テロ×テロ×リスト×リスト

渡貫とゐち

テロリスト『たち』

「……あれ?」


 指示された場所に爆弾を仕掛けている最中、既に一つ、爆弾が仕掛けられていることに気が付いた。……見た目から判断するに、規格が違うし、俺たちが計画に使う爆弾ではなさそうだが……。


 確認のために遠隔スイッチを押すわけにもいかない。


 俺たちが使用する爆弾の電源を入れていないのだから、遠隔スイッチを押したところで爆発することはないのだが、万が一、目の前の爆弾が仲間内での意思疎通の不足で、先に設置されてある俺たちの爆弾であって……電源が入っていれば――(規格が違うのでオンオフが分からない)この場でドカンである。さすがに確認する勇気が出なかった。


 それに、自宅のリモコンで隣の家のテレビが操作できるみたいに、爆弾は違うけど、リモコン側が一緒だとすると誤爆する可能性だってある……。

 この爆弾は今の内に除去するべきだろう。隣に仕掛けてもいいが、爆発のタイミングがずれると俺たちの計画に支障が出る。できるだけ不測の事態は避けたいところだ。


「正体不明の爆弾を発見した……取り除きたいんだが、配線を切って誤爆したら最悪だ。形状を伝えるから、外し方を教えてくれ」


『お前のところにもあったか? オレのところにもあったんだよな……、もしかしたら同時進行でこのビルを破壊しようとしている組織がいるのかもしれねえ……。

 爆破してくれるなら任せたいところだが、オレたちと相手さん側じゃあ、爆破のタイミングも違うだろ。予定より早く爆破されたら厄介だからな……。外すことに異論はねえが、正直なところオレも分からねえんだよな、この規格見た目――』


「? 俺たちの爆弾とそっくりだけどな」


『それを言い出したらみんなが使ってるスマホなんてそっくりだろ。もっと言えば、人間なんて二足歩行で歩いてるんだ、シルエットにしたら誰が誰だか判別はつきにくい……。

 だけど中身を見れば違うだろ? オレとお前じゃあ、対処の仕方が変わる。なにが怒りのスイッチになっているのか分からないんだ、気を遣うぜ――それと一緒さ。

 形状が似ているからと言って誤爆する配線が同じとは限らねえ。そもそも配線を切って爆破が止まるのかどうかも怪しいもんだ』


 規格が違えば……そうか、そういう可能性もあるのか。


 知らないからこそ、なにが起きるのか分からない。


 ついさっき回った場所には、別の爆弾は仕掛けられていなかった……、ということは遅れて別の誰かが爆弾を仕掛けるということだろう(爆弾を仕掛けるポイントは恐らく一致するはず……最適な爆弾の仕掛け場所があるのだ)。その時、相手はどうするのか……。


 作戦実行までまだ時間がある……、確認しておいて損はないだろう。


「俺たちの爆弾を見つけた時の、相手組織の出方を見てみる……、話し合いができるなら爆破のタイミングを一致させて、トラブルを回避することも視野に入れてもいいだろ?」


『そうだな……まあ、オレらはそのトラブルを爆破で起こそうって計画なんだがな』


 パニックになるのはビルの内部であり、俺たちではない。

 これはトラブルには含まれないってものだ。


『気を付けろよ、相手の出方を窺うのはいいが、見つかってこんなタイミングで乱闘になるのは避けたいからな――本当のトラブルだけを持ってくるのは勘弁だ』


「気を付けるけどさ……相手の出方次第だな」


 通信を切り、

 俺はついさっき回った爆破ポイントをおさらいしようと立ち上がったところだった。


 ――足音もなく、背中に冷たい感触。


 皮膚が、ではなく、心臓がぎゅっと握られた感覚だった……。


「お前たちか、爆弾を仕掛けているのは」


「…………あれ、もしかしてこの爆弾の、仕掛け人?」


「そうだ。余計なことはしてないよな?

