後編 トウヤ、ヒミツのお仕事は……。
トウヤはキリコさんのアパートがタダになり、家の手伝いをした。
「トウヤ、お風呂を洗っておくれ」
「トウヤ、大根きっておくれ」
「トウヤ、買い物に行っておくれ」
「トウヤ、看板を直しておくれ」
一か月たった頃、
「トウヤ、そろそろヒミツのお仕事に行ってくれないかしら」
「え?」
「ヒミツのお仕事を見事成し遂げるとトウヤにも力がそなわるかもよ……。ふふ。」
意味ありげに笑うキリコさん。
あいかわらず鬼に
だけど、平和な毎日を送っていたら、そんな思いが薄れてしまっていた。いったい何のために家出したんだろう。体中にあるおびただしい傷が少しずつ癒えていた。
「じゃあ、これを、今から教える場所にばら撒いたら、あなたの願いが叶います」
キリコは不気味な笑みを浮かべ、トウヤに大きな白い布袋を渡した。
(……ってことは、やはり悪鬼神なんだ、キリコさんって)
トキノ荘のアパートを出る。盛り塩を用水路に流した。電車を乗り継ぎしばらく歩くと一本気ヒルズの十二月二十四日の
(よし、これが終われば、もうボクは何も考えないで悪鬼神になるんだ‼)
LEDの光る噴水ツリーに近づき、ピアノ演奏の終わるころ、大きな白い袋に入ったものをビル側の大階段から噴水を見下ろし、思いっきりバラまいた。
「キャー!!」
ふわふわふわ……。
「キャー見てみて! 雪こんぺいとうだ」
(え……? 雪こんぺいとうだって??)
ひとつひとつ袋に入ったこんぺいとうが、大きな雪玉の上に乗って、ふわふわとゆっくりと舞い降りた――。
恋人たち、家族づれや子どもたちの手のひらに雪玉がとけて、こんぺいとうがちょこんと乗る。
「わーうれしい」
「あれー? 雪もふってきたよ」
「こんな奇跡の夜があるんだ」
「ありがとう! 雪の精さん」
歌っていたのはさまざまな理由で親と離れて施設に暮らす子どもたちだった。空を見上げると、細かい雪が風に舞いダイヤモンドダストのようにキラキラ煌めく。
(ボクは……)
「ああ! よかった。やっと見つけた。トウヤくん」
路地さんが心配そうに声をかけてきた。
「君のお世話になる施設が決まったから、引っ越そう」
人々の笑い声、優しい空気に包まれその余韻が耳にのこった。トウヤは
トキノ荘に着いたとき、トウヤは思い切って告白した。
「路地さん、実はボク……義父に暴力を―。クラスの奴らからも……。助けてって誰にも言えなくて……。ボクは、ボクは―—。」
トウヤは胸が苦しくなり、涙が零れ、それ以上話せなかった。路地はやさしくトウヤの背中に触れた。
「トウヤくん。勇気をだして言えたね。もう大丈夫だよ」
「はい。でも……ボクはずっとみんなに疎まれていたのに、今日はじめて、みんなに喜ばれたんだ……。それがうれしくて……うぅ……うわぁぁーん」
雪の降る夜、生まれたての赤ちゃんのように泣いた。
***
トウヤが児童福祉施設に移ってからも路地がときどき会いに来た。
その後、ボクは施設から高校や大学に行かせてもらい、友だちもできて、社会人になり、一人暮らしをしている。今までにないほど穏やかな生活を手に入れたんだ。路地さんからキリコさんはあいかわらず元気だと聞いた。
今年もキリコさんに代わって、施設の子どもたちに大きな白い袋を持って噴水の上から雪こんぺいとうを降らせる。なんでも龍神さまがこんぺいとうを好きだから喜んで雪を降らせるんだそうだ。
ひとつ気になることがあった。仲介鬼のことだ、てっきり悪鬼神はキリコさんだと思ったら違った。路地さんは、ふふ、と笑ってつぶやいた。
「悪鬼神の手下いえど、律儀だから今も待っていたりしてね」
「まさか……」
***
「くしゅん! あいつおっせーな、まだこないや」
おしまい
――――――――――――――――――――――――
和風ファンタジーなのにクリスマスバージョンのキリコさんを書いてみました。(*^-^*) ここは日ノ国ですから、日本と一緒でいろんな神さまがいるって設定です。特に大きな山場はないですが、ほっこりしてもらえたらいいな~♡ヾ(≧▽≦)ノ 🎄Merry Christmas🎄🌟
大家キリコの秘密の依頼 青木桃子@めまいでヨムヨム少なめ @etsuko15
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