宗教勧誘が家に来た話
染谷市太郎
宗教勧誘が家に来た話
本日午後16時頃、宗教勧誘が我が家に訪問されました。
私はお風呂を洗おうとしていたところ、呼び鈴が鳴らされ、特に確認することなく玄関を開けました。
そこにいたのは二名の女性。
若い女性が私に挨拶をし、少し離れて立っている年配の女性が軽く頭を下げていました。
二人の姿を見た瞬間に、私は宗教勧誘か、と察しがつきました。
今回が初めてではないからです。
二人組の宗教勧誘は何度か我が家を訪れています。
そのたびに、私以外の家族が対応していました。
なので、私にとっては初めての対応です。
さてどうしようかと疑問符を頭に浮かべながら向かい合うことになりました。
私は無表情に近かったため、相手方には、機嫌が悪そうに見えたかもしれません。
だって帰ってきたばかりで疲れているのですもの。
さて、目の前に立つ若い女性は、宗教勧誘であることを名乗ったのち、私に生きづらいことはないか不安に思っていることはないか、ということを聞いてきました。
私はないと答えました。
本当にないからです。
しいて言うのであれば、小説が進まないことです。とはいえそれも、常に頭の中にあるわけではなく、神にすがるほどではありません。
神に願えば文章力が上昇すると言われても、おそらく私は信仰することはないでしょう。
他力本願になる気はないので。
実際、悩みがあったとしても、私は所属している団体にケアセンターがあるので残念ながら宗教には頼りません。
と、いうことを宗教勧誘の女性に説明しようとしたところ、来訪に気づいた家族が我が家はそういったものを受け付けない、ということで相手を帰らせました。
宗教勧誘の女性二名は、意外なことに、粘ることはありませんでした。
てっきりパンフレットのひとつでもおいていくと思ったのですが。
私は、わざわざ訪れてくださったのに無表情でお迎えしてしまったため、お疲れ様です、とだけ言ってお二人を送り出しました。
我が家に宗教勧誘が来ることは初めてではない、ということは前述のとおりですが、私が実際に宗教勧誘と面と向かって対応したのは初めてです。
世の中には、宗教勧誘に関して様々な経験談が流布しています。私もその話をいくつか読んだことはあります。
そういった話からは、宗教勧誘の方々は、奇妙で、しつこくて、あまり歓迎できるものではないという印象が読み取れます。
歓迎できない、という点だけは理解できます。いまのところ、神も仏も、近所の神社と寺で間に合っているため、他のものを受け入れるつもりはありませんので。
しかし、奇妙でしつこい、という印象は一変しました。
まず、かなりあっさりと帰っていただきました。非常にスムーズに、かつ問題も起きず。
つぎに、宗教勧誘に訪れた二人組は普通の方々でした。どこにでもいるような。スーパーや電車ですれ違っていそうな。そんな普通の方々です。
服装も、下手に質素で地味、というわけではありません。若い女性はチェックのおしゃれな上着を羽織っていました。年配の女性は黒系でしたが普通に私たちが利用する量販店で仕入れていそうな服でした。
話し方も、下手なセールスよりも丁寧で押しつけがましくない。きっと店の店員などをやらせれば人気が出るでしょう。
いずれにしても、ネット上で流布される印象とは全く合わず、私は彼女らが決して危険な存在ではない、また訪れられても困るがわざわざ指をさして排除するような存在ではない、ということがわかりました。
最近は、様々な問題により宗教というものが怪しい目で見られているような気がします。
あるいは、最近、という表現は正しくはないのかもしれません。宗教団体が引き起こした痛ましい事件は過去にもありました。
しかし、それらの事件を踏まえても、宗教勧誘で来訪した方を歓迎できないとはいえ、悪いものとして扱うこともできない、と私は思いました。
生存が容易になってしまった人間は、あまりにも様々なことを考えてしまいます。
こうして、文章を考え、書く、ということも、生きるということしか考えられない状態ではまずありえないのです。
思考の余剰があるとき、私たちは自己を認識し、そして理解しえない他者を知ります。他者はすぐ近くに、たくさんあります。しかし自己が己一つだけ。この孤独から何かにすがりたくなるのかもしれません。
すがる先が、宗教勧誘に来た方はその神だったというだけです。
すがる先が、私たちは彼女らとは別のものだったというだけです。
何か一部が違うだけで、彼女らは危険なものではなく、どこにでもいる隣人なのかもしれません。
少なくとも、取り立てて騒ぐようなものではないじゃないか。
これが私が初めて宗教勧誘に対応した感想でした。
宗教勧誘が家に来た話 染谷市太郎 @someyaititarou
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