 いじってくれるなよ、不具合が出た時、どうしようもなくなるからな――」


「……聞きたいんだが、爆破のタイミングはいつだ? もちろん、そっちの都合もあるのだろうけど、爆破のタイミングを合わせられるなら、その方がいいんだが……。

 騒ぎを起こすことが目的なら、時間さえ合えば、後の時間は自由だろ? 互いの目的のために動けばいいだけだし……。

 仲間になろうってんじゃない。爆弾の一つや二つで揉めることはねえだろうって話だ」


「ありがたい話だな……だが問題は、それ以前の話だ」


「……どういうことだ?」



「爆弾が作動してる」



「……あんたらの、か? 作動してるってことは、カウント式か? 俺たちも爆弾もあんたらの爆弾も、カウント式には見えねえ……。スイッチ一つで同時に複数を爆破させることができるタイプだろ。……まさか、三つ目の爆弾か!?

 同時に三つの組織が同じビルに爆弾を仕掛けることがあるなんてあり得るのか!?!?」


「残り三分もない。爆弾に詳しいか? 悪いが、我々の組織にメカニックはいないのでな。不具合が起きた場合は、知らぬ存ぜぬを貫くしかない。

 ……ちょっと触っただけでカウントが始まってしまった爆弾を前になす術がないんだ……止められるか? 無理なら我々は退散するが」


「おま……ッ、なに勝手に作動させておいて放り出してんだ! 爆弾をまともに扱えない組織が爆破テロなんて起こそうとすんじゃねえよッ!!」


「設置すればあとは遠隔で操作できる簡単な爆弾と聞いて仕入れたんだ、まさか別の組織が同時に爆弾を仕掛けているとは思わないだろう……。

 相手が持つ爆弾の解除の仕方なんて分かるわけがないし、そこまで覚える手間をかけられないさ……、爆破するだけならテロリストでもできるが、分解、解除となると、領分を越えている……。詳しくなくて責められる筋合いはないはずだが?」


 思わず言い返してしまったが、俺の背中には銃口がくっついており、いつ引き金を引かれて撃たれてもおかしくはないのだ……、ついつい熱くなってしまった。


「……なあ、残り三分もないんだろ……?

 こうしてぐだぐだと喋ってる間にも、カウントは二分を切ってるんじゃあ……」


「恐らくな。二分、十秒くらいだろう」


「そういうのも計っておけよもう!!」


 こいつ、テロリストか? テロリストなんだろうけど……色々と杜撰である。


 こいつを見てテロリストの質を決めてほしくない……!!


「止められるのか?」


「分かんねえよ! 見てみないことには――」


「では案内する。見て、解除してくれ……でないと我々は共倒れだ」


 クソ、二つのテロリストを沈めるための、もう一つの組織の計画だとしたらまんまと罠にはまってるってことじゃねえか……、解除できるのか!? 本当に!?!?



 案内された爆弾のカウントは、既に一分を切っている……まずいまずいまずい!?!?


 規格も見たことがねえし、こっちはスイッチ一つだけの簡単な爆弾しか経験していないんだ……、タッチパネル付きのハイテクな爆弾なんて分からねえよ!

 タッチパネルってことは、触ってもいいのだろうけど……、でもそれで爆破が早まるってことは……ないか。止まることもないのだろうが。


「あんた、迂闊に触れて起動したんだろ」


「タッチパネルが暗かったんだ、軽く触れたら時計が動いた……私が悪いのか?」


 確かに思わず触ってしまうけど……、爆弾を相手にそれは迂闊過ぎる……。


 触れてドカンもあり得たわけで。


 そうこうしている内に、残り時間、二十秒を切っている……、今から通信で仲間に形状を教えて、解除方法を聞いても間に合わないだろう……諦めて逃げるか?

 それでも爆破に巻き込まれるはず……どうすれば……。


「あ」


 ……万が一の可能性だ。


 自室のリモコンで隣の部屋のテレビが点いた……それに賭けるしかない。


 俺は手に持つスイッチを、押す――果たして。




 ピー、という甲高い音が聞こえた。


 カウントは八秒で止まっている……間に合った……?


 期待していたとは言え、本当にリモコンが通じるとは……。


 これ、もしかしたら別の爆弾も起動し――




 ぼんっ。



 と、遠い場所から音が聞こえた。



 窓の外を見れば、隣のビルから立ち上る黒い煙……。


 偶然だよな? このスイッチを押したから……じゃないよな?



 仲間が緊急で通信を繋いできた。



『おい! そこから逃げろ! 周囲一帯のビルにテロリストが集中してる!!

 まだなんもしてねえが、オレたちも危ねえ――警察が駆け込んでくるぞ!!』


「お、俺のせいじゃないからなぁァッッ!!」



 ―― おわり ――

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