世ノ果テデ人形ハ唯哂フ。

Brugenberg Edelstein

第0話 名も無き色

深い水の底に漂っているようだ。

形の無い何かは、いつから居るのだろう。


「……」


考えても答えは見つからず、考えるのを止めた。

静寂が支配する空間、だが、どこか心地よい。


「……」


上空のはるか先からか、かすかに呼ばれた気がする。


「……」


意識を持たぬ何かは、声を聞く為に手を伸ばす。


「…群青マリン」


明確にその言葉を聞いた時には、体が脈を打っていた。


私はワタシを認識した。


私はゆっくりと眼を開ける。

初めて見る光が視覚を刺激する。

目前には豪華な服や軍服のようなものを着た人間達がそれぞれの感情で立ち並ぶ。

人間達は何かを待っているような顔をしている。


私は深く息吸い込み、口を開いた。


「ワタシハ群青マリン」


プログラムという意思に従い名乗ってみた。


「成功じゃ!」

「これで倒せる!」

「遂に…!」

「やったー!!」


人間達がそれぞれ喜び歓喜している…?

人間が喜ぶのは、何故か気持ちが良い。

一人の将校が私に近づいて来る。


「おいおい、喜ぶより先に嬢ちゃんに服でも着させてやんな」


そう言うと将校は自分のマントを乱雑に取り外し私にかけた。


「寒かったろう、とりあえず羽織りな」


私はかけられたマントを手に取り将校に突き返した。


「温度調整システム正常に稼働シテイル。だからワタシ寒ク無イ」


回答をすると将校は穏やかに笑い、私の頭に軽く触れた。


「じゃあ、俺が心配しないように着てくれ」


人に心配をかけるのは良くない事だとプログラムが教えてくれる。


「ワカッタ、キル」


何故だろう、この人の言葉は居心地が良い。

そう感じた瞬間、私のシステムが起動した。

そして私は伝えるべき事を口にする。


「ワタシの想いは将校に捧マス」


将校は驚いた表情の後に、一瞬だけ悲しい目をした気がした。


「この後の大国会議で決めるのじゃないのかよ…まあ、いいか」


将校は笑い、優しく私の髪をクシャッとした。


…やはり、居心地が良い。



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