滅亡


 〜マラフェスタ王国、タラトゥ平野〜


 翔琉と志願兵達、学生達は廃墟となった建物に身を潜める。時刻は14:10分、作戦開始まで約50分ほど。


「いいかお前ら、今回の目的は奇襲作戦及びタラトゥ平野奪還だ」

「今回、敵側の意図が全く読めていない状況だ」

「考え得る最悪手はここに王国の最大勢力を配置し、隣国を通して進軍するという事」

「その点に関してはもう女王に伝えているし、参謀本部も理解している」

「戦争に於いて、スケジュールは組めない」

「攻撃開始となったら己が最も良いと判断することを優先しろ」

「死ぬなら敵の弾を多く食らって死ね、生きて帰って、また戦う事が最も国の為になる」

「いいな?」


「「「「「はい」」」」


 志願兵は勿論、学生達も翔琉の指示に忠実だ。


(子供ながら、肝の座ってる奴らだな)


《アンロックスキルから危機超察知を獲得しました》


(この場面での獲得ということは…)


《関連スキル:危機超察知を行使します》


「13時と10時の方向に6つの人影がある」

「作戦は早期決行に変更する」

「3…2…1…作戦開始!」


「「「魔術:ウォールブレイク」」」


 翔琉により鍛え上げられたエルフの魔法が敵部隊を殲滅する。


「す、すげえ」


 学生達は驚嘆する。


「おいガキ、口動かすなら敵軍の侵攻を伝えろ」


「は、はい!」


 学生達は後方へ走り出した。翔琉はエルフに告げる。


「俺はドリツの主要都市2つを陥落させる」


「?!」


「何かあればお前らで考えて行動しろ」


《魔力を90000消費し、魔術:転移魔法を行使します》


 〜ドリツ帝国、アイレス州ダミル〜


 アイレス州で最も盛んな都市、ダミル。戦争中、しかも最前線付近の都市だというのにも拘らず、普段と変わらぬ日常を過ごす民間人の姿があった。


「戦争が始まってるっていうのに呑気に商売ですか」


《魔力を12000消費し、魔術:水塊を行使します》


 翔琉は時間をかけ、街を水で飲み込んだ。軍隊もやってきたが、構わず水責めする。


「先ずは1つ陥落…陥落っていうか抹消だな」

「よし、次」


《魔力を90000消費し、魔術:転移魔法を行使します》


 〜ドリツ帝国、テミネン州ヤムア〜


 テミネン州、帝国最大級の都市ヤムア。高層ビル群が栄え、マラフェスタ王国よりも先進的な工業類が存在している。

 翔琉は転移先のビルの上から都市を見下ろす。


「奪われる辛さすら与えられない…それがどれほど虚しいか教えてやる」


《魔力を11000消費し、魔術:陥没を行使します》


 均等に何度も魔法を放ち、街を囲う大きな穴を作った。夕日と共に街は巨大な穴へと落ちていく。ビルと共に沈みながら、翔琉は都市の崩壊を見届けた。


《魔力を90000消費し、魔術:転移魔法を行使します》


 〜マラフェスタ王国、王城参謀本部〜


 翔琉は王国へと帰還した。


「平野は奪還出来たのか?」


「か、カケル様! いつからそこに!」


 参謀員の男が声を上げた。


「質問に答えろ」


「…は! 現在タラトゥ平野は我々騎士団が占領しております」

「しかしながら、帝国は最大戦力を引き連れ行軍、国境都市ターリッヒにおいて激しい戦闘が行われております」


「俺の部隊は?」


「ターリッヒ防衛線への援軍に向かいました」


「分かった、俺も向かう


《魔力を90000消費し、魔術:転移魔法を行使します》


 〜マラフェスタ王国、ターリッヒ〜


 ターリッヒは何かの映画で見たような惨状だった。


「…汚ねぇな」


 翔琉は蝿が飛び交う死体を見て吐き捨てる。


「カケル様!」


 隊長が翔琉の元へ走ってきた。


「…報告」


「は! 現在ドリツ帝国と交戦、死者約328、行方不明者数、負傷者数共に不明」

「敵戦力の主力戦車4台を破壊、戦闘機6機を撃墜しました」


「兵站や回復は」


「現在手が回っておりません」


「…そうか」

「俺はこれから相手側の前線を断つ、ガラクタを積んでバリケードだ」


「了解しました、ですがどうやって…」


「俺の部隊がやる」


