第16話 おやじさん
俺が黒塗りの高級車で連れていかれたのは、巨大な日本庭園がついているような、和風のお屋敷だった。
しかも、車を降りると、どうぞとSPらしき男に案内され……。
門をくぐりわたり廊下に出ると、なんと黒服の男たちが通路いっぱいに並んでいて、俺に頭をさげているではないか。
「えぇ……」
これもう絶対向こうの人だよね……。堅気じゃないよね……!?
さっきの歌音のメッセージといい、もはやわけがわからない。
和室に通され、正座させられる。
しばらく待っていると、横に申し訳なさそうな顔で、歌音がやってきた。
俺は小声で歌音に尋ねる。
「どういうこと……!」
「すみません……ここ、私の実家です」
「はぁ……!?」
まさかの彼女の実家にきてしまっていたようだ。知らぬうちに。
俺はこのままどうなってしまうんだ……!?
しばらく待っていると、対面に、和服の男がやってきて座った。
あれが……歌音のお父さんか……?
ど、どうみても……堅気じゃない……。
「君が、歌音とお付き合いをしている……
「あ、はい……! 歌音さんとお付き合いさせていただいてる、夕上
俺はおそるおそる挨拶する。
さすがの俺も、SPとかは平気だが、歌音のお父さんとなると、恐ろしいぞ……。
しかも、相手の見た目が見た目だしな……。状況もこれだし……。
もしかしてさっきの歌音のメッセージ、バレたっていうのは、お父さんにバレたってことだったのか……!?
だったら、まずい状況かもしれんな……。
お父さん絶対厳しそうだし、しかも歌音は実家がこんなに近くにあるのにも関わらず、別のところで暮らしていたわけだしな……。
なにか訳ありに違いない。まあ、普通じゃない感じのおうちだもんな……。
それに、歌音は人気絶頂中のアイドル声優でもある。
そんな歌音に彼氏ができたなんて話、親がどういうか……。
恐れている俺に、歌音のお父さんは口を開く。
「うぉほん……歌音をしあわせにしてやってくええええええええいい!!!!」
「は……?」
「この子にようやくできた彼氏じゃ! 末永くよろしくお願いします!!!!」
「あ、はい……こ、こちらこそ……」
歌音のお父さんは涙ながらに俺に頭を下げてきた。
えぇ……ど、どういうことぉ……!?
見た目は怖いけど、別に俺たちに反対というわけでもないのか……?
だったら歌音のあのバレてしまった発言はいったい……?
「もうお父さん、恥ずかしいからやめて!
「ああ、……すまんすまん。つい娘の彼氏に会えたのがうれしくてな。しかも、
よかった……なんか変な感じのテンションだけど、一応歓迎ムードみたいだぞ……。
だが、俺にはひとつ気になっていることがある。
あきらかにこの家や、SPや、お父さんの見た目……堅気じゃない。
ここは少し、きいてみることにしようか……。
俺もこれまで、いくつも修羅場は潜り抜けてきている。
このくらいの直球勝負、なんてことはない。
「あの……」
「ん? なんだね。なんでも言いなさい」
「御父様は、お仕事はなにを……?」
俺がそう尋ねた瞬間、即答。
「や〇ざじゃ」
「ですよねー……はは……」
「安心せい、街を守る優しいや〇ざじゃからな!」
「えぇ……」
もう俺は、なんでも受け入れることにした。
◆
しばらく話をして、ようやく歌音と二人きりになることができた。
「ごめんなさい
「ああ……それはいいんだけど……うん、正直びっくりはした……でも、なんで実家のこと、隠していたの?」
「それは……
「え……?」
「だって、アイドルの私の実家が……こんなんですよ? きっと、
俺は、強く首を横に振った。
そんなことは、決してない。
「そんなわけないじゃないか。家のことは関係ない。俺は君が好きなんだ。だから、安心してくれ」
「
それに、俺のほうもいろいろと事情がある家だしな……。人のことはいえない。
俺も戦場を経験してきたこととかは、わざわざ人に話したりはしていないわけだし。
「それに、父があんな感じで……正直、私もなるべく実家とは距離をおいているんです……」
「ああ、それで、一人暮らしでもあるんだ」
「そうなんです。まあでも、家のおかげで助かってる面も多いですけどね……!」
「え……それってどういう……」
「週刊誌なんかに撮られても、最悪もみ消せます!」
「えぇ……ど、どうやって……」
「それは、知らないほうがいいですよ?」
「ですよねー……」
やっぱりそういうことか……。
俺たちが学校でも普通に恋人やれているのは、裏でいろいろ動いているからなのかもしれない。
だってあの
でも、だったらこの前の女装デートはなんだったんだ……?
もしかして、歌音が俺に女装させたかっただけなのか……?
「まあ、そういうことで……親公認となったので、これからもよろしくお願いしますね?
「ああ、うん。もちろんだ」
なんだか、俺の思っていたよりも、歌音は普通の子じゃないのかもしれない……。
でも、俺の気持ちには変わりなかった。
だが、このとき俺はまだ知らなかった。
この先もっととんでもない女たちが、俺のまわりに現れることを――。
実は超人気ラノベ作家で普段は隠キャ高校生の俺、罰ゲでクラス全員に告白させられたけど、学校一美少女のアイドル声優が俺の小説のファンらしく付き合うことになりました。 月ノみんと@世界樹1巻発売中 @MintoTsukino
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