シュガースプーンと絶望ロンド
「スプーン一杯の蜜を、蜂たちは一生かけて集めるそうだよ」
川岸で真鍮色をしたシュガースプーンをくるくると回しながら、蜂飼いがそう呟きました。
「それなら、蜂がもしヒトほどの大きさであったのなら。どう思うだろうか」
危ないと誰かは口にするでしょう。
それとも、もっとたくさんの蜜が手に入ると言い出す者が現れるのでしょうか。
感情を絡めとる蜂たちが、蜂飼いをまるで慕うかのように、遠い
えいやっと巣箱へ持ち帰る感情は、真っ黒に鈍くゆらめいているものが大半です。
「やあ、今日もかい。まったくニンゲンたちは仕方がないなぁ」
宙をたまたま横切る星が、そう蜂飼いに声をかけては。そのスプーンからことりと生み出された黒い飴玉を口に含んでゆきます。
うふふ、と川底では星屑たちが旅立つ黒い飴を見守っておりました。
「だぁれも気にしないよ。だぁれも見てないよ」
「だからよくよくお休みね」
「申し訳ないことだって、ちっともないのだからね」
そんな星屑たちの囁きに、「そうだね」と蜂飼いは静かに頷きます。
「ねぇ蜂飼い」
「なんだい?」
「ニンゲンは、太陽になりたいの?」
「どうしてそう思うんだい?」
蜂飼いは大きな山形帽の下から覗く目を少しばかり丸くして、そう返しました。
「だって、こんなにまっくろに」「こげついちゃってる」
「ちょっぴりにがいもの」
「蜂もくろい蜜は少しばかりなんぎだと言っていたよ」
「そっか……」
真鍮色のシュガースプーン、もとは銀色のスプーンだったもの。
生まれたはれのひに、まばゆい感情のなか手渡しされるスプーンは。そのあとどうなっていくのでしょうか。
「もともと、シュガースプーンは。砂糖をすくうためのものなのにね」
スプーンに山盛りにしたお砂糖に、蜂たちが集まってはうやうやしくその欠片を掴んでゆきました。
太陽の熱で、近ければ近いほど溶けてしまうお砂糖。
けれど星屑たちの川岸はひんやりしていて、蜂たちはお砂糖をころころと転がしながら少しばかり嬉しそうに羽ばたいております。
「太陽はまばゆいけれどね。誰からも、何からも、隠れられないんだよ。それって、落ち着く間もないとも云えるよね」
「お砂糖、溶けちゃうんだ」
「太陽は、お砂糖の甘いをしらないのかな」「それってちょっぴり切ないかも」
「ニンゲン、みんなお日さま目指さなくても、じゅうぶんなのにね」
輝きも、幸せも、苦しみも。
シュガースプーン一杯分。
群青フリヰクス すきま讚魚 @Schwalbe343
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