第4話 不思議な自殺
2月16日 木曜日 曇り
事件名 「自殺?」
「Mさん!待ってくださいよ。」
「君は若いんだから、もっと頑張りなさいよ。」
今俺たちは走っている。なぜかって?それはいま、ひったくり犯を追いかけているからだ。こうなった訳を話そう。
ー今から30分前ー
「Mさん。Mさんってば。」
「なんだい。加籃君。」
「またあのカフェ行くんですか?昨日だかに事件起きたばっかじゃないですか。」
「だってあそこのタルトおいしかったんだもん。」
そういいながら嬉しそうに例のカフェへ向かっていたんだが、
「なんですかあなた、ちょっとやめて。だれかーー」
振り向いた先には50歳くらいの女性がひったくりにあっていた。
「加籃君、追うよ。」
「は、はい?」
それで今に至るわけだ。敵に囲まれたときにMさんの運動神経。その良さがあったとしても、追いつけていないのだ。そして、Mさんを追いかけている途中に強い衝撃が肩に走った。
「すみません!」
そう謝った時に目の前にいたのはボロボロになった作業服を着た人だった。その人は会釈をして反対方向へと歩いて行った。そして気づいたときにはMさんはもう見えないところまで行ってしまった。ようやくの思いでMさんに追いついたら、もう犯人は捕まっていた。
「何やってたの、加籃君。遅すぎるよ。」
いや、あんたが速すぎんだよ。そうやって言おうと思ったが、その言葉を飲み込んだ。
その犯人をその地域を担当する交番の警察官に引き渡した。カフェに戻る途中にたくさんのパトカーが集まっていくのが見えた。何か不穏な雰囲気が漂った。人が死んだのだ。直感で思った途端、Mさんは言った。
「加籃君、カフェはいったん後にしよう。」
「それって、、、」
「そう、向かうのさ。事件現場に。」
さぁ事件現場に到着した。そして俺たちは、今回は殺人ではない可能性があることを知った。
「殺人じゃないってつまり、、、」
「あぁ、加籃君が思ってる通り自殺だよ。」
そう答えたのは煙草をくわえた亜蝶さんだった。
「白詰さん、ご遺体は何処にあったんですか?」
Mさんが聞いたとき、少し亜蝶さんは顔を曇らせた。
「それがまたおかしなところでな、下水の入り口。マンホールの下だよ。」
今からわかりやすく、自殺現場の情報を残す。
・死因は総頚動脈の圧迫による窒息死
・自殺方法は首吊り
・マンホールが網目状のため、そこに縄を通した模様。
・死後から少し時間がたっているためか、首が少し腐敗し蛆が沸いている。
でも少し気になることがあった。
「自殺なのになんでこんなに警察関係者が来てるんですか?」
「どうにも自殺に思えなくてな。俺の刑事の勘が、そう言ってんだよ。」
そう言うと白詰さんは煙草を咥えた。
そして煙を吐きながら続けた。
「考えてみろ。マンホールの蓋から下水道までは、少しだけ距離がある。もし、一回下水に降りて、梯子を登り首を括ったとすると、服に汚れがあるはずだ。それなのに、新品かのように服は汚れてない。それにまだ、遺書のようなものも見つかってないし、、、。なぁMさんよぉ、手伝ってくれないか?真相を、真実を知りたいんだ。」
「あはは。おかしなことを言うね。白詰さんならどうってことないでしょ。何個も事件を解決してるじゃないですか。」
「それは、あの人のおかげでもあるからな。」
白詰さんは、何かを隠しているようにも思えた。
「しょうがないですね。でも今回は少し時間をもらいますよ。少しだけ、嫌な予感がするんです。」
白詰さんはまだ現場検証があるからと、ここに残るらしい。そして俺たちは、もともと行く予定だったカフェへ向かった。
「Mさん。今回は、時間がかかりそうって、どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。警察のほとんどが自殺だと思っているよね。でも、白詰さんも言っている通り、これは自殺に見せかけた殺人だよ。じゃあそう思った理由だけ。まとめ上げよう。」
・遺書が見つかっていない
・わざわざマンホールの下を選んだ
・首に蛆が沸いている。
・マンホールの蓋のまわり、地面が傷ついていない
「どうせ加籃君は理解していないだろから、詳しく説明してあげるよ。」
なんか、鼻につく。でも言ってる事間違ってないんだよな。
「お願いします!Mさん。」
「初めに目を付けたのは、遺書がないということだよ。自殺するなら、普通は遺書を残す。未練があったり、自分のことを覚えていてほしかったりするからね。」
「でもそれh」
「そう。それだけではこの事件を殺人というには、ほど遠いよね。」
話そうと思ったのに、さえぎれられた。この人はこのモードになると、止まらなくなるのかな?俺はそのまま話を聞き続けた。
