第11話

令賢れいけんと話さなきゃ)


 今晩来るかどうかも分からない令賢れいけんを、私は夏耀殿かようでんの外で待った。

 三日月が雲の間から顔を覗かせ、池に映り込んでいる。私は池の傍にしゃがみ込んで、水面で揺れる月をじっと見ていた。すると、その三日月を隠すように人影が現れる。


令賢れいけん

「こんなところでどうした?」

令賢れいけんを待ってた。今日は来てくれるかなって思って。陶妃様が後宮を出たの」

「知っているよ」


 そうでしょうね。追い出したのは貴方だもの。

 私は立ち上がり、衣についた土を払った。


令賢れいけん。陶妃様に聞いたんだけど、貴方が後宮の妃たちを全員追い出したんですって?」

「追い出したとは人聞きが悪いな。皆、俺の妻になるよりもっと幸せな生き方があったんだろう」

「後宮を出た後に不自由なく生活できるように、全て手配したと聞いたわ」


 令賢れいけんは気まずそうな顔をして、後ろ手を組んで月を見上げる。


「……翠蘭は、まだ後宮を出たいと思っているか?」

「私?」

「もうこの後宮に、翠蘭以外の妃はもういない。俺に女心が何たるかを教える必要もなくなった。翠蘭が後宮を出た方が幸せになれるなら、俺はそうするつもりで……」

「ちょっと待って!」


 私と目を合わせないまま喋り続ける令賢れいけんに向かって、私は叫んだ。


 私たちはまだお互いに、ちゃんと本心を言っていない。

 男心とか女心とか、愛されないとか愛されるとか。

 そんなものは飛び越えて、気持ちを伝えあわなければ。


「翠蘭、何?」

「えっとね、私が後宮を出たいか出たくないか、そんなことは関係ないの。私は令賢れいけんに謝らなくちゃ」

「謝る? 何を?」

「私、今までずっと自分のモヤモヤした気持ちを令賢れいけんのせいにしてた。令賢れいけんが私のことを愛してくれないって、そんなことばかり思ってたの」

「あ、愛っ……?!」


 月の光に照らされて、令賢れいけんの顔が赤らむのが分かる。私はそのまま令賢れいけんの元に走り、思い切り大きな胸板に抱きついた。


「翠蘭!」

令賢れいけんが私のことをどう思っていたとしても、私が令賢れいけんのことを大好きな気持ちは変わらないのにね。だからもっと早く言えば良かった。私は令賢れいけんのことが大好きよ」

「翠蘭、それは……」


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