最終話 転生仙境記《てんせいせんきょうき》

金白仙こんびゃくせん

 霊棺仙れいかんせんの気を感じないのですが......」


 そう僕が聞く。 


「ああ、死んだ......」


 金白仙こんびゃくせんは黒ずみの姿を見ながらそういった


「それでは冥影仙めいえいせんは......」 


「たぶん霊棺仙れいかんせんに殺されたのだろう」


 打ち捨てられた遺体をみていう。


「だが、なぜ白陰仙はくいんせんを封印など」


 灰混仙かいこんせんの問いにうなづいて答える。


「あの方は、何か得たいの知れない存在となっていた。

 もはや、人とは違う何か......

 無論、霊獣仙人とて人とは異なるが、心がある。

 しかし、あの人は何かそういうものとは異なる何か......

 そういうものとなっていった」


「それで、僕に仙人などなるべきではないと......」


「......うむ、人のごうは元来生まれ持ったものだ。 

 それを律することは間違いではないが、捨て去るなど、

 どだい無理な話、心をなくせというに等しい......

 仙人が目指すべき、

 真人しんじんなどにはなれはしないのだ」


「なるほど......」


 僕は違和感を感じ、周囲を見渡す。


「どうした三咲みさき......」


「ない金白仙こんびゃくせん

 霊棺仙れいかんせんの体がなくなっている!?」


「なに!?まさか!!」


 僕たちが探すと扉の前に影ができ、

 そこから黒ずみとなった霊棺仙れいかんせんがでてきた。


「なっ!死んでいたのに!」 


 僕たちが近づく。


「ふっふっふ......」


 そう焼けただれたかすれた声で笑う。

 そして扉を手に持った万象刀ばんしょうとうで、

 切り裂いた。その瞬間、衝撃が放たれ僕たちは飛ばされる。


「......まさか、死んだ自分の体を操ったのか......」


 金白仙こんびゃくせんが呆然とそう呟く。


 すると巨大な扉がゆっくり開いた。その中から光に包まれた、

 男とも女ともわからない容貌の白い衣を着た人物が現れる。


「あれが......白陰仙はくいんせんか......」


「なんだあれは人や仙人じゃない......もはや太陽のようだ......」


 その強大な気に僕たちは呆然と動けずにいた。


「ああ......白陰仙はくいんせんさま......」


 黒ずみとなった霊棺仙れいかんせんはそう涙している。

 白陰仙はくいんせんそちらを見ずに歩いてくる。


 金白仙こんびゃくせんは、たちあがり杓を構える。

 僕たちも構えた。


白陰仙はくいんせん扉の中にお戻りください......」


 そういう金白仙こんびゃくせんの声は震えている。


「......なぜだ。私は人々や、

 この世界に心あるものを救おうとしている......」 


「......どう救われるのですか......」


 僕は圧迫感で意識を失いそうになりながらも、

 勇気を振り絞り質問する。


「人や心あるものはそのごうにて、

 愛し、苦しみ、悲しみ、怒り、間違い、葛藤し、奪い、殺す。

 そのごうなきものたちを生み出す。

 それが真なる救済......」


「そんなことはできない......」


 そう金白仙こんびゃくせんはふらつきながら答える。


「できる......私ならば......

 わかっていよう金靂仙こんれきせん


白陰仙はくいんせんさま......」


 白陰仙はくいんせんは、

 はいよる霊棺仙れいかんせんに腕を降ると、

 霊棺仙れいかんせんはチリになって消えた。


「このように愛などというごうにすがるゆえに、

 愚かなことをするのだ......」


 僕は沸き上がる怒りをおさえ聞いた。


「......どうやってそれを実現するのですか」


「この世界の全ての気を集め、また再生させる......

 そして今度こそ、

 全ての心あるものを真人しんじんにする」


「......なるほど、金白仙こんびゃくせんが封印するはずだ......

 結局今のものたちを滅ぼすってことだろう」


 灰混仙かいこんせんが吐き捨てるようにいった。


「解釈の相違だ......この世界、人間界を含め、

 心あるゆえに苦しむ。

 皆この苦痛より逃れるために、生きるのだろう。

 なればそれを無くすのが力あるものの究極の責務だ......」


「確かに辛い苦痛より逃れたいのは皆同じ......

