第3話 落日

 「毒だ」


「毒…だと…?」


 一瞬にして宴会にいた全員の時が止まる。

しかし止まった時の静寂をゆっくり裂くように

「毒…などと…何を根拠に…。」

王妃が震える口から精一杯言葉を捻り出した。

だがルアの女はお構いなしに続ける。

「これは…アヒサの花の毒!」

「…っ!?」

宴会がざわめく。そのはず、アヒサの花の根は漢方として使われてはいるが毒などないからだ。

「アヒサの花に球根があるのは皆ご存じのはず。けれどあの球根には即効性の毒があるのです!飲んだ後直ぐに痙攣を起こし、やがて死に至るほどの猛毒が。あらかた粉状にしてお酒に混ぜられていたのでしょう。」

「そんな…そんな事…。」

その時、王妃が呼んだ専属の医者が息を荒げて

入ってきた。

「陛下っ!?」

「すぐに手当を!まだ間に合うかもしれない!

急げっ!」衝撃で動けない王妃の代わりに

ルアの女が指示を出す。もう殆ど息をしていない

王を抱えて医者は寝殿へと向かった。


「毒殺…だなんて…ああ陛下…っ!」

王妃はとうとう泣き崩れてしまった。

すると不意にルアの女が王妃にニィと笑う。


「お妃様…お芝居はおやめ下さい。」


「ーッ‼︎?」

「お芝居だと?ふざけるな!何を言って…。」

ルアの女は王妃にゆっくり近づいていく。

「それが、お芝居だと申し上げているのです。」


「お妃様が…陛下を毒殺したのでは?」


女の言葉を王妃の耳は俄かに受け入れられなかったらしい。瞬きを忘れ固まっている王妃に

女は更に距離を縮める。

「アヒサの花は人の手で大事に育てないと芽を出すことはない貴重な花です。そこら辺に勝手に

生成している…なんて事、あるはずがない。」

「…何が言いたい?」

女の顔はまた笑顔に歪む。


「お妃様は確か…ご自分の寝殿で花を育ててらしたはず。そうですよね?」

宴会が再度ざわめく。

「まあそうだが…何か問題でも………あ。」


「その花の中にアヒサの花がありますよね?」


「ーッ‼︎」


宴会のざわめきが頂点に達した。

と同時に皆が刺すような目線で王妃を捉える。


「…確かにっ!確かにあるにはあるっ!が!」

突然王妃が声を荒げる。


宴会場の外では雨が降り始めた。

部屋の中が薄暗くなる。


「だからといって私が犯人とは…随分好き勝手

言ってくれるな…?無礼にも程があるぞ…。」

女は獣のような目で残りの距離を一歩でゼロにした。


「私はお妃様が犯人とは一言もおっしゃってませんが………?」


強風が吹いて部屋の蝋燭が消えてしまった。

雨が強くなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜明けの国のヨハル COCO NE @cocoto1228

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