前編 トウヤ、大家のキリコさんと出会う
ボクはもう人生に失望した、世の中に復讐するのだ。ボクが圧倒的な力を手に入れたらボクをバカにしてきたみんなはどう思うだろうか、ざまあみろ! もうすぐ悪鬼神と契約するんだ。そうしたらこの世を何もかも破壊してやる……!
十五歳のトウヤは鬼に呼ばれ、田舎からお年玉で貯めたお金を握りしめ都会にやってきた。駅を降り
数日前から鬼とSNSで何回かやりとりをして、ボクの命を差し出せば、悪鬼神になれるというので、仲介鬼と銭草寺で会うことになっていた。
空を見上げると小雨がぱらついた。気がつくと目の前にモデルのような背の高い女性が立っていた。
(田舎にはいないキレイな女性だな……本当に鬼なのか?)
「こんにちは、小路と申します。ええっと……」
「林……トウヤです」
ドキドキしながら名前を言った。
「ご契約者ですね? こちらにどうぞ」
古い雑居ビルにある
ガラガラガラ……。建付けの悪い扉を開けると、中年で小太りの男がにこやかに対応してくれた。
「わたしは
「え、ボクは……はい」
(違う――。悪鬼と契約に来た、なんてふつうの人間に言えない。誰かと勘違いしているがこのままでいいや)
ボクが黙っていると路地さんが話しかけてきた。
「家出なんてよっぽどだから、しばらく施設に身を隠してもいいぞ」
「……はい。お願いします」
ポケットに入った携帯を指で操作して無料トークアプリ画面を見た。
(落ち着いたら鬼に
路地の社用車に乗り込み、その施設に案内してもらうことになった。シートベルトを締め、車を走らせる。その間に鬼にLIMEで「遅れる」と、送信しようとしても圏外なのか送れなかった。
「名前を聞いてもいいかな」
ふいに路地に声をかけられた。
「林トウヤです」
「どうしてトウヤかな」
「……寒い冬の雪の夜に生まれたから」
「素敵な名前だね」
古い街並み、迷路のような道を通りすぎ、やってきたのは森に入る一歩手前にある、木や植物が鬱蒼と茂る中にアパートが建っていた。玄関前には盛り塩と人型の石が置かれている。古い看板が玄関脇に立てかけてあって、「トキノ荘」と読めた。
コンコンコン
「はーい。開いているわよ」
ガラガラガラ……。
建付けの悪い扉を開けると、コタツの中からひょっこり現れた白髪の年配の女の人が大家さんだった。
「こんにちは、縁戸津不動産の路次です。ちょっと訳ありで、この子、林トウヤくんを施設入れる手続きが整う少しの間だけ大家さんのアパートにおいてやってくれないかな?」
路地はトウヤを紹介する。大家さんはメガネをかけてトウヤを見た。
「あら、かわいい男の子ねぇ! わたくしは
「ああよかった」
「ただし条件があるわ」
「なんですか?」
「ええ、五階建てのアパート、五階の家賃は十五万円、
四階は週一回、アパート周りの掃除をすれば十万円、
三階は週二のゴミ置き場の掃除してくれたら五万円、
二階は毎日二回、犬の散歩をしてくれたら三万円、
一階はときどき、ヒミツのお仕事を引き受けたら一万円です」
「キリコさん、訳あり家出少年に家賃をとるんですか?」
「働かざるもの食うべからず、よ。そうね、ヒミツのお仕事と、わたくしのお手伝いを毎日、引き受けてくれたら食事つきで、家賃はタダにしてあげてもいいな~」
「ボク、ヒミツのお仕事にします」
「ふふ。そうこなくっちゃね」
こうして、キリコさんのアパートにお世話になるのだった。
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