 翔琉は自部隊の方へと向かう。到着した頃には隊列を組み敬礼をしていた。


「ほぅ」

「よしいいか、ビルを倒壊させて前線を分断する」

「お前達は帝国兵を落下地点に誘導しろ」

「そのまま押し潰して戦力低下が出来れば万々歳だ」

「やれるな?」


「「「はい!」」」


 翔琉が何も言わなくとも、エルフ達は各々考えて行動し始める。作戦開始から数十分で帝国軍に混乱が生じ始めた。


「な! マラフェスタのエルフ!」


 帝国兵は射殺しようと試みるがどれも魔法で無力化される。


「…ㇰ!」


 エルフの剣が鼻先に現れた。


「ぅ…うわぁああああ!」


 桁外れの実力に、帝国兵達は逃げ惑う。エルフ達はアイコンタクトやハンドサインだけで行動し、帝国軍を一点に集中するように追い込んで行く。


「流石だな…」

「よし」


《関連スキル:武術超覚醒を行使します》

《スキル:剣術を行使します》


 翔琉は聖殺大剣を構え、ビルに切り込みを入れた。ビルは轟音と共に崩れ落ちていき、落下地点にいた多数の帝国兵達が下敷きになり、前線を断つ瓦礫の山ができ上がった。


「これで動きやすくなる」


《関連スキル:威力超向上を行使します》

《スキル:射撃術を行使します》

《スキル:炎付与を行使します》

《魔力を360消費し、魔術:念動魔法を行使します》

《魔力を4600消費し、魔術:広範囲念話を行使します》


『王国兵に告ぐ、頭上に注意しろ』


 翔琉は宙に浮き上がり、前線の中央まで行くと引き金を引く。


「総員伏せろ!!!!」


 大隊長が命令した瞬間、射撃音が空中から鳴り響く。1弾1弾の威力がC4爆弾級の威力となり、帝国軍に降り掛かった。

 空からは空薬莢と建造物の破片が降りかかる。それらは全て炎付与により燃えている為騎士団にも被害が発生した。


 1時間ほど経つと銃声は鳴り止み、煙幕が晴れる。王国兵が見たのは灰山となった街と肉片となった帝国兵であった。

 敵に圧倒的損害を与え終え、翔琉は王城へと向かう。


 〜マラフェスタ王国、王城〜


「お帰りなさい」


 ツィルは翔琉に抱きつく。


「まだ終わってない」

「フェルはどこだ」


「フェルフィーナ様は女王陛下と御一緒に玉座の間にいらっしゃるわ」


「分かった、報告に行く」


 翔琉は奈々達の元へ行き、報告をする。


「取り敢えず、タラトゥ平野付近の帝国の都市2つを陥落させ、ターリッヒ戦線を壊滅させた」

「拍子抜けだ。帝国の参謀はおそらくバカなんだろう、作戦という作戦が全くない捨て身特攻ばかりの戦闘しか見なかったぞ」

「シミュレーションなら戦地を増やし兵力の無い俺たちはジリ貧になり帝国に侵略されて王都で最終決戦…だったのに」

「手練れはトーシロ相手に負けるってのは事実らしいな」

「それとさっきの戦闘で帝国側の兵器も兵力も相当削いだ」

「もうこちら側の圧倒的有利だ、終戦協定を結ぶ時のような気がするが?」


 翔琉は自論を述べ終える。


「…カケル、先ず貴方に感謝するわ」

「貴方のおかげで戦況は想定より遥かに良い結果となっています」

「ただし、1つ問題が」


「問題?」


「連邦が参戦したの」


「は?」


「どうやら帝国側が苦戦しているというのが注意を引いたようで」


 フェルが補足した。


「漁夫の利を狙っていると?」


「ええ」


「マズイな」


 心臓の鼓動が高まる。


(…こっちもマズイ)

「俺が終戦を帝国に告げてくる…」


「カケル様! 待ってください!」


「フェル…ナナ女王姉さんのとこに着いとけよ」


《魔力を90000消費し、魔術:転移魔法を行使します》


 〜ドリツ帝国帝都、帝宮〜


「いってぇなぁ!」


 肘を摩りながら周りを見渡す。転移先はドリツ帝国皇帝の目の前であった。そして、近衛兵が翔琉を取り囲んでいる。


「何奴!」


 皇帝が大声で問う。


「あー、敵兵の隊長格くらい、覚えてもらいたいもんだ」

「どうもドリツ皇帝、俺はカケル」

「よろしく」


 慇懃無礼にお辞儀をした。


「貴様、どこから現れた…」


(肝の座ったおっさんだな)

