死神殺しと呼ばれる猛男はモフモフテイマーになる

茜カナコ

第1話

 教室で窓から外を眺めていると、俺のことを噂する声が聞こえた。

「猛男、あいかわらず怖いな。何考えてるんだろ」

「また、誰か殺すつもりじゃね? 死に神殺しって呼ばれるくらいだし」

 俺はウンザリした気分で、チラリと声の主の方を見た。


 その瞬間、話していた二人はサッと俺から目を背け前を向いた。

「おはよー! 猛男、なに威嚇してんの?」

「なんだ、リサか。なにもしてねえよ」

「うーん。猛男は見た目が怖いから、普通にしてるだけで恐怖を生んでるんだって」

「なんだそりゃ」

 リサが席に着くと、周りから生徒達が集まってきた。

「リサちゃん、猛男君と話せるなんてすごいな」

「猛男、良い奴だよ?」

「またまた。リサちゃんが可愛いからだって」

 リサは照れている。アイドルのように可愛らしい笑顔と華奢な体。俺とは正反対だ。


 俺はと言うと、リサ以外から話かけられる事も無く一日が過ぎて行った。

「あーあ。もう放課後か。猛男、一緒に帰ろう?」

「まあ、いいけど」

 俺がリサの後について教室を出ると、教室に張り詰めていた空気がゆるむのが分かる。

 ため息をつく俺に、リサは言った。


「猛男、もう少し笑えば?」

「一度笑ったら、許してくれって土下座された……」

「ああ、そうなるかもね」

 リサは遠慮無く笑っている。

 たわいのない話をしながら、横断歩道で信号が変わるのを待っていると猫が飛び出してきた。

「危ない!!」


「ちょっと! 猛男!?」

 俺は猫の首の後ろを掴み、道路の外に放り投げた。

 目の前には大きなトラックが迫ってきている。

「キーッ!!」

 俺はブレーキ音を聞きながら、意識が遠のくのを感じた。


***


「おや? これはどうしたことか……テイマーを召喚したはずだか……?」

 俺は目を開けた。

 最初に見えたのは、光る魔方陣と俺を取り囲むローブを着た大人達だった。

「はあ? ……病院……じゃねえな?」

「お前はこの世界に召喚されたのだ。テイマーとして」

「テイマー!?」


 俺はゲームでしか聞いたことのない単語を聞いて混乱した。

 辺りを見回すと、石で出来た神殿のような場所にいるらしいことが分かった。

「大変です、神官長!!」

「何事だ!?」

「ケルベロスがやって来ました!!」

「ここも嗅ぎつけたか!?」


「とりあえず、こいつにテイマーの素質があるか確認しよう」

「はあ!?」

 俺は神官達によって、両手に黄金色の手袋をはめられた。

「さあ、行ってこい!」

 神官長とやらに言われるまま進むと、大きな狼のような姿で三つの頭がついた獣が俺の方にやって来た。


「ちょっ……どうすりゃいいんだ!?」

「その手袋で撫でれば、なつくはずだ。お前がテイマーならな」

「はあ!? ちがったらどうなるんだよ!?」

「食われて終わりだ」

「そりゃないだろ!?」


 俺は覚悟を決めて、ケルベロスに飛びかかると、首の根元や耳の根元、ふわふわした所を中心になで回した。

「おお! ケルベロスが静かになっておる」

 俺が撫でる度に手袋が輝き、ケルベロスはうっとりとした表情で目をつむった。

 しばらく俺がなでつづけていると、ケルベロスはごろりと寝転んで腹を見せた。


「なんだ、可愛いな、お前」

 俺はケルベロスの腹をやさしく撫でると、ケルベロスは俺の顔を舐めた。

「おお!! 伝説のテイマーの呼び出しに成功した!」

「なんだよ、伝説のテイマーって」

 俺が聞くと、神官長が答えた。


「今、国はモンスター達が凶暴化している。それを鎮められるのは伝説のテイマーのみ。それが、お前だ」

「は!?」

 俺は、まどろむケルベロスをなで続けながら、きょとんとした。


「さあ、これからこの国を救う旅にでてくれ」

「……断る」

「拒否権はない」

「ああ!?」

 両手にはめられた手袋が輝き、俺の手を締め付けた。

「なんだ、これは!?」


「それは伝説のテイマーのみが装備できるテイマー専用手袋だ。一度はめたら、1万匹のモンスターをてなづけなければ外れないと言われている」

「勝手にそんなもの、つけやがったのか!?」

 立ち上がった俺に、ケルベロスが悲しそうな声を出した。

「くうん……」


「……しょうがねえ。分かったよ、1万匹てなづけてやるよ」

「それでは旅の道具をお前にやろう」

 俺は大きなリュックを渡された。

「一万匹……やってやるよ」

 俺はケルベロスに跨がって、知らない世界に踏み出した。

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