第6話


 不思議なことが起こった。


 ガイアエネルギーと爆風が化学変化を起こして、ギャオーの肉体を内部から粒々に砕いていく。赤褐色であったはずの皮膚は、周囲に極彩色の雨を降らせた。瓦礫をテトリミノのように消失させながら、ギャオーの進行により破壊されていった建築物が元通りに戻っていく。一本の映画が終わり、観客は映画の始まる前に座っていた位置と変わらないのと同じで、ギャオーの存在空想の産物は確かにこの世界にあったが、罪なき者どもの命を奪うまでの残虐性はなかった。全てを等しく、まるで復活させていく。


「一体何が起こっているんだ……?」


 爆弾を作り上げたクリスですら、想定外の効果に呆然としている。この世界でただ一人の未来が視える能力者である作倉卓は、すでに視ていた光景が現実となっていくのを目の当たりにしつつ「あなたがわからないのなら誰もわからないでしょうよ」とぼやいた。


「あとしまつを考えなくて済んだからいいんじゃないですかねぇ」


 作倉なりの励ましのつもりで付け加える。今後もあのバカの能力によりこの世界に誕生してしまった不思議な出来事に立ち向かっていかねばならない。今回は関連性がはっきりと視えていたが、これまでも【威光】の影響はあったのだろう。この世界の片隅には、名前も声も知らない不思議な力がまだまだ存在している。


「地中に埋まっていたガイアエネルギーは、言うなればで、ベクトルとしてはマイナス――だから、ギャオーの体温も。それと【創造】が結びついて、マイナスとマイナスが掛け合わさり、人類にとってプラスの効能を発揮したのではないでしょうか!」


 芹山が怪獣研究家として熱弁を振るう。自身の力の方向性をマイナスと評されたクリスは、その小学生に見間違えられる容姿にふさわしくムキになって反論しようか、あるいはらしく笑い飛ばすかを思案して、無視することとした。


「人の想像によって生まれた生き物は、所詮想像上の生き物でしかない。どれだけ見える理論を並べても、現実の世界を闊歩することはない」


 ギャオーとの会話が成立していたのは恵美子だけなので、これは憶測に過ぎないが……ギャオーはすでにこの世界には父親パパが存在しないことを知らされて、自ら望んで爆散したのかもしれない。

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怪獣のマーチ 秋乃晃 @EM_Akino

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