ホテル側、高値販売を断念

 2022年6月30日。




 これまでねぶたプランの販売開始を躊躇っていたセレスホテル青森は、楽天とじゃらんにて2万円台~7万円台の値段設定で販売を開始した。ちなみにagodaでの販売は料金設定はこれと同じであるものの控えめにしたようだ。販売料金の衆人環視という状況に追い込まれたセレスホテルは、45万円という異常に高い値段で売るのを社会的影響を鑑み、そうすることを避けたのだ。




 この時点でホテルは一切の客室が売れていない状況だったかもしれない。他のホテルであれば旅行業者に事前に一定数の客室を売り渡すことが多いのだが、セレスホテルはそれを嫌う。自由に値段を設定して個人に販売した方が売り上げが上がるだろうという考えからだ。なのでこれ以上……僕らの態度の変化を待って販売を躊躇っていては、客室の販売自体が出来なくなるという焦りも否定できない。




 ちなみになぜagodaで売るのを控えめにしたかというと……ねぶた料金のレート表を作る際に、agodaの情報を基に作られたからに他ならない。特に基準として扱っていた8月2日で売るのは避けていたように思われる。あくまで一般的なねぶた料金で売るのだから避ける必要もないのだが……ここにホテル側の心理的葛藤も見て取れる。負けを認めたくなかったのだ。




 おそらくはセレスホテルなりに、売上の目標金額を定めていたに違いない。例年はそれを10月に決めているという。去年の時点で……『まさか来年も妨害にあうはずはないだろう』という油断もあったろう。でも彼と僕はやるべきことを続けた。彼は元職場への反撃のために、僕はねぶたという文化を守るため。多くの人々に祭りを見てもらいたいため。祭りの時に嫌な思いをする人を無くすため。




 こうしてセレスホテルは高値で客室を売ることを諦めたが、でも仮に販売できていたとしても思うがままに売れていたかは微妙であっただろう。コロナ第7波の影響により他ホテルで予約キャンセルが相次いだのは事実なのだから。








 ともかく、ねぶたで想像通りの売上は達成できなかった。この分をどこかで補わなければならない。












 ここでチャンスが巡ってきたのだ。




 とあるフィギュアスケートの引退選手が八戸でイベントを開くという。予約が凄まじい勢いで入る様子を見て……慌てて調べて分かったのだろうか。




大矢さんは青森1店舗と八戸2店舗を束ねるブロック長。青森の損失を八戸で補って当然なのである。ここはどんなにヘイトを集めても、高値で販売し続けなければならない。仮に売り続けたとしても……45万円で売り続けた当時、ホテルのサーバーがダウンするような事態には至らなかったという “経験” もあった。












 これが油断に繋がった。








 想定外だったのは、他のホテルでキャンセル騒ぎが起きたこと。












 ヘイトの波は、このキャンセル騒ぎも巻き込み……さらに燃え上がる。












 そして某巨大インフルエンサーがツイートしたことを契機として、セレスホテルは悪名を纏うことになった。いまでも誤解されたまま情報は伝播され、公式でいくら否定しようとも、正しい情報が流れているとは言えない状況だ。








 この事案は今後どのような展開を迎えるかは……彼はもちろん分からないし、僕にも分からない。
























 余談ではあるが、僕が彼に話していない事実が一つある。それはハローワーク当局者から偶然聞いた話であるが、セレスホテル青森の正職員はたった1名なのだという。彼がいた当時は彼を含めて6名いたはずだが。




 ちなみに田野倉という名前でない人物が採用担当者として載っている。戦争の成れの果ては、彼の望んだ世界なのだろうか。












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小説 セレスホテルの闇 かんから @zvu11735

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