モテないのに自転車の二人乗りがしたくて「俺の後ろ空いてますよ」と言い続けていたらお嬢様が乗ってきた
本田セカイ
第1話
高校3年の秋、寒さも本格化してくる頃。
俺は猛烈な危機感に襲われていた。
大学受験? それもあるにはあるが、それよりもっと重大なことである。
「彼女が……ガールフレンドがいない」
生誕から今に至るまで、俺は一度たりとも彼女が出来たことがなかった。
無論俺がモテるタイプでないことは事実だが、イケてない、おもしろ枠のような扱いのせいで女子受けが悪いことももまた真理なのだ。
「誰だよ面白い奴はモテるとか言い出したのは……結局顔がいいかスポーツがデキる男しかモテてねえじゃねえかチクショウ」
だがそんな不満を述べても何も変わりはしない。それに受験戦争がスパートに入ればいよいよ俺は青春の6年間をドブ捨てる羽目になるのである。
そんなのは死んでも御免だ……ならば付き合うのは無理だとしても、せめてそれっぽいことでお茶は濁したい。
そこで俺は考えた。
「おーい! 俺の後ろ、空いてますよー!」
自転車通学をしている俺としてはやはり一度は憧れる女の子との二人乗りを、ネタっぽくすることで達成しようとしたのである。
【
そんなフットワークの軽い女の子が現れることを願い、俺は下校時間になる度必死にピエロを演じてみたのだが、現実は以下の通り。
『おう火谷、ちょっとコンビニまで乗せくれよ』
『あはは、火谷くんおもしろーい、ばいばーい』
『火谷、二人乗りは校則で禁止だ、生徒指導室まで来い』
後ろの荷台に乗ってくれるのは野郎のみで、女の子からは嘲笑しかなく、挙げ句教師に見つかり反省文まで書かされる始末。
俺の心は早くも後悔の二文字で埋め尽くされていた。
「はぁ……まあ、そりゃそうだよな。女の子からしても理想の二人乗りを、こんなモテない男に捧げる子なんている筈がない」
そう思うと段々自分が滑稽に思えてきた。こうなったら最後に一度だけ……盛大にピエロを演じたら俺も大人しく受験勉強に励むとしよう。
「さあさあ! 俺の後ろ空いてますよー! 本日が最後なのでこれを逃したら次はないですよー! 安心安全快適をモットーに、北は北海道、南は沖縄まで! しかも無料で送迎してま――」
「じゃあお願いするわ」
「はいィ! ありがとうございます! ではどちらまで――……え?」
最早ヤケクソ状態だった俺は降り掛かってきた声に対し勢いそのまま反応したのだったが、その声が女の子であると気づき慌てて後ろを振り向く。
するとそこにいたのは黒のボブカットに目尻の上がったグリーンの瞳、そして清楚ながらも何処か日本人とは違う整った顔立ちの子――
リアル公爵令嬢と名高い2年生、
「……なんで?」
「は? 貴方が無料で送迎をすると言ったんでしょ」
「確かに……言ったけども」
「そう。ならさっさとしてくれないかしら」
無愛想な表情に棘のある口調。
……噂には聞いていたが、本当に高慢ちきな子なんだな。
無論その顔、プロポーションは誰もが認める美少女なのだが、如何せん性格に癖があるらしく、2年生となった今彼女に近づく生徒はほぼいないのだとか。
まあ社長令嬢という身分が後天的にそうさせるのかもしれないが、よりにもよって初の女の子との二人乗りがお嬢様とは……。
うーん……最高でしかない。
「オーケイオーケイ。してお嬢様、どちらまで?」
「伊沢市までよ」
「畏まりました――って伊沢市!?」
伊沢市は俺達の通う学校のある市の隣である。距離にして約15キロ程度。
一応、通学する学生は一定数いた筈だが――
「自転車だと1時間以上はかかるぞ……」
「北は北海道、南は沖縄までカバーしている人が何を言っているのかしら」
「……ぐうの音も出んな」
となれば、自分で言った以上断る選択肢は当然ない。大体最初で最後の二人乗りを1時間も楽しめると考えればメリットだらけなのだし。
「よーし……ではお嬢様、しっかり俺に掴まっていて下さいね」
「荷台の取手を掴んでいるから早く出発して」
「ですよね」
残念がらそこまでの夢は叶いそうになかったが、贅沢はいけない。故に俺は気持ちを入れ替えペダルに足を掛けると、伊沢市方面に向かって走り出していく。
