机上の食論

机の上にはまるこいガラス。半分入れた水の中では赤白黒がらめいている。


目あり鼻あり口あり尾あり、あり胴あり尾びれあり。 命あり。


その名を金魚、金に恵まれることはないが買った。


食らえばなにやら変わるやもしれん。食らうとは何かを得ることだから。


幸のない男。何も得られなかった男。何かを得ていたとしても男は知らぬ。それを見ようとしないのだ、それを自覚しないのだ。

故に幸なく得もなし。


金魚に触れる。触れられない。触れると思えば手を抜ける。必死にやれば踊らせるだけ。勢いついて鉢を倒した。


ボタタタボタタと畳へ滑る。畳は快く水を迎え入れた。自分が腐ろうと知ったことではない。


男はため息をつき衣で拭う。畳に伏せたことで掴めた金魚を鉢へ投げ、空鉢に水を注いだ。


そして再び机上である。


空論・没理想は意味を成さない。畳上で泳ぎ、疲れもしない。幽らる金魚はこちらを見ない。


自己を案じ、産みし今も途端に進みがかたくなる。胃には居らぬ、目前にはオル。金魚が鉢


それからいくら経っただろうか。


眠る眠らぬは既に知らぬ。乾いた見る目を潤わすため、鉢を頭上で撒かすのだ。


三色金魚が頭上で跳ねる。音すら鳴らぬ、小さな命。二・三度跳ねて、畳に落ちた。


ビチビチビチビチ鳴らぬ音。もしやそこにいないのか?


指先に伝わる金魚の温度、水そのものの冷たさだ。


なんだあるではないか。死なさぬために鉢へ入れる。赤白、黒なき口鉢だ。


金魚が確かに跳ねるのだ。ビチビチビチビチ跳ねるのだ。ビチビチビチビチビチビチビチビチここに在るのだ私に有るのだ。


これは私の得たものだ。私が赴き、私の金で、私が選んで、私が勝った。私が落として、私が掴み、私が含んで、私が得た。


さあ、私が得たものよ。舌上で泳ぎ、私上で論ずる在るものよ。


お前はほんとに私の物か?


噛、めない。咀、嚼ができない。ただ触れることもできず、金魚は腹へと落ちてしまった。


喉に物はあったか?腹にはちゃんと落ちたか?


お前は本当に在ったのか?


金魚の赤は、ない。金魚の白は、ない。金魚の黒は、ない。


ないない願望ない在るない! 私の物ない



私は何も、食っていない


「空鉢に落水」

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食らえば転ず 青空一星 @Aozora__Star

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