「どこからって転移魔法で現れ―」


「転移魔法だと?!」

「貴様、もしや魔族か?!」


 皇帝が翔琉の語りを妨害した。


「どこに目つけてんだよ、眼球まで装飾品にしたか?」


 嘲笑しながら喋る。


「取り敢えず、お前ら邪魔だ」


《魔力を11000消費し、魔術:風圧卒倒を行使します》


 皇帝以外の人物は皆横たわる。敵を全て圧死させる魔法は、帝宮にいる人間を圧死させた。運が悪い事に、各大臣や官僚が帝宮内にいた。


「…ㇶ!」


「ハハハハ」


 帝宮に掠れた笑い声が響く。


「俺は今回、帝国に対しての降伏勧告を伝えにきた」

「お前は王国をだいぶ舐めてたようだが、下手を打ったな」

「ヤムアとダミルが陥落して、ターリッヒとタラトゥも占領できていない」

「兵士も兵器も兵站もたんまりあるんだろうが、機能していない」

「立憲君主じゃなく絶対君主にしたのが間違いだったな」

「今回の戦争はお前1人の責任だ」

「戦争犯罪者としてお前を今殺してやってもいい」


「な、何をほざくか」


「いやぁ、的外れなことは1つも言っていないぞ」

「今お前が残軍に出撃令を出そうが、それを伝える人間がいないからな」

「はっきり言って王手だ」


「…こんな事をして、タダで済むと思っているのか!」


「ああ思ってる! 戦勝国は何をやっても見て見ぬ振りをされる」

「戦勝国の戦争犯罪はあってないようなもんだ」

「勝った国は敗戦国で暴利を貪る権利が与えられるんだよ」


「…な、なん…何を…」


「そうだなぁ、俺とギャンブルしねえか?」

「俺が勝てばお前の国はマラフェスタ王国が統治する」

「お前が勝てば、ドリツ帝国に寝返ってやる」


「な、なんじゃと?!」


 皇帝は目を丸めて驚く。


「耳…聞こえてるか?」


「その…ぎ、ギャンブルとは?」


「簡単だよ、ババ抜きだ。使うのは3枚だけど」

「どうする?今後の最重要決定を運で決めるか?」


「それは…お主になんの利点があって寝返る!」


「気分だ、それ以外に理由はない」


 淡白な回答。


「気分…」

「…朕が勝てばお主は我が軍門に降るというのか」

「運なんかでこの未来を決めるなど…」


 長い沈黙を破り皇帝は言葉を発する。


「お主のギャンブルを受けてやろう」


 あくまでも皇帝としての威厳を保ちながら、翔琉の案に乗る。しかし、翔琉は自分より格下の相手が偉そうにするのは気に入らない。


「あっそ」


 皇帝の頭に剣が突き刺さった。


「んまぁ、端から賭けなんかするつもりもなかったがな」

「…」


 剣を抜き、もう1度皇帝の頭に剣を突き刺す。


「この、いい気になった、クソッタレ老害風情が!」


 何度も突き刺す。

 何度も、何度も剣が体を貫く度に心が満たされる。孤独が満たされているのでは無い。快楽が満たされていく。


《アンロックスキルから未来予知、気配超感知、殺気確認、呪詛超耐性を獲得しました》


 1時間程経ち、翔琉は落ち着きを取り戻す。


《魔力を600消費し、魔術:鎮静魔法を行使します》


「(溜め息)…よし、あとは連邦だな」


《魔力を90000消費し、魔術:転移魔法を行使します》


 〜グレートアイデン=ハイウェスト連邦、大統領府〜


「よし、うまく着地できたぞ」

「初めまして大統領さ…ん」


 そこには既に奈々とフェルとツィルが居た。


「あ?」


「…貴方がドリツ帝国へ向かった後、私達は連邦へ会談を取り付けたの」

に今回の参戦を停止し、同盟を結び帝国を倒す事を約束したわ」

「それとドリツ帝国を共同統治する旨の調印も済ませたわ」

「私達王国からするとドリツの広大な土地と資源、そして技術が欲しい、連邦からすると、対抗する同レベルの国家が消えて嬉しいから」


 奈々が状況を説明する。


「手際がいいな…」


「貴方の勧告が突っぱねられて憤慨した後に連邦政府に宣戦布告するだろうと思ってね」

「急いで来たのよ」


「…成程」


「カケル様、紹介します、こちらが連邦政府代表、サミュー・シューツァ大統領です」


 フェルが翔琉に紹介した。


「お初にお目にかかるカケル様」


「え?あ、どうも」


「あと永久的不可侵条約も結んだわ」

「冷戦は起きないわよ」


「起きそうな気もするけど」

「でもまぁ、解決したんならそれでよし…か」

「…ドリツの皇帝は殺したが、その点は大丈夫か?」


「「「「え?」」」」


「軍事指揮を取る人間がいないから、面倒臭いことになるかもな」


「フェル、即座に連合軍を帝都に派遣し残党軍に降伏勧告を」


「了解しました」


「サミュー様、少々お時間を頂いても?」


「あぁ! 勿論だとも」


 慌てふためく奈々とサミュー。


「なーんだちゃんと女王やってんじゃん、JKのくせに」


 呑気に感想を述べる翔琉。


「JK?」


「なんでもない、先に帰るぞツィル」


「え? あ、うん」


 ツィルは翔琉の後についていく。


(転移して、冒険者になって、戦争して、こっから魔王討伐かぁ)

「…長旅になるな」

「ツィル、俺…やる事決まったわ」


 にっこり微笑むその顔は、無邪気さと残虐さを兼ね備えた顔だった。

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異世界は職業スキルで乗り越えます! 27:30 @murasakiningen

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