「…………」
「…………」
しかしいざ夢の二人乗りを始めるも、俺は志水と会話をしたことが一度もない為当然ながら無言の時間だけが過ぎていく。
だがこのままではただの運動でしかないので、雑談でも振ってみることにした。
「ところで志水は何でまた乗ろうと思ったんだ?」
「……それを貴方に説明する必要が?」
「んーまあなんつうか、身の丈に合ってないだろ、色んな意味で」
「別に自転車ぐらい乗るでしょ、まさかドアtoドアの生活をしているとでも?」
いやしてんだろ実際、お前の登下校毎日センチュリーじゃねえか。
「まあいいけれど……今日は迎えが来ないのよ。だからタクシーを呼ぼうとしたけれど、財布を忘れたから貴方を利用しただけ、それ以上も以下もないわ」
「へえ――そりゃ災難だ。とはいえ、捨てる神あれば拾う神もいるらしい」
「自分のことを言っているのかしら、いい自虐ね」
「……間違いねえな」
そんな毒にも薬にもならない会話をしつつ、国道から一つ外れた道を走っていくも、まだまだ伊沢市まで辿り着く気配はない。
これは想定より長丁場になりそうだ……と思っていると、ふと目の前にホームセンターがあることに気づいた俺はハンドルを切り中へ入っていった。
「は? ちょっと、何をしてるのよ」
「悪い、すぐ終わるから少し待っててくれないか」
「何で貴方の用事に付き合う必要が――あっ」
このペースだと日が暮れてしまうので志水が怒るのも無理はないが、それでも俺はあるものを買ってくるとすぐに彼女の下へ戻ってくる。
「送迎が寄り道なんて考えられな――って、それは」
「気休めでしかないが、座る用途じゃない荷台にずっと座ってられないだろ?」
だから、と俺はクッションを荷台に括り付ける。ふむ、これで何とかなるだろう。
「…………」
「後これも、投げるからちゃんと受け取れよ」
「えっ? あっ、熱! コーンポタージュ……?」
「この時間は冷えるからな。別に飲まなくてもいいが手ぐらいは温めてくれ」
「――疚しいのか優しいのか分からない人ね」
「概ね優しいだろどう考えても」
「どうかしら、下心が透けて見える気もするけど」
「なぬ、そうか……だから俺はモテないのか」
そんな会話を経て。
志水を乗せたままひらすらペダルを漕ぎ続けること1時間弱。
喉の奥から血の味を感じながらぜえぜえと息を切らしてしまっていたものの、何とか俺達は日が暮れる前に彼女の家に辿り着いていた。
「こ、これ……明日終わったわマジで」
「ご苦労さま、じゃあ私は帰るわね」
「え、あ、ああ――」
『詩織!』
しかしそんな労力に全く見合わない、実に淡白な返しをされていた時、ふいに和の雰囲気漂う屋敷から1人の男性が現れる。
「……?」
恐らく志水の父親と思しき感じではあるが、彼女に駆け寄るその様子はどう見積もっても和やかな感じではない。
うーむ、これはもしかしたら……と思っていると、その男性がジロリと睨んできた為、俺は即座に一礼すると自転車に跨がりその場を後にした。
「……どうやら、金持ちの娘にはそれ相応の悩みがありそうだな」
そうボヤく俺の悩みは、帰りの1時間が苦痛という些末なものだったが。
○
「…………なんで?」
翌日の放課後。
俺はほぼ負傷といっていい足を引きずりながら駐輪場へ辿り着くと、何故か俺の自転車の荷台に先客が座っていた。
というか、どう見ても志水だった。
「今日も迎えが来ないのよ」
「そして財布もお忘れで?」
「ご明察」
んな訳があるかーい! と大仰なツッコミをしそうになったが、その気持ちをグッと抑え込んだ俺は代わりに小さく息を吐く。
ううん弱ったな……別に二人乗りをするだけなら寧ろこちらこそと言いたい所だが、それで片付けていいかは微妙なんだよな……。
何なら俺の目標はバキバキの筋肉痛と引き換えに達成されているのだから、はっきり言ってこれ以上のメリットは俺には一つもない。
ない、筈なのだが――
「……そそっかしいお嬢様だ。まあいいや、しっかり掴まってろよ」
「! あ……ありがとう」
