることが必ずしも正解(彼にとっての幸福)であるとは限らないからだ。また、彼も真実を知る機会があったとしても、自分の世界を保持するために見ないし聞かない。「見ざる言わざる聞かざる」とはある意味では、正解よりも正解らしいのである。そういった、「いじらしさ」を感じさせられた。


 結末部がすっきりとまとめられているため、淋しさにも近い余韻を感じさせられた。その余韻が「雪兎」とイメージとぴったりと合っていて心地良い読後感を味わえた。語彙が豊富なので色んな読み方ができる作品でもある。詩的情緒が漂う、趣深い作品だった。