第5話 記憶と虚偽 part2
1日の授業終わりの放課後。
行き交う生徒の廊下を見渡していると彩折が、俺を待っていたかのように立っていた。
「お、彩折じゃないか。どうした」
「あ、とその……」
言い淀む彩折。
だいたいコイツがこのような素振りをみせるのは、パターンが決まっている。
遠慮なく言えっていつも言っているのに。
「一緒に帰るんだろ。わかったわかった」
「そ、そうだよ。それをちょうど言おうとしたところ」
ひたすら昇降口に進む俺に対し彩折は、小刻みに歩く。
学校中から生徒達の声が聞こえてくるが、俺の視野には決して入らない。
「ところで愛衣ちゃんは? 見てないけど」
「……あぁ琴咲か」
知らない間に勝手にいなくなったが。
俺はスマホを取り出して彼女とのトーク画面をみせた。
「ほら。話が疲れたから帰るってよ」
「あ、ほんとだ」
俺の琴咲とのトークには。
『すみません、今日は帰ります。明日からまた来ると思うんでノシ』
と。
HRまではちゃんといたが、俺が目を離した隙にすぐ帰ったらしい。
既読のほうをみると、終わって数秒の時差だった。……たく足の速いやつだ。
「愛衣ちゃんなんでいつも休んでばかりなんだろうね」
「そんなの俺は知らん。まあ聞けば明日も来るみたいだし、そっとしておこうぜ」
帰路を進み、何事もなく彩折とそのまま分かれ道まで一緒に帰り。
彼女の姿が見えなくなるまで見送ると。
「気をつけて帰れよ」
「わかってるって! じゃーね」
軽く手を振り俺も家へと向かう。
道中、立ち止まって端末を開いては今日のことを思い出す。
先輩の言っていたあの言葉を。
錯覚とはなにか。
俺たちが普段見ている世界は、ほんの一部のものにすぎない? 考えを募らせれば募らせるほど頭が痛くなってくる。
少し向こうに見える一角のマンション。
俺の住まいではあるが、無論一人暮らしだ。
ある程度の生活資金は月々親に送ってもらっているが、孤独な生活にはなかなか溶け込めない。
「? こんな道あったか」
するとすぐ傍に道の壁際に、見覚えのない通り道を見つける。
とても細くて横歩きしないと抜けられなさそうに見えるが、今日は通るのをやめた。
「寄り道するなってカナ先生に言われているし……このまま家に帰ろう」
道のりを進み、マンションのエレベーターへと入り自室の階層まで昇る。
俺の部屋がある場所へルームキーのパスを通そうとしたら。
「……まーたお前か」
また誰かに待ち伏せされて…………いた。
いや、不審者ではなく生意気な中坊。
「帰ってきたの! お兄ちゃん」
「あぁそうだよ。というか俺を兄呼びなんかするな。お隣さんとはいえ子どもが夜中出たらだめだぞ」
「そ、そうなの? ……」
小さな体つきをした快活そうな女。
短いツインテール、断髪が特徴的なこの子は。
見下ろして……彼女を見るともじもじと。
拳を自分の胸のほうによせてムっとした顔で力む。
「ゆ、柚菜は柚菜よ! 別にお兄ちゃんが遅いから心配したわけじゃ……」
「はいはい、ありがとう。がきんちょ柚菜」
「ムキー! お兄ちゃんってば人がせっかく心配してあげたっていうのに……もういいわよ」
少々拗ねた様子でいたが、少し間をおくと機嫌を直してくれた。
中学生のクセに我慢強い一面もある持ち主。
こいつは俺の隣に住む中学生――
両親は共働きであまり家に帰ってこなくて、普段は一人暮らし状態。
度々大家さんから夜中うるさいと叱られることもある。
俺の通う学校の中等部の子というのもあり、時々カナ先生が俺同様に様子を見に来てくれている。
「それでお兄ちゃん、次カナ先生が来るのはいつだっけ?」
「3日後。柚菜、頼むからお前夜ゲーパソすんな。うるさいって。……先生が心配してたぞ」
柚菜は近所ということもあり、先生から柚菜のこともよく話してくれる。
まあ家庭事情まではさすがに……だが。
先生がいない時は基本俺が面倒見てやれと、先生には言われているが本当に困った中学生だよ。
「おとーさんからもらった物なんだけどな、わかったお兄ちゃんがそういうなら」
そういうと柚菜は自分の部屋の扉へと行き、こちらを振り返る。
「ではお兄ちゃん私はこれで……サラダバー!」
バタン
扉を閉めて帰って行った。
「面倒見てくれとは言うけど……ああいう中学生は……うーん」
柚菜のことに頭を悩ませられながらも、俺も自室に入り。
食事などを済ませるのだった。
オーバーライスター もえがみ @Moegami101
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