第58話 チーム練習5


黒崎美久はこの一騎打ちで必ず裕太の真の実力を暴き出してやると意気込んでいた。


この放課後のチーム練習を彼女が提案したのは、もちろん雨宮裕太の本当の実力を知るためだった。


入学試験の時……裕太と試験用モンスター、オーガとの戦いではあまりに一方的な戦いだったために、裕太の本当の実力は計れなかった。


ゆえに今日、黒崎は裕太と一騎打ちで戦い、その実力を炙り出そうと目論んでいた。


(流石にスキルありの文字通りの全力勝負はできないわね……互いにリスクがありすぎる…)


下手したら死人が出るスキル有りの全力勝負は黒崎も躊躇した。


やってみたくもあったが、もしかしたら自分か裕太のどちらかが死ぬかも知れない。


それならばスキル無しの勝負の方がいい。


スキル無しの勝負なら純粋なレベルやステータスの勝負となる。


黒崎は、自分と裕太でどちらの方がステータスが上か、この勝負で確かめられると思っていた。


(早乙女さんは……まぁ倒せるでしょうね)


一応このチーム練習の建前は、お互いの実力を知ることだ。


だから早乙女とも勝負しておく必要があった。


黒崎はまず最初に早乙女との勝負を提案し、勝った方が裕太と勝負するということで早乙女を納得させた。


そして予想通り、全く自分の動きについてこれなかった早乙女を瞬殺し……いよいよ裕太と勝負をすることになった。


「いつでも来ていいよ」


「…あなたこそ、いつでも来ていいわよ」


いざ裕太と会いたいした黒崎は、今までに感じたことのない緊張を覚えていた。


実力が測れない。


これまで他の探索者との一騎打ちは何度か経験がある。


黒崎はそれらの戦いにおいて一度も負けたことがなかったし、大体こうして対峙した時点である程度相手の力も把握することができた。


だが今回ばかりは例外だった。


裕太の実力を測れない。


ひょっとすると自分を上回っているかも知れない。


(ふふ…雨宮裕太。やっぱりあなたは私のライバルに相応しい)


「僕がやると一瞬で終わっちゃうけど、いいの?」


「…そうはならないと思うわよ?けど、こうして睨み合っていてもしょうがないし、じゃあ、私から行かせてもらうわよ」


余裕綽々の裕太。


その余裕は、有馬商会の御曹司、有馬勝太との勝負の時に見せた余裕とさほど変わらないように見える。


だが、ないしんは向こうも緊張しているはずだ。


何せ今回はこの私、黒崎美久が相手なのだから。


「行くわよ、雨宮裕太!」


黒崎は地面を蹴って裕太に接近する。


まずは半分程度の実力で出方を見る。


そう思い、それなりの速さの拳を裕太の顔面に向かって繰り出した。


パシッ!


「…!?」


黒崎の拳はあっさりと受け止められた。


黒崎は驚愕に目を見開く。


裕太は、黒崎の拳を全く避けようとしなかった。


必要最小限の動きで、正確に、的確に拳をキャッチしたのだ。


「…それならこれはどう!?」


拳を引いた黒崎は、八割程度の力……全力にかなり近い速度で蹴りや拳を同時に繰り出す。


「全然かな」


そんな呟きと共に、裕太は黒崎の攻撃を最小限の動きで交わす。


(冗談でしょ!?私の攻撃をそんなに簡単に…!?)

ほとんど全力の自分の攻撃。


Sランクモンスターにだって通用するはずだ。


それを……裕太はあっさりと回避している。


(まさか私と雨宮くんに圧倒的なステータスの差が…?)


一瞬そんな想像が脳裏をよぎる。


(いえ、あり得ない……私はこれまで誰よりも努力してきた……そんな私を子供扱いなんて……絶対に許さない…!)


だが、そのことを認めるのはプライドが許さなかった。


「…絶対にあなたを倒す」


「…いいよ。かかってきなよ」


未だ余裕のある雨宮裕太に、黒崎は突進していく。


もう出し惜しみなしだ。


100%の力を使って、黒崎は裕太に向かっていくのだった。

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僕の部屋の押入れがダンジョンに繋がっていた件〜僕だけの『亜空間ダンジョン』でレベリングし、世界最強へと至る〜僕をいじめていた奴らは後悔してももう遅い〜 taki @taki210

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