08 エピローグ
義妹ができてから一年が過ぎた。
彼女は月に一度、ルーナシアから渡ってきて、亮太との時間を過ごしている。とはいえ受験生だから、そんなに長居はしない。亮太は今後のためにも、大学へ進むことに決めたのだ。
あたしも、プリスが来るときは、実家に顔を見せることにしていた。一年も経つと、すっかり彼女にも愛着が持ててきた。少々失礼な物言いはするものの、姉ちゃん、姉ちゃんと甘えられてきては、こちらも陥落してしまうというものだ。
そして、あたし自身の生活も、少し、いや、だいぶ変わってきていた。
「お帰りなさい! 礼子さん!」
キッチンで、何やら炒め物をしていた石堂が、振り返って無駄に元気な声を出した。あたしと違って残業の少ない彼は、早く帰ってきてこうして夕食を作ってくれるようになった。
「ただいま。今日は何?」
「チンジャオロースですよ! 礼子さん、ピーマン好きでしょ?」
屈託のない笑顔でそう答える石堂。つけているエプロンは、彼の誕生日のときにあたしが買ってやったやつだ。そして、あたしの胸元には、彼から貰った誕生石のネックレスがきらめいていた。
「プリス、あさって来るってさ」
「そうなんですね! 今回はオレもお邪魔しても?」
「いいわよ、別に」
「やったぁ!」
夕食ができあがり、あたしは石堂と並んでそれを食べる。二人での夕食にもすっかり慣れた。続く晩酌にも彼は付き合ってくれる。しかし、お酒を取り出す前に、とあたしは彼に切り出した。
「ねえ、石堂くん」
「はい、礼子さん」
「そろそろ、下の名前で呼んでいい?」
「も、もちろんっすよ!」
「じゃあ、
「えっ!?」
あたしは一旦立ち上がり、引き出しの奥に隠しておいた指輪を取り出した。
「あたし、こういうの自分で選びたい派だからさ。先に買ってきちゃった。結婚がオーケーなら、これ、はめてくれるかな?」
自分で婚約指輪を買うだなんて、とんだ奇行かもしれないが、あたしと彼との間ではそれが一番しっくりくる形の気がしたのだ。
「……はい」
寿は震える手で指輪を手に取り、あたしの左薬指にはめてくれた。
「ありがとう、寿」
「れ、礼子さぁん!」
寿はだらしなくボロボロと涙を流していた。あたしからプロポーズを仕掛けたのも、この一年で彼の性格をよく知ったからである。あたしはポンポンと彼の頭を撫でた。
落ち着いてしばらくして、寿が言った。
「じゃあ、亮太くんとプリスちゃんが、オレの義弟と義妹になるってわけですね?」
「そうだね。しかも、義妹は異世界人。そこら辺の事情を知っててくれてるからこそ、寿にプロポーズしたわけ」
「オレ、あのとき礼子さんの頼みを聞いて良かったです」
「思えばあれがきっかけだったよね」
去年のことを振り返る。弟が異世界人を連れてこの部屋に来た時の事を。あの時は、やけになりそうだったけど、何とか上手く収まってよかった。
「あさっては、あたしたちのことを報告ね?」
「うん、わかりました。っていうか、敬語崩していいっすか?」
「ああ……確かにそうだね」
「礼子さん。好きだよ」
「うん。あたしも大好き」
そんなわけで、あたしの方も丸く収まった。異世界人が一人居るが、こうしてあのときのメンバーが家族になったのである。あたしは冷蔵庫からプレミアムモルツを二つ取り出した。さあ、今から婚約者と晩酌だ。一緒に観るのはもちろんホラー映画。今夜は何にしようかな?
義妹候補は異世界人 惣山沙樹 @saki-souyama
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