勝手な憶測を言わせてもらえば、こんなイけてない俺の後ろに二日連続で乗る時点で今の志水は普通の状態ではない。
そんな後輩に対し『嫌です』と梯子を外せる男に生まれた覚えはない、ただそう思ったのである。
まあだからと言って俺に掴まってくれることはないのだが。
○
そこからは、昨日と同様国道の裏手を走り続け、大体同じ時刻に伊沢市に辿り着く。
後は家まで数分ぐらいの距離――だが俺は自販機を見つけるとその地点で自転車を止めた。
「? まだ家までは少し距離があるわよ」
「いや、ここでいい。面倒事を増やしてもお前に得がないしな」
「え――……」
「恐らく志水なりに既に弁明はしていると思うが、まあ俺のことは好きに言っといてくれ。それでいい具合になるなら越したことはないしな」
と言いながら俺は自販機に小銭を入れると、コンポタを購入し彼女に渡す。
「とはいえ、人ってのは寒いだけでどうにも気が滅入るからな」
「それは……私に言っているの」
「ただの経験則に基づく主観的意見だけどな」
「そう――ならあまり参考にはならなそうね」
志水は少し呆れたような声をあげると、俺に背を向けそのまま歩きだす。
しかし数歩進んだ所で足を止めると、背を向けたままこう口を開いた。
「ねえ」
「うん?」
「明日も、運行はしているのかしら」
「そりゃまあ、学校がある日は毎日運行してるだろう」
「分かった――じゃあまた」
彼女は消えるような声でそう言うと、今度こそ家路へと着いたのだった。
「……コンポタ、箱買いしとくかなぁ」
○
それから。
志水を家へと送る日々は、奇妙なルーティンになっていった。
授業が終われば彼女は必ず駐輪場で待っている為、俺は特に理由を訊かずに乗せる。
送っている最中は取り留めのない会話を皮肉を交えられながらし、近辺に辿り着けばコンポタを渡しお互い帰路へ着く。その繰り返し。
流石にこうも常習化してくると友人から騒がれることもあったが、『この俺に深い意味があるとでも?』と言うと誰も追求しなかった、納得いかん。
お陰で足腰が強くなり、無駄に体力も増えた。
その分、二人乗りをすることへの高揚感も減っていったのだが。
「大分遅くなっちまったな」
その日は、本格的に進路を決める二者面談だった。
しかしそのことをすっかり忘れていた俺は担任に首根っこを掴まれたことで思い出し、おまけに何故か雑務まで手伝わされた結果気づけば定時を1時間も過ぎた頃に学校を出る羽目に。
流石に、今日は帰っているだろう。
そう思いながら駐輪場へ赴く俺だったが――入り口付近まで辿り着いた所で何やら数名の生徒が身を潜めながら駐輪場を覗く姿が見える。
「……まさか」
俺は歩を早めると、その生徒の脇を抜け自分の自転車へと近づく。
すると、そこには姿勢を正しくして荷台に座る志水がいるのだった。
「お前――……いや、悪いな遅くなった、すぐ行こう」
「…………」
志水は反応しなかったが、俺はスタンドを降ろしサドルに跨がると、ぐいっとペダルを踏んで勢いよく走り出す。
ううむ、それにしても待っていたとはな……と思いながら、しかしどう声を掛けるべきか迷っていると、ぐっと背中の重心が下がる感覚が走る。
それは俺の制服を掴んでいるのだと気づくのに時間はかからなかった。
「……しっかり掴まってろよ」
俺はそう伝えるとアシスト機能のない自転車で山を登っていく、それは俺の家の方向でもなければ志水の家がある伊沢市でもない。
それでも舗装された道を走らせること十数分。
とある公園に付いた俺達は自転車を止めると、自販機でコンポタを買い中へと入っていった。
そこから見えるのは、沈む夕日と共に一望出来る俺の住む街である。
「志水はこういう景色は好きなタイプか?」
「……いえ、別に」
「だよな、俺もあんまり好きじゃない」
「は……? じゃあなんで――」
「でもボーッとするには丁度いいんだ。人間ってのは難儀なもんで嫌なことがあるとそればっかり考えてしまう、そうなるとメリットなんて一つも無いからな。だからこうやってコンポタ飲みながらリセットするんだよ」
「……意外ね、貴方に悩みがあるなんて」