 でも心がなくなったら、だれも生きていく意味もなくなる」


 僕がそういうが、こちらにみているその目は、

 僕たちが見えないかのように冷たい。


「意味など要らぬ......ただ幸福に生きていけばよい」


ごうなき者は幸福もわからない。

 それは生きてはいない。

 そこに在るだけ、そこにはいない......

 僕は昇天してそれを知った......

 出会った者たちはそれぞれ、傷つきながら、

 一生懸命生きていた。そこに意味はあった......」 


「子供の戯れ言だ......」


「そうだ戯れ言だ!でもそれでいい!

 僕にとってはそれが真理だ!」


 僕は懐から水如杖すいにょじょうを気でのばし、

 白陰仙はくいんせんをついた。


「無駄だ......」


 手を前に出すだけで、

 僕の気ごと水如杖すいにょじょうは砕けちった。

 

僥儀ぎょうぎさんの泥だんご使います!!)


 その時、先につけた泥がはじけ、

 一瞬、白陰仙はくいんせんを包む。


「こんなことをしてなにになる、もはや諦めよ......」


「諦めぬ!」


 白陰仙はくいんせんが泥に気を取られた一瞬、

 僕の横から、万象刀ばんしょうとうを持った、

 灰混仙かいこんせんが切りかかる。


万象刀ばんしょうとう......視界を奪い、

 水如杖すいにょじょうで拾ってきておったか......

 だが、かわせばよいだけ......」


「いいや.....あなたはごうも何もないのだろう!

 だから自身の命さえも軽い!桃理とうり!!!」


「わかってるわよ三咲みさき!!象異しょうい!!」


「なに......」


 桃理とうり象異しょういで、

 灰混仙かいこんせん万象刀ばんしょうとうが、

 大きくなり、白陰仙はくいんせんはその下に姿を消した。


  

 僕は久しぶりに公尚こうしょうさんの家に来ていた。

 目の前の籠に赤ちゃんが寝ている。


「ほら、指を握っています!かわいいでしょう!」


 そう赤ん坊に指を握られ、

 満面の笑みの公尚こうしょうさんがいう。


 この子は三咲みさき

 公尚こうしょうさんが名付けたと、

 妻の宋清そうせいさんにいわれ照れ臭かった。

 

 あの戦いのあと白陰仙はくいんせんは、

 再び扉の奥へと封印され、

 玄陽仙げんようせんの復活を信じたものたちも、

 事実を知り、失望のうちに去っていったという。


「違うから!わたしがさらわれたのはわざとだから!

 ずっとあいつらの隙を狙ってただけだから!」


 そう桃理とうりがひとしきり騒いでいたが、

 桃理とうり灰混仙かいこんせんから全てを聞き、

 静かにうなづいていたのが印象的だった。


「俺はもうだらける......あとは未麗仙みれいせん頼む」


 そういって酒をのみながら、

 金白仙こんびゃくせんは帰り、

 碧玉へきぎょくは泣きながら、

 未麗仙みれいせん先生に連れていかれた。


 こう蒼花仙そうかせんは、

 燎向りょうこうへと帰り、国作りを手伝うという。


 龍漿仙りゅうしょうせんは、

 封戒玉ふうかいぎょくを取り戻し満足して帰った。

 命炎仙みょうえんせんは、

 桃理とうり灰混仙かいこんせんと共に、

 世鳳せおうの復興を手伝うらしい。


「それで三咲みさきさまは、このあとどうなさいますか?

 せっかくこられたのです。ここにいられてはいかがですか?」


 宋清そうせいさんにそう聞かれる。


「そうですね......少しいさせていただいて、

 ゆっくりと今まで旅した所へいってみます」


陸依りくい先生たちにも会いたいし、

 今まであった人たちも、みて見たいから)


「ふふっ、それは嬉しいです。

 それで仙人になった意味はお分かりになりましたか」


 公尚こうしょうさんから聞かれ僕はうなづく。


「ええ、分からないことが分かりました」


 そう僕は笑顔で答えた。

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転生仙境記《てんせいせんきょうき》 @hajimari

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