瑠璃色の羽 🥕

上月くるを

瑠璃色の羽 🥕





 雲ひとつなく晴れた穏やかな祝日。

 小春日和の文化の日のひるさがり。


 黄菊や赤菊が香り高く群れ咲き、芒が花の泉を噴き上げ、桜紅葉がひらひら舞い、ポプラが黄金に輝き、畑には渋柿が捨てられ、外飼いのトラジロウは爆睡中。(笑)


 そんな秋景色に、美しい瑠璃色をした二頭のムラサキシジミ蝶が飛んで来ました。

「森の宝石」といわれるだけあって、こんな季節でも羽はあざやかに光っています。


 さきに飛んで来たのは弟のシジミくんで、追いかけて来たのは姉のムラサキさん。

 やんちゃ坊主の弟は姉の止めるのも聞かず、やたらに元気に飛びまわっています。


「これ、シジミ、待ちなさい。そんなに遠くへ行っちゃだめって言ってるでしょう」

「ぼう、平気だい。こんなに気持ちのいい日なんだから、どこまでだって飛べるよ」

 

「言うことを聞かないで勝手なことをしていたら、そのうちきっと痛い目を見るよ」

「なんだい、姉さん風なんか吹かしちゃって。年子なのにチャンチャラ可笑しいよ」

 



      🍁




 途方に暮れたムラサキは、夢中で山茶花の蜜を吸っているシジミに言いました。

「そんなにせかせかしないで、羽をやすめて、ちょっと遠くを見てごらんなさい」


 ふしょうぶしょうシジミが顔を上げると、ムラサキは遠くの山脈を仰ぎました。

「色づいた里山の向こうに高山が並んでいるわね、さらにその先をごらんなさい」

 

 ええっと、その先には……なんだか三角にするどく尖った、白い山巓が見えます。

「ほら、もうあそこは根雪になっているの、その前の山だってすぐにああなるのよ」


「あの高い山の向こう側、日本海の港町にはね、そのうちに鰤起しといわれる冬の雷が鳴って、それを合図にどっかんと大雪が降って、蝶は飛ぶこともできなくなるの」


 それを聞いたシジミはぶるっと身体をふるわせました、寒いの、大きらいなので。

「そうなの……でも、平地はまだこんなにポカポカなんだから、ぜんぜん平気だよ」


「おばかさんね、はじめての冬を迎えるおまえには、凍える怖さが分からないのよ。もう半月もすれば朝晩は零下になるの。その前に越冬の準備を済ませておかないと」


 ようやく納得したシジミは大慌てでUターンしようとして枯枝につまずきました。

「そんなに慌てなくて大丈夫。いまごろきっと安心できるお家が見つかっているわ」




      🐶




 ムラサキシジミの家族はアラカシの葉かげにかたまって寒い冬をやり過ごします。

 とうさんかあさんにいさんねえさんが居心地のいい木を見つけてくれたでしょう。


 やんちゃな弟のシジミくんを連れもどしに来た姉のムラサキさんはやれやれです。

 お昼寝から起き出した外飼い犬のトラジロウが、瑠璃色の羽を目で追っています。




      🌍




 この日の朝、反社国家が連発したミサイルをめぐって、日本列島は大混乱でした。

 別の反社国家に侵略されたウクライナの瑠璃色の羽たちはどうしているでしょう。





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