最終話 異世界で無双していた俺が現実世界でチート級リア充になれないはずがないだろ?
郊外の館での
警察を呼んだ
「みなさま、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
警察署の前で深々と頭を垂れる
「謝る必要はないですよ」
「そうです。
兄の言葉に
一同は、連れ立って最寄りの駅へと向かった。
もう終電は出てしまったが、駅前まで行けば深夜タクシーが待機しているはずだからだ。
「それはともかく、あの神楽坂って人はこれからどうなるのかねぇ~」
頭の後ろで手を組んで、
「今回の一件以外にも余罪があるでしょうし、実刑は免れないでしょう」
女神が告げる。
彼女も、現在は文鳥ではなく人間の姿をして、剣一郎らとともに歩いていた。
剣一郎は、誠との最後の会話を思い出す。
『今に思い知ることになるぞ……』
剣一郎に縛られながら、彼はそう呟いた。
気絶している間に絵里に沈黙魔法をかけてもらったので、もはや彼がこちらに催眠魔法をかけてくることは不可能なはずだった。
『なにをだ?』
剣一郎は誠に尋ねた。
『これからも勇者に対する抑え付けは続くってことさ。いや、もっと激しく露骨になっていくだろう』
『……なぜそう思う?』
『政府がボクたちを恐れているからさ!』
誠は、催眠が解けたあと床に倒れ伏し、いまだに寝入っている例の中年男を目で示した。
『その男の団体みたいなのが、ろくに取り締まりも受けずにのさばっていることが、いい証拠だろ? ようは政府も反勇者の会と本音は同じなのさ。自分たちに理解できない力を持った連中には、とっとと日本を出て行って欲しい、ってね』
『…………』
『それが嫌なら、完全に力を封印して一般人として生きていく他ないだろう。でも、君にできるかい? 勇者として戦ってきたあの日々を完全に忘れ去って暮らしていくことが」
「できる」
ふいに上がった剣一郎の声に、夜道をともに歩いていた他の面子が振り返る。
「なに? なんの話?」
京子が代表して尋ねた。
「俺は異世界から戻って以来、こちらの世界でどうやって勇者として生きていけばいいのかと、ずっと考えていました。でも、そうじゃない」
「というと?」
「勇者というのは、ただの役割に過ぎなかったのだと今は思います。王は俺に魔王討伐を命じる役割を果たし、道具屋は俺のパーティの使う道具を売る役割を果たした。そうやって様々な人が様々な役割を果たした結果、魔王は討伐された。俺はその中で最後に『魔王を倒す』という役割を果たしたに過ぎない」
剣一郎は星々に彩られた夜空を見上げる。
「もうその役目を終えた以上、勇者という役割に固執するべきではなかったんですよ」
「なるほどね~」
腕を組んで京子が言う。
女神は歩を進めつつ、彼の発言を吟味した。
「では、あなたの悩みは解消されたと判断して良いのでしょうか?」
そう彼に尋ねる。
「今後は突発的な鬱に襲われることはないかと思います」
「もう生き甲斐は求めず、この世界で普通に生活していく、と?」
「いや、生き甲斐は欲しいですね」
がくっと膝を折る女神。
――色々あったが、ようやく自分の計画がそれなりに成果を上げたと思ったのだが……
「ただ、まあ焦らずじっくり探しますよ。大学生活が始まったばっかりだし、周りに色々教えてくれそうな人たちもいますから」
ちら、と京子の方を振り返る剣一郎。
「はーい、まかせといて~」
京子は、軽い口調で、親指を立ててこたえた。
「おにいちゃん、灯里は? 性奴隷になりたいから、灯里に首を絞めて気持ち良くしてくれってあんなに頼んできたでしょ?」
「……いつも思うんだが、おまえは事実を歪曲した上に拡大解釈しすぎだ」
「でも、街コンのあと、そんな感じのこと言ったじゃん!」
「…………まあ言ったような気もするな」
「いやいや、ちょっとちょっと!?」
京子が剣一郎の背を叩いて、突っ込む。
「兄妹でそのプレイは、ケンイチローくん、シャレになんないよーwwwww」
「……すいません、ちょっとドン引きさせてもらいます」
それまで口数の少なかった絵里も、青い顔で剣一郎と距離を取る。
それを見た京子は腹を抱えて笑い始めた。
はあ、と女神は内心嘆息をもらす。
――ちょっと不安もあるけれど、自分なりのペースで良い人生を歩んでくだされば
京子に背中を叩かれる元勇者の後姿に、彼女はそっと祈りを伝えたのだった。
チー充計画――異世界で無双していた俺が現実世界でチート級リア充になれないはずがないだろ? いやある 秘見世 @kanahellmer
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