おうちへ帰りたいの……。 🩴

上月くるを

おうちへ帰りたいの……。 🩴





 ズボラな猫のように(笑)ごく大雑把に洗顔する。🐈

 タオルで拭いた鏡のなかの顔は、ひときわ小さい。🪞


 見るたびに縮んでいくように感じるのは、気のせい? それとも事実の進行形?

 なぜか目の形と光だけは若いころのままの自分を、ふしぎな生き物のように見る。



 これナニモノ?

 どこから来た?

 どこへ行くの?

 乗り物はなに?

 それとも徒歩かち



 とつぜん、こみあげるようなしゃくりあげるような悲しみがひゅうと噴き上がる。

 なぜ、こんなところにいるの? わたしがいるべき場所はこんなところじゃない。



 ――わたし、おうちへ帰りたいの……。(ノД`)・゜・。



 ここではないホントウのおうちへいますぐ帰りたい、さびしくて凍えそうだから。

 お願い、だれか、わたしの手を引いて、安心してくつろげる場所へ連れて行って。




      *




 友人知人や有名人の名前、好きな小説や映画のタイトルなど固有名詞が出て来ないことはときどきあるが、いうところのアルツハイマー認知症ではないと思っている。

 

 げんに、毎日、判で押したようにネット小説をアップしているし、筋トレやヨガのルーティン、読書も欠かさないし、好奇心は若いころよりむしろ旺盛になった……。


 そうは思うものの、鏡のなかの心細げな顔を見ると、しまいにどんどん小さくなりウスバカゲロウのように透き通って、やがては露になる……そんな不安に駆られる。

  



      *




 薄い眉を補正してリビングへもどると、最初のうちこそ驚いたがとうに慣れっこのオオカミ少年になっている、行方不明者の地域放送が風に吹きちぎれて飛んで来た。


 公民館前の広場に防災用として設置されたスピーカーが、もっぱら徘徊者の探索に使用されることに馴れてしまい、まただれか彷徨っているね……淡々とやり過ごす。

 

 どうせ数時間後には「さきほどの~、行方不明者は~、無事に発見されました~」妙に間延びした声が市内全域に流されるのだから、本気で心配してもしようがない。




 

            🎪👡🖼️🎠🎡🪅📮🍀





 とは思うものの、今朝の心の危うさは、明日の彷徨う自分を十二分に想像させる。

 もしかしたら、帰るべき家を探している人、あちこちにいるのかも知れないな~。



 これナニモノ?

 どこから来た?

 どこへ行くの?

 乗り物はなに?

 それとも徒歩?



 朝、洗面所の鏡とそんな問答をしている人たちが、平気な顔で街を歩いているんだけど、ほんとうは仮の宿から移る場所が見つけられずウロウロしているのかも……。




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