銀色のポルシェの軽妙さ

 主人公の魅力が十分に伝わってくるような人物描写である。そこにいるだけで明るい雰囲気で周囲を包んでくれる人間性、また、しっかりと流行にも敏感で闊達な性格。そこに一つまみの度胸の良さを隠し持っている。

 まさに銀色のポルシェで夜の街を駆け抜けるのが似合うヒロインである。風景描写もポルシェを走らせるような爽快さで流れていき、気持ちが良い。また、行動描写が洗練されていて、すらすらと読めてしまう。

 ただし、心理描写に関しては少し物足りなく感じられた。軽妙な文体が特徴なので、詳細な心理描写を追及するよりも、軽快な行動描写を優先すべきだとは思うが、もう少しだけ、ヒロインの心理を追っていくのも良いと思った。

 結末は落語のオチという感じで思わず、クスリと笑ってしまった。どこか憎めない悪人達を書いているところを見ても、人物描写の腕前は見事なものである。やや、都合の良い結末だと感じるかもしれないが、巧くまとまった構成であることには違いない。すっきりとした読後感を覚えた。