第4話 選択の権利は弱者にはない

 しばらくして王都に着いた。

 

 僕たちがいた近代的な都市ではないけど、中世のヨーロッパのような街並みだ。

 レンガで出来た建造物は美しい。他の三人も街並みに釘付けだ。


「すごいね、改めてここは地球じゃないんだって実感しちゃうよ」

 美咲さんは頬をかきながら言う。

「でもよ、屋台とかあるんだな」


 僕たちは街の中央通りと思われる道を見ていた。街灯が薄く光り、もう夕方だが人はまだまだ多い。


「あそこを通るには目立ちすぎる。王宮までは一直線で助かるんだが、今回は遠回りさせてもらう」


 王都に入る前から見えていた大きな建物。御伽噺に出てくるような立派な城が近づいていく。


「すごい……」

 松下さんと美咲さんは目を輝かせて城を見ている。女の子は好きなんだろうな。

 僕が驚いたのは松下さんだ。美咲さんは女の子って感じが強いけど、松下さんは

ギャルに近い印象だから。


「松下さんもロマンチックなんだね」

 僕が優しい顔で言うと、松下さんは顔を赤くした。

「あ、あたしだって乙女だもん……」

「お前なにそんなガチデレしてんだよ」

 航輝くんはまだ女心というのが分からないらしい。まぁ僕も彼女いたことないから分からないけど、今の発言はナンセンスというのは分かる。


「バカ!!」

 案の定航輝くんは引っ叩かれていた。


 それから僕たちは王宮の中へと入っていく。

 服や体が汚れていたためまずは各自個室に通され体を洗った。


 シャワーやバスタブは無く、蛇口を捻るとお湯が出てくる。それを木でできた桶で体を清める。


 タオルは僕が知ってるようなものでは無く、とんでもなく高そうな質感だった。流石王宮だな……。


 用意された服は正直意外だった。上はワイシャツにネクタイ、下は黒のスラックスで現代的な服だったからだ。


 僕たちは身支度を終えて王室の前まで案内される。ちなみに女子はスキニータイのネクタイと黒のスカートだった。正直かわいいと思った。


「やっぱりそのファッションは異世界人に似合うな」

 扉の前で待っていたランスロットさんが片目をつぶって言う。

「この服はもしかして異世界人が作ったんですか?」

 別の異世界人が異世界の知識をこの世界に持ってきてもおかしくはない。


「その通りだ。『リョウスケ』というファッションデザイナーがいてな、この国のファッショントレンドの中心なのさ」

 

 この世界に来て初めて聞く恐らく僕たちと同じ世界の名前。名前からして日本人で間違いないだろう。


「そのリョウスケさんはいつこの世界に?」

「10年前だ。リョウスケは君たちと違って一人でこの世界に来たんだ」

 それを聞いて僕はクラスメイトの存在を思い出す。あの教室にいた全員がこの世界に来ているのかを確かめないといけないな。


「聞きたいことはあるだろうが陛下がお待ちだ、行くぞ」

 大きな扉が開く。目の前に広がってきた景色に僕たちは声が出ない。


 イメージ通りといえばそうなんだけど、中央にはレッドカーペットの道がありその先に玉座がある。


 僕たちはランスロットさんの後に続き歩き出す。部屋の中はかなり広く、白色の柱が何本も連なっている。


 王様の前に着くと僕たちは片膝をついて右手を左胸に当てる。これが作法らしい。


「陛下、連れて参りました」

「うむ、ご苦労」


 すごいな、これが王様なのか……。見た目は白髪のおじいさんって感じなのに、目がまだ老人の目ではない。


「名前は部下から聞いておる。無事でなによりじゃ」

 言葉は少し柔らかくいけど表情はいっさい変わらない。社交辞令な感じがする。


「危ないところでした、あと一歩遅ければ間に合わなかったでしょう」

「お主に限ってそれはないだろう。どうせギリギリまでその者たちの力を見たかったのだろう?」


 は? 

 力を見たかった……?