「大概は人間関係だけどな。レッテルで茶化されたりいいように使われたり――そんな自分の立ち位置で悩んだことは何回もある」
「あまりそうは見えないけれど」
「表面上は見せてないだけさ、柄でもないし。あ、でもこれ皆には内緒な?」
「言う相手なんていないから、心配無用」
「そうか」
そう言って、示し合わせたかのように俺達はコンポタを飲む。
じんわりと染み込む暖かさが、少し寒さを和らげた。
「一つ……訊いてもいいかしら」
「?」
「貴方は……その、お見合いについてどう思う?」
「ん……そうだな、物珍しくはないだろうが――」
相談所なんてのは昔からあるし、最近はお見合いアプリなんても乱立する時代。決して驚き慄くワードではないだろう。
ただ、それは志水家の子供でなければ、だが。
「決まったレールに乗せるには、少々気が早いとは思う」
「流石に直接的な話にはなっていないわ。ただ――少し前に父から紹介されて以降頻繁に会わされている男性がいるの」
志水が営む会社はこの地域なら誰もが知る程度には歴史が長い。となれば懇意にしている若手実業家がみたいなのがいても不思議ではなさそうだ。
親として、この人なら、と考える気持ちは分からんでもない。
「確かにいい人だとは思うわ。でも……好きかどうかはまた別の話だもの」
「ましてや結婚を前提に考えられているとなればな」
「それで父がよく彼の話をしてくるから、段々家に帰るのが億劫になって、けれど迷惑をかけ過ぎる訳にもいかないから……」
成る程、それで最大限の抵抗方法が俺だったという訳か。
実際、それで多少の安寧は保てただろうしな――とはいえ人を寄せ付けない冷たい印象とは裏腹に、存外気を使えてしまう子なのは少し意外ではあった。
まあ俺では分からないようなしがらみはあるのだろうけど……しかしそれを言える相手がいないが故に抱え込んでいては当然辛いというもの。
現状では断るも糞もない話だからな……ただ。
「そんなに深く思い詰める必要はないと思うぞ?」
「え?」
「というか、志水があれこれ考える必要がないと言うべきかな。大体父親なんてのは極論一番大事なのは自分の娘と相場決まってるもんだし」
それはあの時の父親の態度を見れば大体分かる。何なら娘の為に良かれと思ってしたことが裏目に出て困っているんじゃないだろうか。
「だからちゃんと自分の気持ちを伝えれば案外すんなり終わると思うぞ? それでも言い辛いっていうなら俺が一緒に行ってやるし」
「! 火谷……さん」
「それで駄目だったらまた一緒に考えよう。ま、多分その心配はないと思ってるけど、一応『駄目だったじゃねーか!』って怒る場所は作っておかないとな」
そうやって俺は笑ってみせると、志水は目を丸くして俺の顔を見る。
そこには、先程のような暗い雰囲気はなかった。
「……どうかしら。楽観が過ぎると思うけれど」
「それは否定しない。でもやってみないと何も変わらないからな」
「貴方も、そうしてきたの?」
「勿論。じゃないとこんなイケてない奴がイケたこと言えねーよ」
「確かに……それはとても参考になりそうね」
そんな彼女の口角は今までで一番高く上がっていた。
まあ――この様子なら大丈夫そうだな。
故に、俺は一つ伸びをすると、彼女にこう言うことにした。
「んじゃ、今日も送らせて頂くとしますか」
○
人間というのは単純なもので、自分を悩ませる問題が消え平静になると、途端に損得勘定で動き出す生き物なのである。
「でもそれは仕方ない。俺と二人乗りをするなどどうかしていないと出来ないからな」
とはいえ短い期間だったが随分と良い夢を見させて貰った。何よりこれから俺は死ぬまで女の子と二人乗りをしたと人に言えるんだからな。
志水には悪いが、感謝の極みである。
『おう火谷ー、パパ活の調子はどうだ?』
「馬鹿野郎、それは将来の俺だ。下僕生活なら終わったけどな」
『それはそれでおかしいだろ。まあいいや、チャリンコ乗せてくれよ』
「おう、取ってくるから待っててくれ――でも、これで終わりは寂しいもんだけどな」
「誰がいつ、終わりだなんて言ったのかしら」
「……え?」