「次に行くよ。わざわざマンホールの下を選んだことだよね。加籃君。何かおかしいと思わない?」
「何か、、、。マンホールっていう点がまずおかしいと思うのですが?」
「そう。そこなんだよ。自殺してしまう人って、だいたい見つかりやすいとこで死んでしまうことが多い。富士の樹海とかが、いい例だと思うよ。」
「富士の樹海?」
「そう。樹海で自殺してしまう人っていうのは、道路や道沿いで発見されることが多いんだよ。見つけて欲しいって言う気持ちが残る場合もあるからね。」
実際の話だ。全ての人に当てはまるわけではない。しかし、この世を嫌い、信用する人もいなくなり、生きる価値をなくしてしまった人でも、怖いと言う気持ちがあるのかもしれない。
「そして、首に蛆が沸いていることだ。」
「何かおかしいのですか?この方はなくなってますし、こんなに汚いとこですから、蛆が沸くのは当たり前なんじゃないんですか?」
「加籃君。蛆の発症条件は知ってるかい?」
「いや、知らないですけど。死体を放置すれば発生するんじゃないですか?」
「いいや、少しだけ違う。」
Mさんは少し微笑みながら答えた。
「確かに蛆は死体にわく。でもね、それは親バエが腐敗臭に気づき卵を産むことで、発生する。でもこのご遺体を見てみて。」
言われた通り遺体を見た。首には蛆がわいて、痛々しかった。でもおかしな点があった。腐敗臭がした?。でも、粘膜がある眼や、首以外に皮膚には蛆が沸いていなかった。少し前まで生きていたかのようにきれいな状態だった。
「何かがおかしいですね。」
「そうだよ。加籃君。この仏さんの首は腐り落ちてなんかいない。白詰さん、少し触るよ。」
「おい、ちょっと待て!えm」
またまた、人の話を聞かずに仏様の首をピンセットでつまんだ。
「これが答えだよ。加籃君、白詰さん。」
そういうと、首の腐りかけていたところがはがれた。
「どういうことだ、M。俺たちはこんなことに騙されていたってことかよ。」
「そういうことになりますね。かなり高度なメイクのようにも思えます。おそらく、腐った肉などを使い警察を出し抜こうとしていたのでしょう。」
ここで、分かったことがあった。マンホールの下を選んだ理由だ。Mさんの推理から行くと、この遺体は死後からそこまで経っていないことは分かる。そして、腐敗の匂いを誤魔化そうとしたのではないか?まるで、犯人は、遺体がすぐに見つかることを知っていたかのように。
「加籃君は分かってきたみたいだね。白詰さん。ここらへんで、下水道整備をしている場所を特定しておいてください。」
「おぅ。いいけどよ、何に使うんだ?」
「それは、事件解決の際に。」
そして俺たちは、本来行くはずだったカフェに到着した。
「そういえばMさん。最後の地面に傷がついていないことが、何故自殺ではないと言い切れたんですか?」
「少し、想像が必要だけどついてこれるかい?」
「頑張ってみます。」
Mさんが言うことをまとめると以下の通りだった。
・他のマンホールから入り、ここまで来て首を吊った場合
→地面に傷がつくわけがない。しかし、衣服は汚れていない。下水を歩いたとするなら、少なくともズボンが汚れるはず。しかし、汚れていないためこれはあり得ない。
・マンホールの蓋に縄をくくり、それをマンホールの穴から落ちると同時に、マンホールの蓋が閉じるように設置した場合。
→現場で首を吊った場合である。マンホールの蓋を穴から離れた位置に、縄をくくりつけたまま設置する。その縄のもう片方に首をくくり、穴に落ちれば、下に行く力と共にマンホールの蓋も移動し、何もなかったかのように元に戻る。しかし、この場合だと地面には必ず、引きずったような傷ができるはずだが、できていないからこれもあり得ない。それに加え、あまり現実的ではない。
このようなパターンを瞬時に見出し、判断する。改めてMさんのすごさに圧巻された。タルトをおいしそうにほおばるMさんを見ながら、思った。この人は初めからこのような推理力を持っていたのか。以前の襲撃の対応などを見てもただ者ではないと感じてきた。何か秘密がありそうだ。そう感じながら、俺も、タルトをほおばった。その時、着信が鳴った。白詰さんからだ。
「白詰さん、見つかりました?」
「あぁ。ちょうど現場から1kmほど離れた位置で、点検が行われているみたいだ。」
「ありがとうございます。それじゃぁ解決に行きますか。白詰さん。その点検が行われているところまで来てください。加籃君も行くよ。」
全く理解が追い付かないまま、店を出た。
集合場所まで行くと、点検がひと段落ついたのか、職人みたいな恰好した人たちが 休憩していた。そしてMさんは俺たちにミッションを与えた。それは《一般人のふりをして》現場に工具があったことをほのめかす、だった。いわれた通りにやってみた。
