第12話

「これからも後宮ここに残ってくれると、そう思っていいのか?」

「うん。だって私も一応、後宮妃よ。まだまだ未熟だし至らないところもあるけど、誰もいなくなって令賢れいけんが寂しい思いをするのは可哀そうだもの」

「可哀そう、か。やっと言ってくれたね?」


 令賢れいけんの言った意味が分からず、私は彼に抱きついたまま顔を見上げた。ポカンと口を開ける私を見て、令賢れいけんはクスクスと笑う。


「翠蘭は、なものが好きなんだろうと思ってね」

「どうして? 蝉のことを可哀そうだと言ったから?」

「蝉だけじゃない。後宮を出る妃たちのことも可哀そうだと言って心を痛めていた。俺も可哀そうな目に合えば、少しは俺のことも見てくれるんじゃないかと思って」

「……! それで、いつも私にわざわざ妃たちにフラれた話をしに来ていたの?」


 令賢れいけんに女心を教えてあげるなんて言ったけれど、よっぽど男心の方が厄介だ。可哀そうだと思われて私の気を引きたいために、どれだけ手の込んだことをするのだろう、この男は。


 開いた口がふさがらないまま、私は令賢の両手を取った。


「ねえ、令賢れいけん。そういう時はもっと単純に、思ったことをすぐに言えばいいのよ」

「思ったことを?」

「そう。だから令賢れいけんは、翠蘭のことが好きだ! って言えばいいの。私はそれだけで十分幸せ」


 そうか、と言って、令賢れいけんは私を抱き締めた。私の耳元で、「翠蘭、初めて会った時からずっと大好きだ」という言葉が聞こえる。


 私よりも随分と背の高い令賢れいけんの胸に埋もれて息苦しくなった私は、もぞもぞと動きながら令賢れいけんの肩の上にちょこんと顔を出した。


 目に入ったのは、美しい三日月。


 私はこれからも後宮で暮らして、できれば命が尽きるその瞬間まで、こんな三日月と令賢れいけんを見ていたい。


令賢れいけん、行こう!」


 六年の時を経てやっと素直な気持ちを伝えあった私たちは、誰もいなくなった後宮を、夏耀殿に向かって歩いた。



(おわり)

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私も一応、後宮妃なのですが。 秦 朱音@書籍3作発売中! @akane_mura

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