「おい、どうゆうことだよそれ……」

 航輝くんはランスロットさんを睨む。

「すまない、この段階で君たちの秘めた力が解放されれば手間が省けると判断した。だがそれは失敗に終わってしまった」


 窮地に立たされることで、想定外の力が発揮されることはある。火事場の馬鹿力というやつだ。


「説明してもらいましょうか、僕たちのこれからについて」

 僕は王の目をまっすぐ見る。

「よかろう」

 そう言うと使用人が僕たちの人数分の椅子を用意してくれた。

 長い話になるらしく、座って聞くようにと。僕たちは遠慮なく座らせてもらったが、ランスロットさんは立ったままだ。

「お主も座れ。その者たちも警戒するだろう」

「ではお言葉に甘えて」

 ランスロットさんも腰を下ろした。


 全員が座ったところで王は話し出す。

「この国で保護したの異世界人はお主ら4人。気になっているだろうから先に言うが、別の場所でも異世界人が来た反応がいくつかあった。お主ら以外にも何人かこの世界に来ていることは間違いない」

 他のクラスメイトもこの世界に来ている。多分あの教室の中にいた人間全員だろう。


「正直に言うと、お主らの仲間が全員無事かはわからぬ。国によって異世界人の扱いは異なるし、保護されずに魔獣に殺される場合もあるからのう」

 確かに、あのまま僕たちは魔獣に殺されていただろう。


「お主らはこの世界の常識や生き方を知らない。だから学園に通ってみてはみないか?」

 僕たちは顔を見合わせる。

「陛下、失礼を承知で申しますがもう少し話をしてあげた方がいいのでは?」

 ここでランスロットさんが口を挟む。


「わかっておる。そう慌てるな」

 ここで初めて表情が変わった。柔らかい感じ、相当ランスロットさんを信頼しているのだろう。


「『王立ダンタリオン学園』はこの国で一番の教育機関だ。ここでは剣、格闘技、魔法、学問、研究を学ぶことができる。この国に生きるものはほとんどがこの五つの分野を武器に生計を立てる。もちろん商人や農民もいるが、お主たちにはなってほしくない」


「それは、僕たちが異世界人で強力な力を持つからですか?」

「その通りだ、隠しても仕方がない。お主らの力を貸してほしい。その代わり衣食住の提供と学費の全免除、加えて入学式までの半年でこの世界の知識と剣や魔法の使い方を全て教えよう」


 条件は悪くない。この世界で生きていくには僕たちだけでは不可能。王が直々に僕たちをバックアップしてくれるのはありがたい。


「もし断ったら?」

 さらに良い条件で交渉してくるだろうか。だがその予想は外れた。

「ならばこちらが留めておく必要はない。どこにでも行くがよい」

 つまり見捨てるということ。自分たちでこの世界の知識を身につけ生きていくしかない。


「それはちょっと酷くない?」

 松下さんが不満の声を漏らしている。でも……。

「わしらは呼びたくてお主らをこの世界に呼んだわけではない。右も左も分からない子供を保護してやろうと言ってるだけじゃ。その見返りにこの国の役に立ってほしいだけ」


「でも、いずれはその力を使って俺たちを兵器として使うんだろ?」

 航輝くんは下から王を睨む。その態度に腹が立ったのか、ランスロットさんは航輝くんに詰め寄ろうとするが王はそれを目で制す。


「お主らは魔獣に遭遇したそうじゃな。あれをどう思った?」

 王は美咲さんに視線を向ける。

「とても危険で、怖かったです……」


「うむ。だがあれは理性のない獣じゃ、だから『魔獣』という。逆に、理性のある獣は「魔族』といい人間と同じ体と知性をもっている」


 真に警戒するべきは魔族か。知能がある分厄介だ。

「そんな奴らと俺たちは戦うのか。それを聞いて協力するかよ」

 平和な世界に居た僕たちが、自ら戦場に行くことはしない。そんな世界とはかけ離れた世界に居たからな。


「ほう、それで本当によいのだな?」

 王はこれまでより語気を強めて言った。僕以外の三人はひるんでしまった。


 ここまでか。これ以上は無意味に時間を浪費することになる。結果が変わらない以上、早く学ぶ方に時間を使いたい。


「みんな、この条件をのもうよ」

 僕がそう言うと、三人は驚いた顔で僕を見る。

「僕たちはまだ15歳だし、四人で生きていくには難しいよ。学園に通いながらこれからのことも考えていけばいいと思う」

 そう、僕たちが必ずしもこの国の役に立つとは限らない。強力な力という抽象的な表現をしていることから具体的な力は分かっていないんだろう。


 僕の言った理由にみんな納得せざるを得なかった。

「では、お主らは半年後ダンタリオン学園に入学するということでよいのだな?」

「はい、よろしくお願いします」


 そして僕たちは残りの半年間でこの世界の知識や常識、剣の使い方から魔法の使い方まで全てを教えてもらった。


 僕たち四人は、万全の状態で入学式を迎えるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クラス転移から始まる異世界学園ストーリー 中野 恭太 @nakanokyouta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