「知ってます?白詰さん。ここから少し離れたところで自殺があったみたいですよ。」
「あぁ。聞いたよ。結構、死んでから時間がたってたみたいだぜ。」(棒読み)
「それに、警察は証拠品として工具を押収したらしいですよ。」
「そうなのか。それは知らなかった。」
そう話していた時に、見覚えのある男がおもむろに工具を集めているところをあさっていた。こわばった顔をして。すると、追い打ちをかけるかのようにMさんが話しかけた。
「どうしたんですか。お兄さん。工具でもなくしました?」
「急になんですかあなた。ただ、休憩明けの準備をしようとしていただけですよ。」
ふと視線を逸らし答えた。
「嘘だね。視線が右上を見ている。今、言い訳を考えてましたよね。落としたはずがないを工具を確認してしまったから。だってあなた、数時間前に現場までの道ですれ違いましたよね。」
思い出した。ひったくり犯を追いかけている時にぶつかった人だ。確かに、現場方面から来ていたかのようにも思えた。
「何のことですか。多くの人とすれ違っているんです。勘違いでは。それに私はずっとここにいましたよ。」
「本当に知らないですか?ある死体について。」
Mさんはなぜかある死体といった。その言葉に作業員の男は答えた。
「知らないですよ。怪奇死体のことなんて。」
そう答えた。
その瞬間に、Mさんはまた胸のあたりを握り、笑っていた。
「なぜ、怪奇死体であることを知っているのですか?」
「はい?」
「私たちは、死体しか言ってません。なぜ、死体が奇妙な死に方をしていると知っているのですか?」
「それは...。そうだ、工具を押収したといったじゃないですか。」
「それなら、考えられるのは撲殺ですよね。どこが怪奇なんですか?」
俺はMさんが何を言いたいのかを理解できた。
この男は知っているのだ。
死体がマンホールの下で見つかっていることを。
Mさんはさらに追い詰めた。
「あなた実は知っているのではないのですか。死体が、マンホールの下で首をくくっていたことを。工具が見つかったと聞いて、あなたは確認していた。何を?それは、
マンホールオープナーですね。」
男は半ばあきらめた顔をしていた。
「あんた達、この世をどう思う?正常に見えるか?いいや、狂っている。ある人が教えてくれたんだ。この世を変える方法を。俺は正しいことをした。何も間違っていない。」
「なんだこいつ。あっさりと認めやがった。」
白詰さんがそういったときに、めずらしくMさんの雰囲気が変わったことに気づいた。
「殺したことが正しい?」
その言葉には、怒りがあった。
「殺したことを正当化するなよ。お前がしたことは殺人だ。人の命を奪ったんだ。傷つけることがこの世を変えるだ?お前には何も変えられない。この世を変えるには、助け合うことだ。人を救うことだ。二度と犠牲が必要だなんて考えるな。」
Mさんは珍しく取り乱していた。何に反応したのか、人を殺したことではないと思うが、何かわけがありそうだった。
男は罪を認めた。
殺した理由は、殺された女が多くの男をだましていたからだそうだ。そしてある男にそそのかされて犯行に及んだらしい。その男の名前は知らないらしいが甘い香りがしたらしい。
気持ちが落ち着いてきたMさんに質問をした。
「どうしたんですか?あんなに取り乱して。」
「ちょっと腹が立っただけだよ。加籃君、暴力をなくすには暴力じゃないとだめだと思う?」
何を聞かれているのかわからなかった。
「私はそうじゃないと思うんだ。何か別の方法があると思う。それはまだわからないけど。人を救うことで分かるんじゃないかなって。」
「Mさんはなんで人を救うことにこだわっているのですか?」
「昔ある人に言われてね。」
「その人って...」
「それはまた今度教えてあげる。」
茶化されて終わったが、どこか悲しそうな顔だった。
まだ、姉貴の情報は集まらない。
今頃何をしているのか。それを知るためには、狐の剃刀について調べなくてはならない。この日誌もいつか役に立つと思う。それまでは俺が管理することになった。絶対にお前たちの秘密を暴いて、姉貴を救ってみせる。
福寿 加籃
俺たちがカフェに行っていた頃
ドアが開く音がした。
階段を下りる音。
私が顔を上げたとき目の前には女の子がいた。
「ねぇ、あなたがMを名乗っている偽物?」
その雰囲気から気づいた。
お前には似ていないほどかわいらしい子だ。
森 櫻
ー福寿 綾梅の処刑まで
あと41日ー
ラム酒と彼岸花と探偵と UNKNOWN @NONEXISTENCE_unknown
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