改造の手順

結騎 了

#365日ショートショート 306

「ですから、脳を最初に改造したいのです」

 照明が不十分な会議室。オペ室の隣に設けられたその部屋には、秘密結社・闇九字団の幹部と技術者らがそろっていた。

「しかしだね、博士」。我先にと口を開いたのは、幹部のひとり、犬の怪人だ。「さらってきた人間の脳を先に改造すると、体がその性能に耐えきれないのだよ。脳改造に負荷はつきもの。まず体を改造して、体力と機能を底上げしてから、最後に脳を改造するのがセオリーだ。君もそれは分かっているだろう」

「ええ、分かっています。しかし……」

 博士は食い下がった。

「ええい、うるさい。君たちはただ黙って我々の指示通りに人間を改造すれば良いのだ」。大声で割って入ったのは、これまた幹部のひとり、タコの怪人だ。「どうせ改造は全ての手順を行うのだ。順番など、さして問題ではあるまい。それともなにかね。君は現状の手順のリスクを説明できるのかね」

 視線が博士に集まる。一息置いて、博士は答えを絞り出した。

「もちろんです。脳に最初に手を付けたい理由。それは、新たな脅威を生まないためです。よろしいですか。もしも、もしもです。従来通り脳を最後に回して、あとは脳手術だけというタイミングで、その人間が脱出を試みたら。我々が埋め込んだ怪人の機能やパワーを有しながら、脳改造だけを受けていないことになります。そうなると、一体どんな行動に出るか……。自暴自棄になり、我々に歯向かってくる可能性だってあります」

「はっはっはっ。なにを言っているのかね、君は」。タコの怪人が高笑いをした。「人間が勝手に逃げ出すわけがなかろう。警備体制にも問題はあるまい。君は心配性かね。はっはっはっ」

 そうして笑いながら、幹部陣は部屋を後にした。

「果たして、杞憂だろうか……」

 博士は、ぽつりと呟きながらそばにあったガラスケースを撫でた。ケースの中では、次の人間にその生態情報を埋め込むべく採取した昆虫が、ぴょんと跳ねていた。

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改造の手順 結騎 了 @slinky_dog_s11

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