そんな会話をしつつ、感傷浸る自分に酔いながら一人駐輪場に入ろうとすると、突然幾度となく聞いてきた声が飛んでくる。
若干困惑しつつも俺は視線を上げると、そこには荷台に座る志水の姿があるのだった。
「あー……えーと、何ていうかその」
「結果報告も聞かずに、勝手なことを言われると困るのだけれど」
「い、いや――でも、その様子だと問題は無さそうだな。良かったよ」
「ええお陰様で、やっぱり何事も口にしないと分からないものね」
「そりゃな、ちゃんと自分の気持ちは伝えるべきだ、黙っていても損しか――」
「そうね。だから私は火谷さんへの想いをちゃんと父に伝えてきたわ」
「無――……ん? お、俺?」
「それ以外に誰がいるというのかしら、私、友達いないのだけれど」
「そうかもしれないけども……でもつまりそれって――」
「? 好きよ火谷さんのこと、愛してると言った方が分かりやすい?」
唐突過ぎる告白に俺の頭は思考停止に陥りかける。
えーと……マジで? これ、本当に夢だったりしないよな?
あまりにも信じることが出来ず、俺は無意識の内に右頬をつねって痛みを確認していると、それを見た志水が俺の左頬をつねってくる。
「夢じゃないわよ」
「……ほうか、夢しゃないのか」
「私が周囲にどういう人間と思われているか知っていながら、それを一切気にしない貴方の献身的な振る舞いに私は救われたの。そこで気づいたわ、自分は火谷さんのことが好きになっているのだと。仮に下心があったとしても、そんなのどうでもいいくらいに」
「ほー……ほりゃ嬉しい」
「だから、もし貴方も私のことを好きならお付き合いをさせてくれないかしら」
「まー……そう言われたら断る理由がないわな」
「! そう……良かった。じゃあ今から父に挨拶に行きましょうか」
「……はい? ご挨拶?」
「ええそうよ。でも大丈夫心配しないで、私が火谷さんの人となりを懇切丁寧に説明しているから、その上で父も是非お会いしたいって」
え、いや、それは本当に大丈夫なのか? 若干嫌な予感がしなくもないが……。
というか親が親なら子も子というべきなのか……段階を踏むのが当たり前のように速過ぎて気が遠くなりかける。
しかし。
志水が人となりを見て好意を持ってくれたのは素直に嬉しいものがあった。
別に自分が聖人だとは微塵にも思っちゃいないが、そんな形で好きになって貰えることがあるとは思っていなかったからである。
しかもそれが稀代の美人であるお嬢様とは、俺明日死ぬのか?
「うーむ……ま、まあそういうのを疎かにするのは良くないからな。公認である方が何かと良いだろうし、じゃあ行くとし――――ぐっ!」
何だか混乱してしまっている気もするが、取り敢えず俺は自転車に跨がろうとすると、サドルに座った途端両脇からすっと手が現れ、俺の胴がガッチリホールドされる。
「あ、あの……しっかり捕まり過ぎではないかと」
「どうして? いつもしっかり掴まっておけと言ってるじゃない」
「ま、まあね、危ないのは事実ではあるし……」
「確かに少し大袈裟かもしれないけれど……でも好きだから」
「!! ぐぐぐ……!」
いかん……そんなことを言われたらコンポタなど比にならないレベルで身体が熱くなってきた。お義父さんに挨拶しなければならないというのに、このままだと間違いなく失敗してしまう。
故に俺は熱と煩悩を振り切る意味でも、一度深呼吸を入れると全力で自転車を漕ぎ出す。
そして志水に抱きしめられたままこう叫ぶのであった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 俺の彼女が可愛過ぎて受験失敗確定だぜチクショオオオォォォーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
この後、激イタカップルと呼ばれたことは言うまでもない。
モテないのに自転車の二人乗りがしたくて「俺の後ろ空いてますよ」と言い続けていたらお嬢様が乗ってきた 本田セカイ @nebusox
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